13
もし夢を見たくないなら、元の関係に戻ればいい。
前世で結ばれた縁を再び結び直せばその悪夢は終わりを告げる。
現世で再び結ばれた縁が前世で出来た縁を断ち切ってくれる。

ハンジ先生がそう説明してくれた。
新しい世界で自分が疑問に思ったものを研究して解明して教えてあげるって、約束したもんね。そう言って笑った先生の笑顔はとても清々しかった。
やっと約束を守れた。忘れていて御免。

「さて、私はここまでだ。私は君の上司でも部下でも友人でもなかった。ほとんど係りも持たずお互いに名前だけ知っているという浅い関係だったから、きっと君の役には立てないだろうし現に未だに夢を見ているのならこれ以上してあげられる事はない。」
「…いえ、そんなことは…」
「君と深い関係を持ち、なおかつ未だに夢を見続けているのはこの世界に一人しかいない…あとは二人で決めるといいよ。」

よしよし、と優しい手が頭を撫でる。

「リヴァイ、あんまり怖がらせちゃダメだからね!」
「うるせぇクソメガネ、早く出てけ。」
「はいはい…まぁ、うまくやんなよ。」

ヒラヒラと手を振って飲みかけのマグカップを持って部屋を出ていく。
また来週ね、と一言声をかけ無情にもハンジ先生は理科準備室を出て行った。



気まずい雰囲気。それでもまだ以前までのほうがいくらかマシだったような気もする。
リヴァイ先生はあきらかに怒っている。昨日からずっと、私に対して怒っている。
今も昔も怒ったリヴァイ先生には私も手が付けられなかった。そのまま引きずられて毎晩毎晩攻められる手に耐えるしかなかった。
そんな関係を再び築けとは無理難題すぎる。

「なまえは、もう俺に気持ちがないのか。」
「…え?」
「俺に向けていた情の欠片も、いまはもうないのかと聞いている。」

そんな、そんな事はない。
夢の中ではいつだってリヴァイ兵長は優しく私を守ってくれた。残酷な世界、生きているだけで息苦しくなる壁の中で、リヴァイ兵長の腕の中だけがいい空気が吸えたのだ。
優しくて強くて、小さい私が巨人に襲われる夢を見た時いつもいつも助けてくれた夢の中のリヴァイ兵長が私の初恋だった。

「でも、私…先生は先生で、」
「あと半年もすればお前は生徒でなくなり、俺もお前の先生でなくなる。何も問題ない。」
「でも先生だって何年も生きて新しい人生があって、それで…好きな女性とかいたんじゃ、」
「いねぇ、女には興味がわかなかった。」

年期の入ったソファの軋みが聞こえた。俯いていた顔をあげるとすぐ隣に仁王立ちしているリヴァイ先生にその威圧的な目で見下ろされた。
しかしその目には怒りは宿しておらず、悲しみの遣る瀬無さが滲み出ていた。

「下世話な話だが…俺は女に興味がないが経験はそれなりにある。だが、興奮しない。」
「うぇ…、な、なんですかっ…いきなり!」
「あんなもの、ただの排出行為でしかない。便所でクソするのと同じレベルだ。汚ねぇし疲れるし、それでも出さないといけねぇっていう男の身体も中々面倒でな。」

私の座るソファもギシリと音を立てた。覆いかぶさるようにリヴァイ先生が体重をかけてきたため、二人分の重みにソファが小さな悲鳴を上げた。
悲しみを宿していた目の奥にわずかな熱を感じ取って、これはまずいと警告を鳴らした。

「でも、昨日、お前の泣きながら眠る姿を見て、わずかな興奮を覚えた。」
「…先生、それ、セクハラです…っ」
「俺は本能でお前が欲しいと感じた。まだなまえとの関係を思い出す前に、俺は興奮した。」

手が頬に触れる。撫でるように上下する手が昔と全く変わらず骨ばっていると、くだらない事に気付く。その手に何度救われたか数えきれないほど私はこの手に触れられると安心するのだ。
幼い頃から見せられていた夢。刷り込まれたのはどうやら恐怖だけではなく、リヴァイという男の一挙一動全てに反応するように私自身も刷り込まれていた。
久しぶりに愛しい者に触れられて私の本能が歓喜した。喜びに震える身体、涙が浮かぶ目。そして少しずつ荒くなる息。
なにもかも私はずっとこれを待っていたのだ。

「ほんとは…ずっと、待ってたの…」
「悪かった。思い出してやれなくて。」
「ん…でも、思い出してくれたからいいや…、先生?」
「なまえ、俺が生まれ変わったらどうしたいかという質問になんて答えたか、覚えているか?」

生まれて十八年間、ずっとずっと抑えてきた感情が溢れだした。
再会して我慢してきた先生への想いがとめどなく苦しくなるくらいこぼれて、もう洪水状態だった。

「俺を選べ、なまえ。この世界で今度こそ俺はお前を幸せにする。」

かつてできなかった願望を。この世界で叶えよう。二人で一緒に。

「生まれ変わってもずっとずっと一緒にいよう。」

そんな甘い言葉も吐けずにひっそりと後悔した一人の男。
少女趣味だと言って虚勢を張った一人の女。

ゆっくりと触れ合う口づけ。
いま、二人の縁は再び結ばれたのだった。


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