03
その後情けなく地面にひれ伏した酔っ払い二人の連れは女店員とこの店の店主であろう男に平謝りして少し大目のお金を置いてそそくさと気を失った男を引きずりながら帰っていった。
周りの客もそれに安堵し、店内はまたちらほらと客の世間話の声がそちらこちらで聞こえ始めた。
事の顛末と女店員の動向をじっと観察していると、その視線を感じ取ったのかふいにこちらを振り返った。

「先ほどはお騒がせして申し訳ありませんでした。」
「いやいやいいよーおかげでおもしろいものみれたしね!」
「そうだよなまえちゃん、今夜もおもしろい余興だったよ!」
「もう、おじさま、見世物ではありません。それに見てください、またお盆がへこんでしまいました…これも弁償していただくべきだったかしら…」
「あちゃ〜派手にへこんでるねぇ…今度からはお盆で殴るなっていう神様からの忠告だな、こりゃ」
「今度からはお盆の淵で相対いたしますわ。これではいくらあっても足りませんもの。」

ハンジと隣の客の常連とおぼしき男性に困ったように受け答えする女店員。丸いお盆が真ん中からボコ、とへこみができてしまっている。そのお盆ではパンは運べど並々に注がれた酒やスープはもう持てまい。

「でもお盆そんなにするくらいなら、大人しくリヴァイにまかせておけばよかったのに〜」
「あら、お客様のお手を煩わせるわけには参りませんわ。」
「平気平気、だって人類最強だよ〜?巨人にくらべたらあんな酔っ払い、リヴァイにとっちゃ赤子同然だよ〜」

勝手なことをべらべらとしゃべりだすハンジの頬は心なしか赤い。完全に酔っている様子を見て思わず眉間に皺が寄る。この酔っ払いと一緒に帰ると考えたら途端に憂鬱になった。
「おい、この酔っ払いに相手してやる必要なんてねぇぞ」そう言ってハンジの足を蹴り上げてやろうとしたその時、


「あら、でも、人類最強なのは壁の外だけで十分ですよ?壁の中でもじゃあ、それでは疲れてしまいますもの。」


にこりと、柔らかな笑みでそう言ってのけた。
衝撃だった。そんな事を言う人間はいままでどこにもいなかった。
人類の希望と持て囃され、人類最強と称えられ、常に人の目に晒された今の状況。つい先日ついに兵士長という役職につき人々の注目はより一層集まり、気の休まる場所といえば自室ぐらいしかなかった。

「それに、つい先日壁外調査から帰ってきたばかりの調査兵団様のお手を煩わせるような事でもありませんでした。壁の中の厄介事は憲兵団の仕事ですし、自分の店でおきた厄介事は私の仕事です。ですから、どうかお気になさらずお食事を楽しんでいてくださいな。」

当然の事だと言わんばかりにそう言ってのけた。周りの客のように兵士である自分たちに助けを求めればいいものを、わざわざ自力で解決している。しかも先ほどの物言いからして、日常茶飯事のようだ。
変わった女だ。
先ほどの仲裁といい、言動といい。

「そうそう、なまえちゃんも腕っぷし立つから看板娘じゃなくて用心棒になりつつあるしね〜」
「ふふ、憲兵団の方たちが当てにならないだけですわ。頼りになる方ばかりでしたら、大人しく私も彼らを呼びにいきますもの。」
「相変わらず辛辣だねぇ…あ、これお変わり。」
「おじさまは飲み過ぎです、そのおつまみのお皿が全部食べ終わったらお持ちします」

隣の男の空になったコップを手に持って頭を一度下げ、そのまま奥に引っ込もうとする。
思わず女のエプロンの裾を掴み引き留めてしまう。振り返った女の顔をいまようやくまともに見上げた。


「お前の名前を教えろ。」
「ふふ…なまえ、と申します。人類最強様。」
「リヴァイだ。そう呼べ。」
「はい、ではリヴァイ様。お酒のおかわりはいりますか?」
「ああ、もらおう…」

はい、と返事を返して今度こそ店の奥に下がっていった。
ついていない夜と思ったが、中々いい出会いがあったことに満足しつつ、再び運ばれてきた酒に舌鼓を打った。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -