01
目の前には巨人が高く大きく気持ち悪い笑顔を浮かべてそびえたっている。
片やわたしは丸腰で半笑いを浮かべつつ引け腰になりつつ冷や汗だらだら流しながら見知らぬ土地でしゃがみこんでいた。


人生詰んだ、マジ詰んだ。


これはどういう展開でしょうか。原作売れ売れでアニメが好調だからって中学生が描いたような安いトリップ小説ならいますぐ推敲して書き直しを要求する。
最近流行りの混合小説みたいに私に何か特別な力があるわけでもなく、片目で相手を服従できるわけもなく、電気ビリビリの中学生みたいな超能力があるわけでもない。いたって普通の高校生だ。
いや普通というほど普通ではないけど。帰りに友達とドーナッツ食べたりアイス食べたりゲーセンでプリクラとったりするような女子高生でもないけど、どちらかというと工具センターに行ってちまちまドライバーだの釘だの見ている工学部科所属の女子高生だ。ロボット作ったりチェーンソー振り回すの大好きなだけである。
まず設定に無理がある。わたしの手持ちは現在奇跡ともいえる確率でバールのようなものがある。そりゃ宇宙美少女みたいにこの工具を使いこなせればいいけど、残念ながら私は本来の用途でしか使ったことがない。
女子高生で、ちょっと頭よくて、バールのようなものを持った人間が、この巨人と戦えという無茶振りな設定を即刻見直していただきたい。


「丸太の釘引っこ抜いただけでこれはひどい…」


泣き言をポツリ。一言だけ息とともに吐き出して、覚悟を決める。
泣いてる暇はない。なんとか逃げ切ればきっとみんな大好きな人類最強がなんとかしてくれると信じる。女子中学生はそういう設定大好きだろうから。


完全にわたしを捕食対象として認識したであろう巨人がおもむろに手をのばしてくる。
残念ながら普通の女子高生にしては少しだけ運動神経がよい。ド田舎出身で毎日木登り川遊びしていた野生児の本能をここぞとばかりで発揮してその手を間一髪ですり抜ける。
あんまり走り回って他の巨人に偶然ばったり少女漫画のパン咥えて曲がり角で奇行種なんかと出会ったら恋が始まる前に人生が終わる。
わたしが避けてしまったことで丁度巨人がそのままスライディングして寝転がってしまった。これはチャンスとばかりに手荷物バールのようなものを握りしめる。


「これは魚…これは魚……、とりゃ!」


ぐにょ、という生々しい感触。気持ち悪い吐き気のあと、脳髄にまで響くような叫び声。
昔子供のころ焼き魚を出された時誰しも魚の目玉で遊んだと思う。幼く純粋ゆえの残虐な子供心である。
視界さえ奪ってしまえばあとは簡単。そのままひたすら目つぶしの嵐。再生する暇も与えずただひたすらバールのようなもので目ん玉ぶっつぶしていくだけである。
そして大きく息を吸って、


「誰か―――――――――――――!!!!!!助けてくださ―――――――い!!!!!!!!!!!!」


原始的な方法である。
これで近くに立体起動持った勇敢な兵士さんがいなきゃ、このまま他の巨人に見つかって人生無理ゲーであるので、一か八かの作戦でもあるが。


プシュ、と日曜深夜によく聞きなれた音が小さく聞こえた。そのままワイヤーを巻き取る音がシュルシュルシュルという音が段々近づいてくる。
さてここで二択。
この中学生が書いたような安いトリップ小説ならきっと間違いなく人類最強がやってくるんだろうけど、そうなったときわたしは間違いなく調査兵団に捕まってしまう。
で、絶対間違いなくあの裁判にかけられるんだろうけど、そのあとはどうなるのだろう。
殺されるのかしら。利用されるのかしら。
なにしろ私は運動神経はいいけど中々飽きっぽい。なので兵士になれなんて言われたとしてもすぐに死ぬ事確実。もちろん特殊な能力とか手を叩いて錬金術できるような技もないので、兵士になれたとしても死ぬ事確実。
かといって拷問されるくらいなら死んだ方がマシってもの。開拓地とかにまわってのんびり農業やって、このバールのようなものでツリーハウスとか作ってそれこそ老後をのんびりしたいものである。


うん、それでいこう。私の安全性を証明して開拓地に行って適当に過ごそう。それがいい。ド田舎出身だから田舎暮らしはお手の物だ。



ぶすっと巨人の額にアンカーが刺さる。反射的に上を見るとくるくるっと回って、そのまま項に一直線。
その動作を見届けてようやくバールのようなもので殴り続けていた手を止める。蒸気が上がる巨人の躯を茫然と見て、とりあえず一時的に死ぬことを逃れたことを理解すると、虚勢で立ち続けていた膝がガクリと地面に激突した。すごく痛い。よかった、夢じゃない。
この先どうなるかわからないけど、とりあえず命を助けられたことには変わりないので、助けてくれた相手にお礼を言おうと顔をあげると、そこには予想外もしない人物が。


「えっえっ、うそうそ!!壁の外に人間がいる!!!!!!!」


私を助けてくれたのは巨人愛好家の変態だった。


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