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その日、ハンジは久しぶりに夢を見た。
もう二度と見ないと思っていた前世の夢。

友人であり同僚であるリヴァイが生涯で唯一愛というものを惜しみなく注いだ一人の少女とたまたま食堂で出会った。
向こうもこちらを知っているようで一緒に食べますか、と誘われたので向かい側の椅子を引いてそこに腰かける。
他愛ない話のあと、向かいの少女が唐突にある一つの疑問を問いかけてきた。

「もし生まれ変わって、巨人も壁もない平和な世界で、自分のしたいことが好きなようにできる世界だったら、ハンジ分隊長はどうされますか?」

そんな世界は夢のようだね、そういって互いに笑った。
でもそうだな、もしそんな夢みたいな世界で生きていけるなら、

「自分の興味のあるものをとことん研究したいね!巨人だけじゃない、きっと壁の外にはもっともっと不思議で不可解な事がたくさんあるだろうから!それをひとつひとつ研究して解明して、それを私がみんなに教えてあげたい!」
「ハンジ分隊長らしいですね。」
「そうかな?あ、もちろんなまえには一番に私の研究と成果を教えてあげるよ!」

そう言うと、なまえはとてつもなく嫌そうな顔をしながら世辞の言葉を口にした。相変わらず本音と建前が逆の娘だな、とまた可笑しくなって笑った。



その日、リヴァイはまた夢を見た。
前日に見たものとは違うが、今度は目の前の女に蒸気などの障害物はなく今回は顔がよく見えた。

なまえはリヴァイの部下ではなかった。特別作戦班として面子を選出していた時、彼女だけは真っ先に入れようとしたのだが彼女の戦闘能力の高さを顧みるとどうしても彼女をリヴァイ班に入れると戦力に偏りが出てしまう。その結果を考慮して泣く泣くなまえの特別作戦班入りは断念した。
班が違えば会う機会も減る。そんな彼女に会いたいがためにわざわざ違う班にも関わらず雑用をさせたり呼び出したりと職権乱用とも取れる形で毎日数時間の逢瀬を重ねていた。
なまえ今日もの班の新兵からの書類にミスがあったというだけのつまらない用事を作ってはなまえを呼び出した。その書類のミスなど五分あれば直せるのに、かれこれ三十分は拘束している。

「ねぇ、兵長はさ…もし巨人も壁もない平和な世界で、自分のしたいことが好きなようにできる世界に生まれ変わったらどうする?」
「…なんだ、それは。」
「もしもの話ですよー。ねぇねぇ、どうする?」

なまえの煎れたコーヒーを手に二人で忙しい執務の束の間の休憩を取っていた時、茶請け話にとなまえが話はじめた「もしも」の話。
ただの他愛ない、話。

「どうするって…どうするか、」
「知らないですよ、兵長自分で考えてください。」
「あー…、そうだな…俺は別に普通でいい。」
「普通?」
「好きな女作って結婚してガキつくってガキのガキでも可愛がって最後はガキ達に看取られればいいか。」
「おおー以外と普通。」
「なんだ、悪いか。」
「いいえーいいと思います、人間が歩むべき人生のテンプレですね。」

そういってなまえは笑った。
確かに、この世界ではそのテンプレ通りの人生を歩むのは難しい。調査兵団ならば尚更。
そうなまえ笑ったは、どこか寂しそうだった。



「お前はどうしたい、なまえ。」
「ほ?」
「生まれ変わったとして、その世界が平和なら、お前はどうしたい。」

反対に返された質問に、大きな目を何度か瞬きさせる。少しの時間逡巡したあと、こちらを見た。

「自由になりたいです。広い世界で、いろんな人と出会って、自由に…恋とかしてみたいなぁ。」
「ほう…俺といると自由ではないと?」
「やだなー兵長、そんなこと言ってないですよお。兵長だって調査兵団っていう狭い檻の中じゃなきゃ私の事なんて興味すらわかなかったはずです。だから生まれ変わったら壁とか調査兵団とか全然関係ない世界で、もっともっといろんな人と出会ったら私より全然素敵な女の人と出会えますって!私もそうしますから!」

だって、
一言息をつき、窓の外を見る。壁に区切られた狭い空を見上げた。

「生まれ変わってもまた一緒になりたいなんて言える程、私少女趣味してませんもん。」

それもそうだな。そう答えるしかなかった。
空を見上げるなまえの目に、リヴァイは映っていなかったのだから。


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