04
あの日以来、あの軽食屋には週に数回ほど、顔を出すようになった。飯もうまいし酒も豊富、なにより女店員に興味がわいた。
なまえを数日観察してみると、あの夜の動きはどうしたんだというくらい普段は物腰柔らかな女だった。常に柔和な笑みを浮かべ接客に従事し、些細なミスをした他の店員をしかりつける時も、怒るというよりたしなめるというような雰囲気で注意を促していた。
その割に力もあるようで、小柄で華奢という割に以前宴会状態の団体客への酒の注文を全て新品のお盆に乗せそれを片手で運んでいた。男でもその量は少々無理があるだろうという量をいつもと変わらない笑みをうかべて何のことはないという感じで運んでいたのには目を見張った。

「あら、リヴァイ様。こんにちは。」
「ああ、なまえか…」
「はい、偶然ですね。お仕事中ですか?」
「ああ、といってもこれから本部に戻る所だ。」

次の壁外調査のため駐屯兵団の本部へと会議に出かけていた帰り、偶然町で遭遇した。手荷物から確認するに食材の買い出しだろう。両手いっぱいの買い物袋をぶらさげて細い腕に買い物袋が食い込んでいる。
確かにあれだけ繁盛している店ともなると買い物も相当な量になるだろうが、それをまさか徒歩で買いに出かけるとはどうなっているんだこの店の経営実態は。といらぬ心配をしそうになる。

「貸せ、その荷物。」
「あら、お仕事中の兵士様に私の雑用押し付ける訳には参りません。お気遣いなく。」
「そのクソ重たい荷物持って歩いていれば筋力トレーニングぐらいにはなるだろ。それなら立派な仕事だろう。」
「ふふ、以外と屁理屈屋さんなんですね。」
「馬鹿言ってねぇでさっさと寄越せ。」
「ではお言葉に甘えさせていただきます。」

差し出した手にずしり、と重量のある袋を手渡される。これを毎日買いだしているというのだから驚きだ。
店が開店するのは夕方から日付が変わる前までの数時間だけなのに、これだけの量が消費されるということは店のほうは順調なのだろう。その証拠によく見るとなまえの指はアカギレだらけだ。

「あ、そうだリヴァイ様。このあとお時間ありますか?よければうちでお昼ご飯でも食べていってくださいな。せめてもの御礼です。」
「ああ…だが、まだ開店していないだろう。」
「はい、ですので簡単なものしかお出しできないのですが…それでもよろしければ是非。」
「別にそれでもいい。」

あ、でもお酒は駄目ですよ、まだお仕事中ですからね、と冗談を言うなまえを鼻で笑ってやると、なまえもいつもより笑みを深くした。




「リヴァイ兵士長!!」

和やかな空気が流れる二人を呼び止める声が後方から叫ばれた。振り返ると先ほど会議に参加していた駐屯兵団の代表が一枚の書類を高く掲げてこちらに駆け寄ってきた。
ゆっくりと振り返ると少し肩を震わせてこちらに目線を下げ重要な書類を一枚こちらに手渡した。

「申し訳ございません、こちらの書類が一枚他の所に混じっていたようでしたので…」
「ああ、わかった。」
「いえ…、」

特に怒っている訳ではないのだが自然と放ってしまう威圧感で相手がびくついてしまう。普段ならそれは対して気にすることでもないが、役職的に対等な立場の人間にもビビられると交渉が中々思うように進まなくなるのでそれは考え事だとおもう。
目の前の、確かイアンといったか。イアンが申し訳なさそうに目を伏せ、手渡された書類を受け取るとジャケットの内ポケットに仕舞い込む。
イアンの目が、隣にいる女性を捕えた。

「ご無沙汰しております、イアン様…」
「なまえ訓練兵か…ずいぶんと、懐かしいな。」
「あら、まだ二年しかたっておりませんわ。」

男の緊張していた顔が緩んだのを見た。


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