02
そのあと、興奮した変態に立体起動でえらい人のところまで連れてかれた。素人に立体起動で移動とか、これ吐く。潔癖症の人類最強の前で吐く。


「私はハンジ・ゾエだ!よろしく!!」
「……なまえです」
「うん!なまえちゃんね!!さっそくなんだけどどうして壁の外にいたの!?今までどうやって生きてきたの!!?」
「ご飯食べてクソして寝て生きてきました。壁の外には丸太にささった釘をバールのようなもので引っこ抜いてたら抜けた瞬間に勢いあまって頭ぶつけました。気が付いたら見知らぬ土地に見知らぬ人が全裸で涎たらして立ってたのでこれは何か悪い夢だと思いました。」
「なるほど!!!実に明確且つ意味不明な答えだね!!!!」
「夢ですよね?」
「残念ながら夢じゃない、我々にとってはこれは現実だ」


とりあえずそのままバールのようなものは取り上げられ、変に抵抗してもこっちが不利になるのは明確なのでさっさと手錠でもなんでもしろという形で両手を差し出した。その様子に一瞬面喰っていた。
そして私の話を聞いて面喰っていた顔の眉間の皺がどんどん深くなっていった。ああ、やっぱりこれは夢じゃないんだなぁと、この気分の悪さが物語っている。


「嘘つくならもう少しまともな嘘つきやがれ」
「嘘つくならもう少しまともな嘘つきます、じゃなきゃ私逆に怪しさ満点で殺されちゃうじゃないですか、こんな巨人まみれの危険な世界の軍人さんとやりあう為にバールのようなもの一つで応戦するほど馬鹿じゃないです。それにこんな恰好してる年若い女の子を壁の中で見た事ありますか?ミニスカートとか女子高生の伝家の宝刀ですよ?このセーターのエンブレムも校章も、ポケットの中のスマートフォンもこの世界のどこを探したってないくせに、これが夢じゃなきゃなんなんですか。悪夢ですね」


人類最強が私の前で仁王立ちする。この男にとってどんなにこの世界が現実でも、私にとっては悪夢でしかない。
それもそうだ、なんせ私は学校の中庭で工学部の先生と数人の生徒でウサギ古屋の補修作業してただけなのに。つまり手持ちは携帯とバールのようなもの、あとはポケットにある飴三個しか持ってない。身ひとつで投げ出され目の前には食人巨人で、いきなり命の危険に晒された訳で。
こんな性格だから頭の中で一人つっこみして軽快に見えるけど、いっぱいいっぱいだったりする。
少しは労わってもらいたい。なんで160pに見下ろされなきゃならないんだ。いやわたしのほうが身長低いけど。


冷静に自分の状況振り返るとなんか涙出てきた。釘塗れの荒れに荒れた丸太をやっとの思いで運んで、これからやすりかけたりチェーンソー振り回したりわくわくだったのに、まさか巨人の目ん玉えぐりださないといけなくなった女子高生とは。


「私の世界は平和だったんです。巨人もいない、壁もない。戦争も私の国ではなかったし、生きる事になんの不便もありませんでした。食べ物だってお金を払えばなんでも食べれました。お金さえ払えば鳥肉も牛肉も豚肉も、自分で狩りなんてしなくても食べれました。人が一生を終えるなかで自分の手が血で汚れるなんて経験まずありません。なのにこんな世界…ほんと、最悪です……」


声が震える。鼻の奥がツンとする。
だめだ。泣いたってしょうがない。泣いてもなにも解決しない。



「だが、それでもここは現実だ。」
「……っ」
「お前の世界がどんなに平和だろうと、それを嘆こうと、懐かしもうと、俺たちにとっては夢の話でしかない。泣いて元に戻れるなら一生泣いてろ。泣いて全てが解決するなら、この世界の人類全員が泣いて嘆いて巨人がいなくなるなら、とっくの昔にここはお前の夢と同じように平和な世になってるだろうよ。」


諭すように、静かに私を叱りつける声。
てっきりドス聞かせて脅してくるものだとばかり思っていたから、なんせ相手は人類最強の元ヤンですし。


俯いていた私の頬をゆっくりと撫で上げると、そのまま少し乱暴に顎に手をかけられ強制的に上を向かせられる。
そういえばここに連れてこられてから初めてまともに見た人類最強の顔。
息とともに感嘆の声を吐きだしたあと、あまり変化しないその瞳がみるみる喜色に染まっていった。


「なんだ、泣いてないのか。」
「泣いて何かが変わるならあの巨人前にしてメソメソして逃げまわってましたけど…」
「……戦ったのか?」
「あーそうそう!なんかすごい大きい声で助け呼ぶ声聞こえたから急いで駆け付けてみるとその子、巨人の両目潰しまくっててさあ!一瞬猟奇的に見えたんだけど必死ぽかったし、なにより調査兵団意外で壁の外にいるなんて希少価値ありまくりだからね!だから助けてみたっ!!」
「そういうのは先に言え、ハンジ…そうか、お前戦ったのか」
「といっても私が持ってたのなんて所詮バールのようなものですし、致命傷は与えられませんから、とりあえずこれ以上襲われないように両目潰せばさすがに足止めになるかなーと思ったので。生きるのに必死ですし…」


まるで品定めでもされてるような目線が気まずくてまっすぐ人類最強に向けていた目をゆっくりと逸らす。するとそんなことをするのは許さないと言わんばかりに粗々しく乱暴に顔を近づけられた。
やだ、この人類最強マジセクハラすさまじい…ドン引きである。


「頭もいい、度胸もある、機転も利く上に状況判断も冷静か…とても平和ボケしてるような人間にはみえねぇがな…」
「……どうも、」
「おまけに、いきなり放り出されて命の危険に晒されたにも関わらず、泣かねぇとは上出来だ。」



ニヤリ。例えるならそんな擬音がぴったりである。
あれ、こういう風に笑うキャラどこかで見た気がする。


あ、某聖杯戦争の金ぴかそっくりだ。


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