07
壁外調査に行くと、告げた。

食事も終わりお金も払い、さぁ帰ろうと席をたった時、丁度休憩時間に入ろうとしていたなまえがいたので少し話そうと声をかけると二つ返事で了承してくれた。
そのまま二人で店を出て町の喧騒とは少し離れた静かな場所まで連れてきたとき、思い出したようにもうすぐある壁外調査の事を告げた。
調査兵団故、いつかは壁外調査に行く日があるのだろうと、それに俺も必ず行くのだろうと、なまえも理解していたはず。だからこそ、黙って出かける訳にもいかないかと判断してそれを伝えるために今日は会いに来たのだ。
一週間ほどかけて補給物資の設置と巨人の殲滅のために壁の外側にいくのだ。調査兵団にとっては当たり前の任務、だからこそ業務連絡のように当たり前の報告をした。
しかし、それを聞いたなまえは初めてその顔から笑みを無くし、そうですか、と一言呟いた。

「気を付けて、ください…」
「ああ…」
「リヴァイ様なら大丈夫かとは思いますが、それでも気を付けてくださいね…」
「ああ、わかった。」

初めて笑みの消えたなまえの表情は泣きそうな顔をしていた。そんな顔を見るためにここに来たのではないのに。
しかしこんな時なんと声をかければいいのかわからなくなってしまった。女を笑わせられるような話題を自分は持っていない。こういう時エルヴィンなら優しい声でもかけてやれるのだろうが、生憎自分はかなりの口下手だったようだ。気の抜けた生返事をするしかできないとはなんとも情けない。

「どうして、私にそれを報告されたのですか?それを聞いてしまえば、私はリヴァイ様が次に店に来るまで…リヴァイ様が無事に帰ってきて、その後も仕事がどんなに忙しくとも、それを全て放り出して早くお店に来てくださいと、自分勝手で我儘な事ばかり考えるようになってしまうではないですか…」

震える声で呟いて、顔を伏せてしまうなまえ。華奢な方が小さく震えていて、手に持ったお盆をぎゅっと握りしめる。
その小さな姿に自分の何かがじわじわと満たされていくような、浸食されていくような感覚に陥った。

「ならずっと考えればいい。俺が帰ってくるまでずっと俺の無事を祈っていろ。」
「しかし、ご迷惑では…」
「俺の事を考えるだけでどうやって俺に迷惑がかかるのか教えてほしいもんだな。」
「それは、そうですが…でも、こんな身勝手なことばかりリヴァイ様に要求してしまいます…」
「その要求は俺にとって無理難題でもない。無事に帰れというなら無傷で帰還する。一刻も早く店に来いというなら帰還したその日に来てやる。なまえ、お前が俺に要求することはなんだ。」
「…わたしが、リヴァイ様にお願いすること…」

頬に手をかけると、かすかに頬が湿っていた。その事実に少し驚いていると、俺の手に重ねるようになまえ自身の手もそっと重ねられた。
その手にすり寄るように頬をよせると、辛そうに閉じられた目がゆっくりと開いた。
涙の溜まった濡れた瞳がこちらを見上げて、いつもよりずっとぎこちない笑みを浮かべた。

「帰ってきてください…必ず、私の所に…」
「ああ、約束しよう。」
「帰ってきたらまたお食事作らせていただきますね…もちろん、リヴァイ様がお望みならば。」
「ああ、期待している。」
「ふふ…では張り切って腕によりをかけさせていただきますね。」

瞳の端から涙が一筋零れ落ちる。それを拭ってやると、ようやくいつもの笑みをなまえ浮かべたがそこにいた。

「俺からも身勝手な要求をひとつしていいか。」
「はい…なんなりと。」

触れていた手を離し、少し身を屈め前髪が交わる所まで顔を寄せる。少し赤く照れたなまえが戸惑い気味に見上げてくる。
なまえにだけ聞こえるように、小さな声で囁きかける。


「次に会った時は、いらっしゃいませではなく『おかえり』がいいんだが…」

いいか?そう聞くと心から嬉しそうに笑って、お安い御用です、と小さな声で返事をした。


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