07
最近またよく夢を見るようになった。といってもスプラッタな夢ではなく、ただの日常を切り取ったかのような平和な物だ。
調査兵団という軍の「兵士長」という地位について数年、今日も「壁外調査」に赴いていた。
今回もまた兵士の被害は甚大でそちらこちらで見かける死体の一部に思う事もありながらも、生存者の確認のため戦闘が行われたと思われる蒸気を目当てに「立体起動」を駆使しながら駆けていた。
その中で一際蒸気の立ち込める箇所を視界にとらえ、速度をあげ刀を構え突入する。

立っていたのは一人の女だった。蒸気のせいでよく顔が見えない。
まわりには巨人の躯、仲間の肉片。自由の翼を血まみれにした小さな女がこちらを振り返った。

「兵長…」

その声はどこかで聞いた声だった。



目覚めは最悪だった。
といっても仲間を目の前で食われたわけでもない、今までとは違う、とてつもない腹立たしさだった。何かとてつもなく大切なことを忘れている、そんな自分への腹立たしさ。
前世の自分が生きていた人生の中で半数を占めるような、重大な何か。
そんな大切なことを何故忘れているのだ。もう何十年も生きてきた、それなりに酸いも甘いも知った大人になったというのに、いまだ満たされることのない人生を歩んできた。
でに今日のあの夢の女。
自分よりも小さく弱弱しい背中に優しい声、こちらを振り返った表情がよく見えない。でも、あれを思い出してしまえばすべてが終わり満たされるという直感があった。

いつものように理科室に向かう。二組という事は、なまえという生徒がいるのか、とふと思い出した。
もしかしたら今日のあの夢の女は彼女なのだろうか。そんな確証のない考えをする当たり、夢ごときに振り回されている自分に笑った。
小さな背中、骨と皮しかない華奢なあの生徒。今日もひどい隈をつけて授業の事前準備をしているのかと思うと自然と足は速まった。

「あ、リヴァイ先生。」
「…お前は確か、ぺトラといったか。」
「はい。あ、えっとなまえは今日ちょっと体調が悪いので次の時間は保健室で寝かせてます。なので代わりに準備は私がしますね。」
「そうか、わかった。今日はDVDだけだからこれ、チャプター3から再生できるように設定しておいてくれ。」
「わかりました。」

変わりで来たというぺトラに教材を渡し、時間になるまで裏の準備室で授業内容の確認とコーヒーを一杯入れる。
普段からあまり積極的に人と関わることはなかったが、なまえに関してはなるべく声をかけるようにして数週間。わかったことがひとつだけある。
人に対して過剰なまでに壁を作って生きている、ということが。
まず目を見て話さない。眠そうだからというのを抜きにしても常に視線は下を向いている。比較的仲が良いというぺトラという生徒と話すときでさえ、作ったような曖昧な笑みを浮かべて対応しているのを見かけたことがある。
それが俺やハンジに対してはやけに過剰だ。ハンジの野郎は嫌われても仕方がないほど普段から雑用やプリント作りを頼んでいるらしい。
しかし、俺はどうなのだろう。特に嫌われるようなことをした覚えもなければ、そこまで雑用を任せた事もない。授業の特色的にどうしても事前準備のためこうして授業前に手伝ってもらう事はあるが、それは学校の生徒ならば誰もが理解しているはずだ。特に三年生ともなればなおさらである。
やはりかかわりすぎたか。人見知りの人間は積極的に構われるのは苦手とする。

しかし知りたい。その夢の内容が。
日に日に痩せて言っているのではないかと錯覚するほど華奢すぎる体型。青白い肌にひどい隈でふらふら歩く姿を見かける度ほおってはおけず、つい話しかけてしまう。
ハンジに無理やり手伝いを任された日などはそのまま保健室に向かわせて休ませようとするも、責任感の強さから力なく笑って雑務の手伝いをしてくれる。

授業開始の鐘の音を聞いて、飲みかけのコーヒーを机に置いた。
この授業が終わったら、保健室に顔を見に行こう。眠ってくれているといいのだが。


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bkm
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