08
「ねえねえ!最近どうなの!?例の彼女と!!」

いつも壁外調査で開門待ちの時はそれこそまだ見ぬ巨人へ奇行種ばりの変態っぷりを発揮しているくせに、今日に限っては興味の対象は生憎違ったいたらしい。しかも面倒くさい事に、よりにもよって自分へ向いているらしくわかりやすく聞こえるように舌打ちした。
隣に目をむければキラキラしていた目でこちらを振り返っていた。

「うぜぇ…」
「やっだなー私は二人の運命の出会いを手助けした謂わばキューピットだよ?教えてくれたっていいじゃないか!!ね!!!」
「どうもこうも…無理やり連れて行っただけだろうが…」

別段特に小説の中の話のような運命的な出会いはしていない。たまに外に飯を食いに行ってたまたまそなまえがこの店員だっただけだ。
それにハンジはただ酔っぱらっていただけだ。間違いなくキューピットではない。絶対に。

「どうもこうもねぇ…あそこの飯はうまい、だから食べに行く。それだけだ。」
「ふっふっふ〜私の目はごまかせないよ。噂によると白昼堂々二人で町を歩いていたらしいじゃないか、それもリヴァイが彼女の荷物を持っていたとか!」
「女があの量の荷物ぶらさげていて、それを隣にいる男が手伝ってやらねぇならそいつはもう男として終わっていると思うがな。」

頭のどこかでイライラしつつも、なるべく平静を装って返答する。にんまりと笑うクソメガネのうなじを無性に削ぎたくなるがここは我慢だ。変に反応したら相手の思うつぼである。
するとハンジが騒がしかったのか、いつもは厳しい表情で開門を待っているくせに今日はその表情が若干なりを顰めた顔で前方待機のエルヴィンがこちらを振り返った。その顔からは好奇心という悪魔がにじみ出ていた。

「なんだ、リヴァイにはいい人がいるのか。」
「あっは!エルヴィン表現古いね!そうそう、私がキューピットして二人の出会いをお膳立ててあげたんだけどね!!」
「てめぇは酔っぱらってただけだろうが…」
「可愛くて小柄で華奢な子なんだけど、貴族のお嬢様みたいな雰囲気で愛らしい子なんだけどね?すっごい強くてさぁ、その日も酔っぱらって喧嘩しだした大男二人をいとも簡単に投げ飛ばしてて…あれはいい余興だったなぁ。」
「それは変わった女性だな…投げ飛ばす?」
「うん、っていうより蹴り飛ばす?っていうのか。一人は脳震盪で卒倒させて、もう一人は豪快な回し蹴りでフィニッシュしてた。見た目だけならリヴァイより小さくてふわふわしてて可愛いのに、あの喧嘩を止めていた瞬間はリヴァイそのものだったね!」
「ほう…」

少し考えるそぶりをするエルヴィンを見て、そういえばなまえは元訓練兵の中でもかなり優秀な生徒だったと聞いたことを思い出した。そうなれば当時はまだ団長ではなかったが役職についていたエルヴィンの耳にもその噂は入っていたかもしれない。
そして当時の進路希望は調査兵団だ。調査兵団を希望する訓練兵は滅多にいない、だからこそたとえ成績は下位の者でも調査兵団希望と聞けば訓練兵の成績など事前に調べたりもすることもある。未来の貴重な人材育成のために。
主席確実とまで謳われたのなら、確実だろう。

「なまえは元訓練兵だ。エルヴィンもこの名前に聞き覚えがあるだろう。」
「ああ、彼女がそうなのか。それなら納得だな、彼女の対人格闘術は成績上位だ。小さな身体で相手の死角に入るのが得意な彼女らしい。」
「えっそうなんだ!あれ?じゃあなんでリヴァイはそれ知ってんの!?なんで!!?」
「…ただの世間話のついでに聞いただけだ。女を楽しませんのも男の務めだろう。」
「あっはっは!!リヴァイもちゃんとなまえちゃんの前だとちゃんと紳士やってんだ!なにそれおもしろい!!!」
「てめぇそろそろ黙らねぇと本気で削ぐぞ…」

腹を抱えて爆笑するハンジはそのまま馬から落ちればいいと思う。それに、あまり雑談をしていては他の兵士に示しがつかない。これから行く先は壁の外で巨人の巣窟だ。命のやり取りをする戦場故、今は気を引き締めなければならない。
エルヴィンからも何か言ってやれ、と睨みつけるように視線を向けると、何か考える雰囲気をまとっていた。
この兵団の誰よりも多くを考え、その考えを理解することはあまりできないが、今だけは何を考えているのか手に取るようにわかった。


「…なまえならまだ復隊はできねぇぞ、何しろ親父の足が悪くて店もまだまだ忙しいらしいからな。」
「おや、それは残念だね…彼女なら即戦力だろうに。」
「二年もブランクあるんだ、立体起動はそこらの新兵と同レベルだと思うぞ。」

長いスカートからちらりとのぞく足に筋肉はなかった。腕も細く肩も薄い。対人レベルはいまだ衰えていなくとも、巨人レベルではそうもいくまい。
だからこそ、あの日の昼下がりの言葉に繋がるのだ。

”リヴァイ様の背中を守って戦えるのなら、それはとても魅力的だと思います”

まだ、背中を預ける段階ではない。だから大人しく、俺の帰りでも待っていろ。
今回も必ず帰ると決心して、ゆっくりと開く門の先を睨んだ。


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bkm
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