04
「あの子はよくわかっている、人も、世界も。平和という言葉がいかに儚いということかも。」


唐突に、そう小さく声を漏らした。


「それでも人類は平和を望むんだろう。巨人がいなくなればこの世界は平和になると信じて疑わない。人間には感情がある。喧嘩もするし憎しみ合いもする、殺し合いもする。巨人がいなくなっても、人がいる限り平和にはならないという事を本質で理解している。」


高尚な演説家のような語り部で、悠然と話し始めたエルヴィン。


「それでも彼女は自分の世界は平和と表現したのは、なぜだと思う?リヴァイ」




壁付近にまでくれば駐屯兵団のおかげで巨人の数もかなり少ない。壁が見えて気が緩みがちな兵士たちに睨みを利かせていると、前を走るエルヴィンから先ほど、あの女と話していた話題の問いを投げかけられた。


「決まってるだろ、あいつの身近に『死』がなかっただけだろう」
「そうだ。見知らぬ誰かが死んでも誰も悲しくはない。なぜ死んだのか、どうやって死んだのか。それさえも興味はなく、ただ世界の人口の何万分の一がなくなっただけの感覚でしかない。似てるとおもわないか?我々の帰還の時にかけられる言葉と」


もの好きだ。どうして壁の外なんかに。ここにいれば安全なのに。馬鹿な奴らだ。わざわざ食べられにいくなんて。巨人がおいしくいただくだめにお前たちが税金で食べさせていたわけじゃない。
侮蔑と非難、嘲笑と憤慨。褒められた事など一度としてない。いつだって帰った時は手ぶらで、ただ冷たくなったかつての同僚の躯を持ち帰るだけだ。
壁の中で平和ボケしている人間には到底わかりえない事だ。この果てしなく渦巻く感情は。


「ただ、彼女の考え方や行動理念が非常に我々と似ていると思っただけだ」
「死が身近でなかったらしいが…一朝一夕でそんな考え方になるはずがねぇ」
「そうだ…あの少女、もしかしたらとんでもない本性があるのかもしれない」


死が、身近でないなら何故、自身に危害が及ぶことをそれほど過敏に反応する必要があったのだろうか。
近親者や友人たちが死に巻き込まれることもなかったであろう「平和」な世界でなぜそれほどまでに恐れる必要があったのだろうか。
平和の下で押さえつけられた何かが彼女をそうさせたのは間違いない。
彼女の住む世界は平和だったのかもしれない。しかし、彼女が作り出した世界は全くもって平和でなかったのかもしれない。
彼女自身が生まれた頃から浸されていた「平和」という世界のしたで、ゆっくりと育んできたもの。それは、なんだ?


「錯覚していただけだ、きっと」


生まれたときから死は身近ではなかった。それなのに彼女の本質がそれを良しとしなかった。
いつか傷つけられるかもしれない、狙われるかもしれない、殺されるかもしれない。やられる前に逃げなければ、そう本能が叫び悲鳴をあげ警鐘を鳴らし続けていたのだろう。


「あいつは案外、こちら側に来て正解かもしれねぇな」
「彼女には酷な現実だが、あの察知能力は役に立つかもしれん」


偶然振ってわいた駒。
うまく手駒にすれば大いに活躍できるかもしれない。




命の危機に晒されるほど、人は本来の力を発揮する。
だからこそ目の前の巨人に冷静に対処できるだけの適応力が彼女にはあった。


「わかった、俺があいつを躾ける。必ず動ける手駒に磨き上げてやろう」


痛みと褒美。平和に浸されたまだ年若い少女。必要最低限の筋肉しかついておらず、日に焼けた事もなさそうな白い肌。
どこぞの貴族とそう対して変わらぬ風貌だが、命の危機にさらされた時その表情はどうなるのか。


今から楽しみだと、リヴァイはひっそり笑った。




「私あの人にお気に入り認定されたら舌噛み切って死のうと思う。」
「大丈夫だよーリヴァイはあれで飴と鞭の使い分け上手だから!!」
「ゆとり教育の賜物なので鞭はいらないです。いま体罰ってかなり問題になってるんですからね!」

そんな会話がされていたとはつゆ知らず、暢気にハンジさんとの会話に夢中になりながら無事壁内に到着した調査兵団御一行。
というかそんな会話だったなら私全力で否定していた。なにかにつけて裏をつけたがるのって頭のいい人の癖かなんかなのかな。

果たしてわたしの運命はいかに!?


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bkm
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