One piece of strawberry shortcake


甘い、甘ったるいにおいの中心に、俺はいた。

明るくてキラキラしてて甘くてフワフワ?な雰囲気に包まれながら、どうしてこんなところに…と一瞬どこかに意識を飛ばしたくなる。…男一人でケーキ屋だなんて…周囲の視線が気になってしょうがないよ。
…10、20…30…? ケーキって言っても、思ってたよりいっぱい種類があるんだな… ど、どれがいいだろう。

「どのような商品をお求めですか?」
「あ、ええと…カットしたのを一つ、買おうかなと…どんなのがいいですかね。いっぱいあるから迷っちゃって、あはは…」
「パリパリのチョコチップを散らしたチョコレートケーキなどいかがでしょう。男女問わず人気ですよ」
「チョコケーキかぁ。おいしそうだけれど、うーん…」
「季節のフルーツをふんだんに使ったタルトも華やかですよ。贈り物にも合うかと」
「おいしそうだ…俺も食べてみたい。…じゃなくて、ううーん…」

考えを巡らせて散々迷いながら、…満面の笑顔で受け取ってもらえる。…とは思ってない。またあーだこーだと悪態を吐きながらむくれ顔でひったくられる袋。入れられたケーキはその勢いに傾いて倒れてぐっちゃりで、…うん。一口でも食べてもらえばそれで満足さ。
…考えながら悲しくなってきた。俺ってヤツはそんなことのためにわざわざケーキ屋くんだりまで来たのか?あらかじめ調べをつけておいた近所で評判の良い店に足を運んで、眉間にシワを寄せながらケースの中で光り輝く宝石みたいなケーキたちを見比べて…

たまに見せる、笑ったときの瞳の輝きを思い出す。キラキラでやわらかくて、俺に見せてくれるその優しさを意識すると胸の芯が暖かくなるんだ。










- - -

「んっ」
「?」
「どーぞ」
「うん? うん、」

予想のまんまの訝しげな顔。

「? ケーキ、だ」
「ああ」
「このケーキ、どうしたの?」
「買ってきた」
「買ってきたって、ロイが?」
「ああ」
「…ひとりでケーキ屋さんに行ったの?」
「うん」
「なんで?」
「……」

頭にいろんな疑問が浮かぶのは分かるけど、そんなことはどうでもいいから、

「どーぞ、って言っただろ。食べて」
「う、うん。いいの?」
「どーぞっ」
「私だけ、食べるの…?」
「そりゃそうだよ。だってそれはフィオのために買ってきたものだし」
「? なん…っ」
「……」
「い、いただきます…」

無言の睨みに目を円くしたフィオがいよいよケーキに向き合う。

「…ロイ」
「なに?」
「………ありがと」
「…食べてから言ってくれよ」
「うん」

フィオがクリームたっぷりの苺を頬張り、ゆっくり噛みしめる。
最初に苺をいくのか。

「あまくてすっぱぁい! んん〜、まるでぼくときみの恋愛のようだ…」
「俺とアンタがいつそんな恋愛なんてものをしたんだよ」
「まあ待って。ちょっと聞いてくれよ。ショートケーキの苺っていつもすっぱいよね。少なくとも私の食べてきたショートケーキの苺は甘かったことなんて一度だってなかった。幼い私はそれを、ケーキ屋が使う苺の量は半端ないから全部が全部甘い苺を用意できなかったんだな、ケーキ屋も大変だな… とか思ったりしてたんだ。でも実はそうじゃない。クリームも甘いスポンジ生地も甘いこれで苺も甘かったらこれはただの甘ったるいケーキになってしまう!ということで苺はあえて少しすっぱいものを用意させて味のアクセントにしてるんだな〜ケーキ屋お主も悪よのう〜、なーんて! …ってコラぁ!」
「うまい。甘さがしつこくなくておいしいなぁ」
「ああ…ショートケーキの先っぽが…」
「早く食べろって言ったよな、俺。なのに訳のわからん熱弁を振るいはじめたフィオが悪い」
「む…」

一舐めりした唇を尖らせるフィオは、それでも談笑を挟めながらゆっくりとケーキを食べてくれた。

そしてあの、宝石みたいな光を放つ瞳が俺の心を優しくする。

「ありがとう、ロイ」

ほんのひとかけらでいいから。

俺を優しくしてくれた君が、俺と同じように暖かい気持ちになってくれたなら。
君が優しくなること。その手伝いを俺が…俺が出来たらいいと、そんな願いが胸の奥の優しさに寄り添っている。

ほんのひと時でも、かすかなものでも。
いつか、叶えてみせるから。
必ず、俺は、
君を、

- - -
なけなしのお小遣いを握りしめて走るロイさま。がんばれ。(副題)

…5日遅れになってしまいました…orz
150714
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