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副隊長になる前は、ほんの少しだけみんなと壁があった気がする。といってもその壁とやらはベルリンの壁みたいに分厚くて強靭なのじゃなくてただほんの少しだけ、障子の和紙くらいの薄い薄いものだけれど、それが時折わずらわしいと感じた事が確かにあった。元々そんなもの気にする性格なんてしてないけど、それをわずらわしいなと感じたのは大抵真子といた時だったのを覚えている。その「わずらわしい」っていう感覚が無性にイライラしてたから真子を見るとイライラするっていう今思えば結構負のサイクルをしていた。ほんの百年ほど前だけど。
なんでそんな事思い出したのかって言うと、ふと感じた女の子の視線だった。
見られるのは役職的にはもう慣れっこといえば慣れっこだし、奇異な目は尸魂界に来たときから七番隊の隊長と愉快な仲間達のオトモダチって事で慣れてるけど、それとは違う小さな違和感だ。
真子が出してたのとは違うけど、本心をほんの少し内側に隠しているような、あの独特の雰囲気。

「イライラする」
「なんや、栄養足りてへんのとちゃうの」
「牛乳のも、牛乳」
「そうせい、ストレスは肌荒れするんやで」
「まだそんなおばさんじゃありませんー」
「精神年齢だけちゃうの」
「よーし真子、歯くいしばれー」

ぶらぶらと二人揃って散策という名の貴重な休憩時間を過ごしている最中、ふと感じた視線に少し昔を思い出してしまってついイラついてしまった。うっかり口に出してしまえばそれを聞いたいつものように背を丸めて寒さに肩をすくめる真子がそれに返答してきた。それをまたいつものように返し続けていたらこれまたいつものように軽く口喧嘩になったので、とりあえず真子が首に巻いてるマフラーを引っ張って軽く首を絞めてやる。
しかし真子は涼しい顔で片手であしらってきやがるのでさっきとは別の苛立ちが広がってきて、やはり私にはカルシウムが足りてないのかもしれない。今日のお茶請けはあっためた牛乳にしよう。雛森ちゃんにしっかりあの膜は取ってもらうようにお願いしてお砂糖も少し入れてもらうようにしよう。

「で、なに怒っとるん」
「んーちょっとだけ、昔を思い出して」
「昔?」
「うん。昔、真子に会うたびイライライライライライライラしてたなって」
「は?ほんまかいな…なんやへこむわぁ」
「昔だよ?むかーし、私が副隊長になるずっと前だもん」

本当にすこし落ち込んが風な真子が少しだけ可哀想になって視線を地面に向ける。頭上の方で小さく溜息をついたのか視界の端に白い息が少し写りこむ。後の言葉を促されるように私のマフラーを引っ張られる。
本当の事だし、今は全然思ってないから別に後ろめたい事なんてなんにもないんだけど、うん、今はちゃんと気持ちはあるし。

「昔、ひよ里とかはなんにもなかったけど、真子とか私との間にちょっと壁作ってたなって」
「あー…まぁ、な…気ぃついとったんか」
「うん、まぁあからさまではなかったけど、だからこそムカついたなって。特別扱いなんだけど、でも私だけひよ里とかリサちゃんとかと違うっていうか少しだけ私だけなんか仲間外れなんだなって感じてた。私の事嫌いな訳じゃないのになんでそんな事すんのかなーって真子の事別に嫌いじゃなかったけど少しだけそういうとこ嫌いだった」
「そないにはっきり言われるとさすがに傷つくわ…」
「だって本当の事だし…」

ねぇ、なんで?顔をあげて小さく首を傾けて真子を見上げると今度は真子が少し気まずそうに視線を逸らした。今度は真子の返答を促すようにさっきよりは軽めにマフラーを引っ張ると一息ついて少し言いにくそうに口を開いた。

「女の嫉妬て怖いやん?」
「うん…まぁ、否定はしないけど、なんの関係が?」
「ほら、俺ってかっこええやん?」
「全力で否定したいけど、それが現実だね。否定したいけど」
「うっさい黙れや、もーええから黙って聞け。そんでな、俺かて隊長やったし別に言うほど不細工な面してへんからそこそこ声もかけられるし熱い眼差しとかももろたりしとる自覚あるから、席官でもない新入りの隊員にばっか構っとると嫉妬に狂った女がなまえなんてすぐ捻りつぶされるんとちゃうかなって、俺なりに心配しとってん」

つまり、私のためって事らしい。まああの頃の私なんてそこらの一般隊士より糞弱いし書類整理も全くできないしそれはまぁ今でも変わらないけど、とりあえずこの護廷十三隊では蟻んこより弱いミジンコほどの存在だった訳である。
ほとんど入隊もコネみたいなものだったし実力はミジンコ程にあってもセンスも努力もしてない甘ちゃんな糞ガキだったから、そりゃあよく思わない人もいただろう。絶対いただろう。
何故かラブやローズの仲間内の間でも真子の人気は絶大だ、ぶっちぎりだ。女性死神協会が血眼になって生写真売ってるからこれが世の答えなのだろうなっていつも無理やり納得している。

あれ?ってことは?

「真子いつから私の事好きだったの?」
「………最初っからや、ボケ」

一瞬で顔が赤くなった真子に釣られて私まで顔が赤くなる。
最初って、いつからなんだ。私が副隊長になってからの最初じゃないのか。
ああもう、寒い寒い、私も寒いから顔をマフラーに埋める。顔が赤いのは気にしては負けだ。


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