05
「で?どないするんや?」
「なにが?」
「写真や写真、俺の写真欲しいんやろ?」
「あ、そうだった…うーんどうしよ」

このまま撮らないっていう選択肢だってあるにはある。だって別に強制的ではないし、いうなればボランティアみたいなものだ。だからって私が撮らなかったらきっと別の誰かが真子の写真撮って売るだろうから結果はそう対して変わらないんじゃないか。

真子が私の事好きっていうのは、まぁはっきりと自覚した。思い出しても顔から火がでるくらい恥ずかしい事いっぱい言われた気がするし。
誰かを好きで恋しいって想いは私だってわかる。目の前の男が誰かに取られちゃうんじゃないかってビクビクしてたくらいだし、一応ちゃんと真子の事は好きだ。それもかなり真剣に。
でも瀞霊廷の子達はその好きな人はもう別の誰かのモノになってて、それでも好きで苦しい想いしてるなら写真だけでもプレゼントするのはせめてもの優しさで憐みの掛け方というものか。私からの憐みなんていらないかもしれないけど、本人をあげる事はできないけど、写真くらいなら許せる。

「じゃ、撮ってもいい?」
「なんやもう嫉妬はええんか」
「うん。だって真子はあげられないけど、写真くらいはあげられるし…真子が私から離れないってわかったから、いいかなって。こう、彼女としての余裕を持とうと思って!心を広く持とうと決意したのだ!!」
「ふーん、ほなさっさとしぃ」

そう言ってぼんやりと空を眺めはじめた真子。カメラを構えてボタンを押すとカシャ、と電子音がして写真が撮れた事を告げる。そのまま何枚か撮っていくと気持ちい風が吹いて真子の綺麗な金髪が風に弄ばれる。それがなんだか一枚の絵みたい段々撮るのが楽しくなってきた。
当初の「彼女にしか見せない顔」ってのとはなんか違う気がするけど、まぁ真子って私に対しても誰に対しても似たような態度だしあんまり関係ない気がするからいいよね別に。

「心を広くねぇ…」
「うん?なにー?」
「俺は広くは持てへんけどな」
「…真子?」

ぼんやりしていた真子が風に乗せて小さく呟く。いつもと違う様子に構えていたカメラを下ろすと、ゆっくりとこちらを向いて私と視線がかち合った。
びくり、と肩が無意識に震えた。



「俺は、自分の女を、たとえ写真一枚やったとしても他の男になんて絶対渡さへん。なまえは俺のもんや。やっと手に入れた俺の女や。なまえも、なまえの写真も全部全部俺のもんや。なまえがどんだけ俺の事好きや言うたって俺はそないに心を広くなんて持てへんし、余裕かって全然ないわ。いつ見知らぬ男に取られるんかビクビクし続けるねん一生死ぬまで。ほんまは、俺以外の男に目移りせえへんように、誰の目にもなまえの姿が映らんように俺だけ一生見続けられるようにしたいんやけどなぁ…」

始めてみるかもしれない、こんな真子。
静かに語られる声とは裏腹に、瞳の奥に情欲に塗れた炎が激しく燃えている。
吐き出される言葉の端々にやわらかい棘があって、それが私を捕えて優しく痛く締め上げる。



「…なんや、もう写真はええんか?」
「や、いまの真子の顔ダメだと思う!」
「はあ?なにがやねん」
「うっさい顔面18禁!!!」
「おっまえ今日はほんま失礼なやっちゃな!!」

次に口を開いたらいつもの真子だった。
あれが真子の本性の片鱗なのかとどこかで理解しつつも、まだその重すぎる想いに私は答えられそうにない。そう結論つけてさっきの真子の言葉も表情も忘れたふりをする。
いつかこの想いを全部ぶつけられた時、私は潰れずにいられるだろうか。

窒息しそうなくらいに重くて、溺れるくらい深い、おもい。
私もいつか真子に対してそんな深くて重い想いを抱く日が来るのだろうか。






後日写真は無事現像され、乱菊が撮ってきた市丸隊長のオフショットとセット販売でかなりの売り上げを記録したと報告された。

ついでに言うと、ひよ里は浦原隊長を見る度鳥肌が立つと断念して、リサは京楽隊長の写真をとるよりも女の子の写真とってる方がまだマシだと投げ出して、白は拳西にカメラを向けたらカメラ事壊されたと泣いていた。任務が無事成功したのは私だけらしい。
私はというとあの時思考停止してた時に何を言ったのかあまり記憶がないのだけれど、なぜかあれから毎日帰る間際に愛の告白を受けるようになった。数日たっても数週間たっても慣れる訳もなく、しかもただ言うだけじゃなくてちゃんとそういうムード作ってから言うものだから日に日に悪化してる気がする。昨日なんて耳の鼓膜に直接言われたせいで一晩たった今だって耳が熱い。くそう、あの時一体なにが。

「平子隊長、これ約束のものです」
「おーおおきに雛森ちゃん」
「ふふ、よく撮れてますね」
「せやろーめっちゃかわええわぁ」

未だジンジン耳が熱を訴える私の隣で真子と雛森ちゃんの会話を背中越しに聞く。
私の赤面写真なんて持っててなにが楽しいんだコラ、目の前に本人いるじゃんバカ。

「なんや、写真の自分にまで嫉妬しとんのか」
「ちがうわ!真子のハゲ!!!」
「せやからハゲてへんゆーてるやろ」
「もぉ〜雛森ちゃんコイツなんとかしてよぉ…」
「では私はお邪魔みたいなので仕事戻りますね。お二人ともサボらないように!」
「おはぎと写真おおきになー雛森ちゃん」
「上司見捨てるのか雛森ちゃん…」
「平子隊長も私の上司なので、すみませんみょうじ副隊長」
「残念やったなーなまえ」

くっそう!五番隊にも瀞霊廷にも私の敵しかいないのか!!

おしまい。


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