03
カメラを渡されて数日。特に劇的なショットなど狙えるはずもなく、仕事中だというのにあの雛森ちゃんがチラチラと期待に満ちたまなざしを向けてくるのがまたさらに申し訳なさを増長されていた。
そんな気まずい職場を今日も休憩と言ってなんとか抜け出して、今はのんびり屋根の上で黄昏なう。まだ昼間だけど。
だいたい私が言うのもなんだけど、あんな出っ歯のロン毛男のどこがいいのだろう。不細工ではないけど、イケメンでもないと思うの。贔屓目なしに見てもイケメンではないと思う、かといって不細工でもないけど。大事な事なので二回言いました。顔はあれだし、勤務態度だって決してよくはない。私が言うのもアレだけど。それに結構口も悪いし性格も悪い。しょっちゅうひよ里と取っ組み合いの喧嘩してるし、私とだってよく口喧嘩するけどその時の罵詈雑言のレパートリーの凄まじさは天下一品だと思う。心が折れかけた事は数知れず。
顔も普通、隊長としての態度もいまいち、口も性格も悪い。なんでモテるのかわからない。

「金と地位と権力か…たしかに女好きっぽい顔してるし頑張ったら寝とれそうだもんね」
「誰が」
「真子……おぉう!!ちょ、貴様どこから聞いてた!!?」
「俺の顔がイケメンやないーってとこから」
「しまった!!つい本音が!!!!」
「やかましいわボケ。そんな男に惚れとんのはどこのどいつや」

おもいっきり脳天に拳骨一発ぶちかまされた。この男は愛しい愛しい彼女にも容赦ないですよ、女性死神の皆さん。いい事なんてひとつもないです。可愛い彼女にタンコブプレゼントしやがるヒステリック男です。これが所謂DVって奴ですね、こんな奴総隊長に言って減俸にしてもらえればいいのに。
タンコブができているあたりを撫でつつ生理現象で涙が浮かぶ目で後ろにいる真子を振り返るといつも緩い顔が若干不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。

「私真子の顔好きになったんじゃないもん…こんな殴られたいから付き合ってるんじゃないもん」
「ほーじゃあ俺のどこが好きなんや」
「うるせー拳骨しかくれない男にそんな事教えてやんないもんね!あっちいけ」
「愛しい彼氏にそないな事言わんとき―せっかく休憩一緒に取ったろと思たのになぁ」
「どうせ抜け出してきたんでしょー」
「アホか、お前とちゃうわ。あーあ、せっかく悩める部下を心配して来たったのになぁー」

わざとらしく大きく溜息をついて私の隣に座り込む。
若干不貞腐れながらもタンコブは後で四番隊に寄るとして隣に座る彼氏様を見やると、こちらも同じく不貞腐れていた。
なんだコイツ。

「で?」
「で?」
「なんか悩んでるんか」
「え、別に」
「んな訳あるか、最近ずーっとそわそわしよって」
「あー…悩んでいるといえば悩んでるし、悩んでるっていうかよくわからないっていうか?」
「はぁ?」
「真子のどこがかっこいいのかなって」
「もっぺん殴ったろか」
「暴力反対!ハゲ!!」
「暴言反対やーボケ」

不意に伸びてきた手が私の頬をつねる。その手を払い落して睨み付けてやると、鼻を鳴らして睨み返してきた。生意気な男だ、可愛げもないし、こういう時ギンなら黙って隣に座ってぼんやりして時間が経つと色々考えがまとまってぼちぼち話せる的な雰囲気作ってくれるのに、この男は非常にせっかちだ。もっと余裕を持ってもいいと思う、年齢的にはもう100歳以上いってるんだから。死神って見た目に騙されちゃいけないよね、人間100年も生きたらもっと余裕持てないかな。京楽さんとか浮竹さんみたいな、そうういうやわらかいの。この男は常にとげとげしい。

「で?」
「で?」
「なんでそないな事考えだしてん」
「あーえ―――っと…」
「…え―――っと」

じろりと無言で睨み付けてくる。てこでも言わせようとしてくる視線に耐えかねて真子から視線をそらす。そしてさっきまで見つめていたどこまでも続く空と、どこまでも続いているように見える瀞霊廷に目を向ける。

