03
物理係とは中々ハードな仕事である。まず教材運びが大変だった。
リヴァイ先生は教科書読むより実際に見て覚えろ百聞は一見にしかず的な教育方針の先生で、実験や検証がメインの先生であった。故に授業は必然的に理科室の授業が多く、授業が始まる前にあらかじめ教材などの用意を主に物理係が任されるのだ。
そんな先生の授業だからこそ雑用が増えてしまうのだが、寝てしまっていた私が悪いのだから仕方ない。そして仕事量が多い割に誰もやりたがらないから物理係が私一人しかいない、というのもまた難点であるが。
大きなため息を一つ吐きながらも職員室から借りてきた理科準備室の鍵を開ける。
ガチャリと音を立てて難なく空いたドアの向こうにはまさかの人が悠然と座っていた。

「…あれ、リヴァイ先生だ。」
「…何か用か。」
「え、あー次の授業の準備です…2組の選択授業の。」
「ああ…ならあれと、それ、運んでおいてくれ。それとこのDVDもセットしておけ。」
「はーい。」
「その教材は重いから無理すんなよ。俺はちょっと職員室行ってくるが、すぐ戻るから持てなさそうなら待ってろ、手伝ってやる。」
「了解です。」

用件だけ伝え終わると授業モード用の白衣を翻して理科室を出て行った。
手始めに手渡されたDVDをデッキにセットしておく。テレビをつけて映し出されたのを確認してから、準備室の教材を運び出す。
授業と授業の間の10分間という短い時間で、たった一人で次の授業の用意をするのは中々時間との勝負であると毎週思っている。しかもこの物理の授業は選択式で私は残念ながら生物の選択をしたため教室も違う。

先生の言った教材はその言葉の通りかなり重かった。といっても歯を食いしばって踏ん張ればギリギリ行けるとも思える重さであった。
準備室は教卓のすぐ後ろだ。この短い距離ならなんとかなるだろう、と思い気合を入れて持ち上げた。

「やめろ、足震えてんだろうが。」
「いやいや…ギリ行けます…っ」
「壊されたら迷惑だ。貸せ。」

丁度私が気合いれた途端頃合いを見計らったかのようにリヴァイ先生が帰ってきた。本当になんとかなりそうだったのに有無を言わさず手の中の教材を奪われた。
先生についていくように理科準備室を出ると机の上に置いておいた私の教科書とノートと筆記用具を手渡された。

「もうすぐ始まる。鍵は俺が預かっておいてやるから早く授業行け。後片付けの時にまた来い。」
「おお、助かります。ありがとうございますー」
「いや…、」

教科書類を受け取ってポケットにいれてあった準備室の鍵をリヴァイ先生に渡すとそれをぶっきらぼうに白衣のポケットに入れて、さっきせっとしたDVDをリモコンで操作し始めた。
一旦職員室に行って帰るという手間が省けたため、いつもより早く終わって余裕を持ってハンジ先生の趣味と実用を兼ねた生物の授業に間に合いそうだ。
テレビと睨めっこを始めた先生に一礼して、理科室を出ようとする。

「お前、筋肉落ちたな…」

ぽつり、とつぶやかれて消えた言葉。はて、筋肉とはなんだろうか。

「先生、私元々帰宅部だから鍛えてはないんですけど…、」
「あ?…そうだったか?」
「はい…」

何かひっかかりを感じたが授業五分前を知らせる鐘の音を聞いて慌てて部屋を飛び出した。


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bkm
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