05
そんな訳で無事に壁の中に帰ってこられたのが昨日のお昼過ぎのお話。
そこから地下牢に幽閉されたのが昨日の夕方の話。でもさすが憲兵団なのか中々のくずっぷりで調査兵団がいない所では暢気にお酒飲んだりしてるのを見て素直に関心してしまった。クズみ磨きをかけたらクズもクズで胸張れるんだな、とよくわからない所まで考え至りそのあとこの世界の政治家とか天下り先とか私がこの先生きるにあたって至極どうでもいい人間と政治と思想渦巻く世界を案じつつ、夕飯として出されたフランスパン並みに固いパンをひたすら咀嚼しつつ満腹感をどうにかして満たそうとしていたのが夜の話。
その後地下牢とは中々に蒸れるようでひどい寝汗をかいたのが夜中の話。
日が昇ると同時に起こされたのが、現在進行形である。

「…きたねぇ」

開口一番にそれですか、とても女子に対して失礼だなこの男。人類最強は男としては人類最低だと思いました。
まさに日の出とともに現れた人類最強のお出ましに、寝こけていたらしい憲兵団の見張りたちが慌てて居住いを正していた。正すならせめてその不自然に膨らんでいる酒ビンの入ったポケットをなんとかしろよ。兵長様もそれには気づいているらしく、意味ありげに横目でチラリと視線を寄越していたが、すぐにそれはどうでもいいと判断したのか目つきの悪い目が再び私を睨み付けた。

「おい、こいつを出せ。」
「はっ…しかし、」
「上には許可を取ってある。こいつは調査兵団で身柄を引き受ける事になった。既に各兵団の団長も総統も了承済だ。わかったのならさっさとしろ」
「あれ?普通こういうのって何か裁判とかにかけるんじゃないの?だって私壁外から来た怪しさ満点の女子高生だよ?」
「尋問にかけられたいなら望み通りしてやってもいいが…、まぁ時間の無駄だ。なんせお前には筋肉がない。頭は回るようだが、こんな肉つきのいい身体で逃げようとしても、すぐに追いついて捕まるのが落ちだからな。俺でなくとも、酒に酔った兵士でもお前の手を捻るのは赤子を千切り殺すより簡単だろう」

酒に酔った兵士、という単語を聞いて鍵を開けていた兵士が見るからに動揺していた。兵士ともあろう人間が少し煽られたぐらいで動揺してどうすんだ、と思いつつ目の前に立つ人類最強を見上げる。
腕を組んでふんぞり返るその様子に若干イラっとしつつ、いつか読んだ原作のように蹴り飛ばされて歯を飛ばされなくてよかったと安心する。
放り出されるように牢屋から押し出され強制的に兵長さんの前に立たされる。寝汗でべとべとの私を見て舌打ちをひとつ打つと、そのまま手首の拘束をつかみとって引きずるように歩きだされる。

身長小さいくせに、歩くスピード早いなオイ。
小走りになりつつ転ばないように歩くと、じめじめした地下牢から喚起された廊下にたどりつつ。広く長い廊下をひたすら歩くと開け放たれた扉の向こうに馬が一頭繋がれていた。

「どこかいくんですかー?」
「調査兵団の本部に行く。決定したのはお前の預かる兵団だけだ。調査兵団でお前をどうするか、これからエルヴィンが決める。だから連れて行く。…なんでこんなどろどろな女俺が…チッ」
「じゃああの地下牢に窓の一つでもつけましょうよ、湿気るし、酒の匂いが充満するし、罪人にとってもこっそりお酒飲むあの人達にとっても良くないと思いますが。」

至極もっともな意見を受けて、兵長さんは目を細める。
どうでもいいけど団長さんの何考えてるのかわかんない目も苦手だと思っていたけど、この人の何か考えてますって目も大分苦手かもしれない。やっぱりハンジさんみたいに何考えてるか丸わかりな目が一番わかりやすくて落ち着く。次の動作の対処もすばやくなれるしね。
私を置いてそのまま颯爽と馬の上にまたがると、更に高い位置から見下ろされた。

「なら帰って報告書でもあげるとする…どうした、乗れ。」
「私の日常世界の移動手段に馬という手段はありません。そして馬という動物は身近にはいませんし、触ったこともありません。そして私の両手は現在このように手錠として拘束されいるのでどうやって乗ればいいのかもわかりません。どうすればいいですか?」
「……お前のその鼻につく物言い、躾けてやらねぇとな。どっちが上か、帰ったら叩き込んでやる。」
「えぇ……い、痛いのはあんまり嫌なんですけど…」
「嫌なら大人しく従え、ったく…しょうがねぇな」

馬からいったん降りた兵長さんが舌打ちしつつ、軽々と私を持ち上げると、無造作に私を馬の上に放り投げる。生き物の背に乗ることなどまず経験がないわたしにとってダイレクトに伝わる生き物の暖かさに戸惑っていると、いつのまにか私の後ろに先ほどと同じように颯爽と兵長がまたがる。
こっちの心の準備など無視して、制止の声も聞かず馬をゆっくりと走らせる。
朝焼けが綺麗だとか、空気がきもちいとか、そういうのを感じている余裕などどこにもなかった。足から伝わる生き物の暖かさと、不本意ながら後ろから伝わる体温に不本意ながらドキドキしてしまう。
残念ながら私は彼氏いない歴イコール人生だ。こんな近くで男性を感じたことなど、もちろんない。



「あ、の」
「あ?」
「ありがとうごじゃっ!!ベロかんだ…」
「チッ…なんだ、言いたいことあんのか」

そういえば乗馬中にしゃべっちゃいけないんだった。ついうっかり忘れていた。
ドキドキは人の平静を失わせる、気を付けなければ。

「えっと、ありがとうございました。私たぶんあのままだったら色々尋問とかされて色々責め立てられたりしてたんでしょうけど、それでも大勢の人間に理不尽に責められるよりは貴方とか団長さんみたいな人に言われる方がまだマシってものです。」
「…それでなんで、俺に礼を言うんだ。」
「え?だって、私に筋肉がないとか逃げれるほど早くないとか助言してくれたの貴方でしょ?だって、私は昨日ここに来て団長さんには私はずっと背中を向けていたし移動中はわたしより前を歩いてました。ハンジさんはずっと前だけ向いて巨人見る度涎たらしてたし、となると一番わたしの事じろじろ見てたのは誰よりも私を警戒してた貴方かなぁって。あ、でも確信とかはなんでもないんですけど、でもとりあえず理不尽な暴力受ける心配は緩和されたっぽいので、とりあえず調査兵団の貴方にありがとう、です。」

それだけです。そういって再び前をむくと馬がゆっくりと歩きだす。
後ろで小さく笑い声が聞こえた気がした。
驚いて振り返ると、あの伝説のドS金ぴか笑いを浮かべた兵長さんがかなり邪悪な顔で笑ってた。

やはり、悪くない、この女。

値踏みするような目線で見下ろされる。
あ、これもしかしてしくじったかもしれない。
こうしてどんどん兵長に気に入られていく私の運命はいかに!!


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