05
「夢を見るらしい。」

突然顔なじみであり同僚であり腐れ縁であるリヴァイに呼び出された時は、またお小言かな、と若干覚悟しつつもそれに応じた。
突然部活内で発生した問題の対応のため、仕事の手を中断したはいいものの急ぎの仕事であるが故偶然たまたま隣にいたリヴァイにそれを押し付けた。途中、自身のクラスの女の子を発見したのでついでにリヴァイを手伝うようお願いしたのだ。
彼女の名前はなまえ。
性格は大人しい性格であまり自己主張はしない方。かといって友達がいないという訳ではなく少数ではあるが仲の良い子はいるらしい。成績はかなりよく、主に歴史や物理、古典が得意だが運動はからっきし。
いつも目の下に大きな隈があり、顔色はあまりよくない方だ。両親から話を聞く限り小さい頃に精神的に色々無理があったらしくその後遺症、という話で中々深い事情を持っている女の子だ。
だが面倒見がよく他人の意をくみ取ることに長けているためクラスには溶け込めている。あの気難しいリヴァイともうまくやっているらしく、物理係りは不本意の結果らしいが結果オーライみたいでリヴァイも彼女に関しては文句の一つも聞いたことないので、とっさに姿を見た時リヴァイといえばこの子!という感じでついお願いした次第である。

自分のごたごたが終わり、理科準備室に戻ると二人は言葉をかわす事もなくもくもくと作業をしていた。
謝りつつ部屋に入るとリヴァイには般若の顔で睨み付けられ、なまえはそれを見てへらりと力なく笑った。そんな彼女にリヴァイは一言「もう帰っていいぞ、ちゃんと寝ろよ。」と幾分か優しさを孕んだ声でそう語りかけ、なまえもはい、と返事を返し私とリヴァイに一礼して部屋を出て行った。
それからのリヴァイの小言と説教と躾という名の暴力については皆まで言うまい。

とまぁそんな事があった後、リヴァイはどこか難しそうな顔でずっと考え事をしていた。
そしてすべての業務が終わった夜。誰もいなくなった職員室でぽつり、と漏らした。

「夢?夢って……例の?」
「さぁ、それかどうかはわからねぇが…あいつ、なまえは少なくとも目覚めが最悪になるような夢を定期的に見ている可能性がある。」

なまえが?
そう言われてみると確かに彼女はいつも目の下に隈ができていて、ひどい時は体育も休んでいた気がする。
普段はそこまで目立たないが今日は一段と隈がひどかったように見受けられた。

「私達から言わせたら夢って言ったら…巨人だね。」
「ああ、あの夢を見た日は気分は最悪だがな。」
「ええ?そう?私そこまで最悪にはならないよ?」
「それはてめぇだけだ、ハンジ。」

私とリヴァイはいわゆる幼馴染という関係と言っていいだろう。たまたま家が隣近所で、たまたま年も近かった。だから知り合うのは自然だった。
小さい頃、一週間に一回程度の確率でとても短い夢を見ていた。内容は違うが大まかな設定は二人揃って一緒だった。
巨人や壁の話。非現実的な夢の内容が二人一致するというなんとも不思議な現象だった。
幼い頃は一人の人間の一生を自分と同じスピードでなぞっていくものだった。平和ではなかったが、それでも不幸ではなかった人生。信頼できる仲間もいて友達もいた。熱中できる事もあってそれなりに幸せだったと思う。リヴァイの方はそうでもなかったみたいだけど。
中学を上がった頃から夢の内容はスプラッタになっていった。グロテスクな巨人、食い散らかされるかつての仲間、友人、上司、部下、同僚。
この夢をもし一人で見ていたとしたら確実に寝るのが怖くなっていたに違いない、というレベルまで追い詰められたこともある。リヴァイはそうでもなかったみたいだけど。残念なことに。寝るのが怖い、なんて可愛い事を言うリヴァイも見てみたかったなぁ。
まぁそんなこんなで一週間に一回見る事もあれば一か月に一回見る、不定期な夢の内容。
これはきっと私の前世かなにかなのかな、と大学生になる頃にはぼんやりと理解していった。

そして不思議な事に夢の中の友人や同僚に現実世界で再開することもあった。
それはそれは不思議な感覚で目の前にいる人間は幽霊なのかと最初の頃はビビッていたものだ。それの最初の餌食は実はエルヴィンだったりする。
初対面のエルヴィンに殴りかかったのはいい思い出だ。だって幽霊か妖怪の類だと思っていたのだから。

そんな感じで、私とリヴァイと、ついでにエルヴィンやミケと共通の認識として、夢といえば前世の自分の軌跡という認識だった。
壁の外で巨人を駆逐する。そんな神話の時代の作り話のような出来事を夢の中とはいえ体験しているのだ。私の友人たちは。

「あいつが見ているのが俺たちと同じとは限らねェ…が、」
「が?」
「なまえはちっせぇ声で確かに『巨人』という言葉を口にした。これは間違いない。」

それはもう決定打じゃないかい?そう聞くと、ただ単にガキが海外映画でも見て夢に出ただけかもしれねぇだろ、と一蹴されてしまった。
しかし、巨人という言葉は夢の中では三大キーワードである。『壁、巨人、調査兵団』私やリヴァイを表すものとしてあげられる言葉の代表各。
もし彼女が同じ夢を見ているとしたら。

もし彼女が、あのスプラッタな夢を見ているとしたら?

「なんとかしてあげたいね…」
「ああ…」
「もしかしたら、彼女が最後の鍵かもしれないしね。」
「それはどうだろうな。」

最初にリヴァイがいた。そしてエルヴィンに出会って、中学に入ってミケと友人になり、大学でモブリット達が後輩になったとき、私は夢を見なくなった。
夢の中で私が親しくして信頼していた人と、また現世で知り合い親しくなったとき、夢を見なくなった。同様の事がミケやエルヴィンにも起こっている。
ただその中でリヴァイだけが未だに夢を見続ける。
回数は減ったとはいえ、あまりいいものではない前世の夢。幸せな夢の日もあると言うが、明らかに機嫌が悪い日は大抵前世の夢を見た日だと長い付き合いでよく理解している。

出会いは鍵。残酷な夢を終わらせるための。
リヴァイの最後の鍵は、もしかしたらなまえなのかもしれないと、ハンジはゆっくりと目を閉じた。


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