「写真をね、真子の写真をね、とってこいって言われたの」
「誰にや」
「乱菊ちゃんとか、あと雛森ちゃん」
「俺の写真なんてとって何に使うねん」
「売るんだってー生写真。お金ないんだって」
「あーこの間の会議ってそういうことかぁ…」
「そーそれでさ…」

手元にある押し付けられたカメラを弄る。
溜息に近いモノを吐きだして、さっきからずっと考えていた事も一緒に吐き出す。
真子に言ったって意味ないってことくらい、わかってるけど。

「真子ね、瀞霊廷でも人気なんだって。みんな私と付き合ってるの知ってるけど、それでもやっぱり好きって子がいっぱいいるんだって」
「ほぉ…それでさっきの失礼な悩みになったっちゅーわけかいな」
「や、そういうんじゃなくて…んーなんていうかな、なんか、申し訳なくて…」
「はぁ?誰に申し訳ないねん」
「だって!」

重い想いが胸に込み上げて、一緒に涙も込み上げてきた。まだ全然考えがまとまっていないのに積を切ったかのように溢れ出てくるものを止める術を知らず、目の前の男に全てぶちまけるように垂れ流す。
カメラを持つ手に力が入って無機質な機械がキシリと悲鳴を上げた。私の心だってさっきから悲鳴あげて泣きわめいてる。

「だって…私、そんなに超かわいいって訳でもないし…スタイルいい訳でもないのに、でも私真子に好きって言ってもらって隣にいる事許されてるのに…なのに私、頭いいわけでもないし、強いってわけでもないのに副隊長やってて、仕事中でも真子の隣にいるの…誰かのものになっても好きって言える女の子がいっぱいいるのに、私みたいなのが仕事中も休憩中も非番の時もずっとずっと真子の事独占するの、なんか、申し訳なくて…さぁ」
「泣くなや、余計不細工になんで、なまえ」
「ふぎゃ…も、話ちゃんと聞いてたのかバカ真子…袖汚れちゃうじゃん…」
「俺にバカは禁句やボケ。羽織の替えくらいあるわボケ。汚したないなら早う泣き止め、ボケ」
「ボケって三回も言った!真子のハゲハゲハゲ!!」

じわじわと溢れて止まらない涙が真子によって乱暴にふき取られる。乱暴に顔をこすられて少し鼻の頭が痛くなってきたからまた真子の腕を振り払おうとしたら、そのまま後頭部をがっしり掴まれてそのまま引き寄せられた。
強い強い腕が私を離さないと言わんばかりに真子の胸に顔を押し付けられる。

そりゃ、私だってコンプレックスくらいある。ラブちゃんところにいればずっと娘みたいなポジションでいられたし、実力も頭もないから平隊士で暢気にやっていられたし、みんなとだって隊長経由で仲良しって事にしておけばもっと気楽に付き合ってられたって思う。
かといって100年前のあの夜の事件を何とかしないと今みたいに皆一緒に尸魂界で死神なんてやってられなかったからあの事件を何とかした事を後悔した事はない。でも、あの事件がないと今みたいに副隊長にだってならなくてよかったかもしれないし、真子の事好きだなんて思わなかったかもしれないし、真子がいつから私の事好きかなんて知らないけど私に好きって言わなかったかもしれない。
今置かれている平子隊長の副官で恋人ってポジションの私が、私の知っている私と全然釣り合ってない事がずっと私がぐるぐる悩んでは解決しないまま知らないふりしていた悩みだった。
面と向かって真子の事好きな女の子はいっぱいいる、なんて知ったら、そりゃ私に勝ち目なんてない。きっとその子は私より頭よくて可愛くて強くて真子にぴったりなんじゃないかって考えてしまう。真子が私の事好きって言っても、100年以上片思いしてたって言っても、この先100年好きでいられるかなんてわからない。だって真子は気まぐれだし、面食いだし。

もし別れたいって言われたとして、この抱きしめてくれるこの温もりを手放す事があったとして、私は平気でいられるのか。
そんな事をここ最近ずっとぐるぐる考えて、真子の顔も見れなくなって、そんな子たちに真子の写真あげるなんてって、そんな心の狭い私がすごく嫌だった。



「私、真子といるとすごい嫌な子になる」

抱きしめながら小さく呟くと、私の目からまた一滴涙が零れた。

つづく。


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