03
「なまえちゃん、あのリヴァイに気に入られちゃったね」


ドナドナ気分で壁の中に向かう途中、ドナドナ気分が更にドナドナになってしまう事案が発生しました。
ハンジさん、それは死刑宣告ですか。
やべぇこれある意味人生詰んだ。女として詰んだ。歯がなくなっちゃう。



あの後、リヴァイが面倒見るという形で後ろでひたすら空気になっていた金髪七三の団長さんも私をとりあえず壁の中に連れて行くことに賛成してくれた。もちろん私を拘束しているロープとかはそのままだけど。
リヴァイ兵長が躾けて、ハンジさんが散歩係りだそうで。私は犬か何かですか。
そんな会話を聞いてこいつら人をなんだと思っているんだと、非難がましい視線で睨み付けてやれば思いっきり顔面蹴られました。鼻血が出なかったのが幸いです。
痛みに悶えていると、その様子を鼻で笑っている声が聞こえて、やっぱりわたしの人生詰んでるという事を実感したのがついさっき。


私を見つけてくれたのはハンジさんなのに、まさかコレ相手が兵長さんになっちゃってるとかないよね?平気よね?
望むのはただひたすら平和な世界です。とりあえず開拓地にでも飛ばしてくだされば無駄にある知識を惜しみなく与えるので是非わたしを開拓地に飛ばしてください、という願いもあの兵長さんの某金ぴかみたいな笑顔によって儚くも打ち砕かれたのがついさっき。
やっぱりあそこで絶望して泣けばよかったのかと後悔しているのが現在進行形。


でも今ここで、あの時こうしていれば、なんて考えていたって仕方ない。もしもの事を考える暇があるなら目の前にせまる命の危険をなんとかしようと思う。拘束なうで、荷台の中でゴロゴロしてる状態ですが。




「あ、右から変なのくるよ」
「―――あ?」
「えっ?」


チビと眼鏡が同時に私を振り返った。
ああ、最初に言っておくが私は別に風の匂いとかがわかる訳でもニュータイプという訳でもない。
強いて言うなら小さい頃から大自然に囲まれて、つまり大自然の中にいる野生動物とかから逃げ切るための第六感がすさまじく発達してしまっただけである。野生児女子高生特有のスキルである。
しかも自分に何か危害が加わる時限定でこの感は働くのでなんとも役に立つ第六感だと思う。


「団長!!右から巨人一体!!―――――奇行種と判断できます!!!」
「全員止まれ!!リヴァイ!!」
「了解だ」


奇行種はじめてみたけど普通の巨人より足が速い。目視できるより先に伝えたはずなのに、もうこちらにまで迫ってきている。さすがにあのスピードだと並みの兵士では対応できないと判断したのか、人類最強さんが対処に向かった。というか今確実に団長に指名される前にもうアンカー飛ばしてた、あの人殺る気満々だ。こわいこわい。
そんな状況に不似合な雑念ばかりを考えると、またしても私の危機察知レーダー反応しました。


「次は左前からふつうの来るよー」
「えっ…あ、ほんとだ!エルヴィン!わたしが行くから!!」
「ハンジ!!…まったく」


意気揚々と飛び出していくハンジさんと、多分一緒に言ったのはハンジさんと一緒の班の人達だろうか。なんかこの光景だけ見ているとリヴァイもハンジも、エルヴィン団長にとって手のかかる子供って感じにしか見えない。
さすが調査兵団、変人ばっかり。それをまとめて手綱をとる団長さんってやっぱりすさまじい。ストレスとかで禿げなきゃいいけど、この人なんか危ないよね。


「君は、巨人の場所がわかるのかい?」
「ちがいます、感です、感」
「感?」
「そう。私の世界は平和だって言ったじゃないですか?でもそれって人里だけです。山に入れば野生の熊もいるし夜になれば蝙蝠もいます。人里は人里で、人間だって皆が皆、良心的な人とは限らない。誘拐だって殺人だってあります。どんなに平和でも自分が傷つかない自分に危害が及ばない世界なんてどこにもないです。じゃあ自分の身は自分で守らないと。私は他の人より小さいし、女だし、力だって強くないから、なにか起こる度にそこからなんとか逃げ続けてたら自然と何が危険でなにが危険じゃないのかが本能とかでわかるようになっていったんじゃないかなって。痛いのは誰だって嫌だもん…あ、右のさっきのとこにまた増えた」
「ミケ!部下を引き連れてリヴァイの増援に迎え!!」


私の言葉を受けて団長さんは何か考えるように目を伏せた。
しばらくすると右も左も蒸気があがっていたから、リヴァイもハンジもうまくやったんだなって思った。怪我してないだろうか、死人とか出ていないだろうか。この世界だとどうしてもこういう心配がつきものになるから、だからいやなんだ。平和じゃないのは。
まぁでもあの二人の実力は折紙つきだから、心配することはないんだろうけど。
蒸気が立ち込める方をぼんやり眺めていると、小さな人影が見えた。どうやら誰も怪我してないし欠けてもいないようでほっとした。
そして息をついて、一安心ですね、と団長さんに声をかけようとしたらまだ先ほどの体制のまま動いてなかった。


「団長さん?ぼんやりしてていいんですか?帰るまでが遠足ですよ」
「これは遠足じゃねぇ、壁外調査だ。」
「あ、おかえりなさい。お疲れ様でした。」
「ああ…エルヴィン、どうかしたか?」


いや…、そう否定の言葉を呟いた後、何故か団長さんに憐みのような視線を向けられた。
そしてポツリと、ただ一言だけ漏らした。



「たとえ巨人がおらずとも、君のいる世界は所詮平和ではなかったのだなと、思っただけだ…」



そう、言われた。
そうだよ、だって、人がいる限り人は人を支配しようとする生き物だもの。人がいる限り世界が平和であるはずないじゃないか。
なにいってんだこのおっさん、と純粋無垢な疑問の視線を投げかけると団長さんは軽く笑ってまた再び馬を走らせた。


「平和ボケするよりは大分マシだと思うがな」


そうそう、と隣に立つリヴァイ兵長の言葉に私も無言でうなずいた。


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