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女の子は色々着飾ったりお化粧したり見た目をすごい気にする。乱菊ちゃんとか化粧品とかにすっごい気を使ってるし、雛森ちゃんも非番の日はちゃんとお洒落してる。それなのに、私ときたら全くそんな事ない。友達のリサちゃんだって死覇装お洒落だし、白ちんだって色々お洋服持ってる。ひよ里は、わかんないけど、友達も部下も女の子ならみんなお洒落してる。
でもいいんだ、私の変わりに真子が女々しいくらいにお洒落に気を使ってるからいいんだ。
そりゃお化粧品とかは男の人だからそうでもないけど、非番の日のお洒落とか普段の髪型とかびっくりするくらいに神経質だ。その日の髪型がちょっと決まらないだけで一日憂鬱そうにしてるし、そういう日は隊舎から出たがらない。女として色々欠けてる私が言うのもアレだけど、ちょっと神経質すぎるんじゃないかって思う。
真子がそんな感じだから私はもうお洒落しなくていいかな、とか考えちゃうわけで。

「なんやねん、さっきから」
「やーむかつくくらい綺麗な髪してるなーと思って…思わずいじりたくなる」
「気ぃ散るんやけど」
「女の子は人の髪いじるの好きなんだよーお人形さん遊びとか好きじゃん」
「俺はお前の人形ちゃうわ、ボケ」

今日は比較的のんびりしていて仕事の鬼の雛森ちゃんの監視の目もない。特に急ぎではない書類を適度に休憩を取りつつ片付けていく。いま真子がやってるのは届いた書類読んで判子押してって仕事ばっかりだから頬杖付きながらぼんやり仕事してる。私はというとその後ろから真子の背中に流れる金髪を三つ編みにしてみたり手櫛で梳いてみたりと遊んでいる訳だ。
口では文句を言いつつもそれを止めるつもりもないらしく私の好きなようにされてるってことは嫌がってない訳で、私の玩具と化した真子の髪を手の中で弄ぶ。
救い上げるとサラサラと指の間をすり抜ける。細い糸のように流れる金がまるで宝石みたいに綺麗だ。

「なまえかてしたらええやん、お洒落。楽しいで?」
「んーでも、よくわかんないし」
「ほんなら俺が買ったろか?」

そういうと手に持っていた隊長印を置いてゆっくりと振り返る真子。私の手にあった金糸の髪が指の間から逃げて行った。
振り返って手をついて、もう片方の手で私の頬を撫でる。あまりこういう行為に慣れてないから一瞬にして私の顔は赤くなるけど、目の前の真子は深夜の湖面のように深くて暗くて静かな瞳で私を見つめていた。

「服も簪も髪飾りも化粧品も全部、なまえがわからんなら俺がなまえに似合うの合わせて買ったってもええんやで?ほんならなまえもお洒落できるし、俺好みの女にもなれるしなぁ…」
「…ってことは、私が真子の着せ替え人形に、なる、てこと…?」
「いやか?」

真子の言葉一つ一つに小さな違和感を感じるけど、いまはそんな事を気にしている場合じゃない。
この、恥ずかしい状況を一刻も早くなんとかしないと、もし誰かがこの部屋に入ってきたら一発アウトだ。冷やかされるか空気読まれるか、どちらになっても私は羞恥心で炎上する。
既に火を噴きそうに赤面して沸騰している思考回路をなんとか働かせて顔を横に振る。否定の意思と、なんとか頬に添えられた手を振り払うために。

「おし、ほんなら今度の非番あけときや。買い物いくで」
「えっ、い、いいよ…別に…」
「ええやん、着飾ったら今よりもっと可愛くなれんねんで。それになまえもそろそろお洒落せなせっかくこんなイケメン彼氏おるのに勿体ないやろ、俺が」
「自分でイケメンっていうなハゲ!!も、手離してよぉ…」

自分でイケメンとか言っている真子にドン引きしつつ、とうとう羞恥心に耐えられずに無理やり腕を掴んで離そうと試みるも以外と強い力でビクともしない。そうこうしているうちにもう片方の手も添えられて両手で私の顔を撫でながら無理やり視線を合わせる。
口ではあんなにふざけた事ばっかり言ってるくせに、たまに見せるこの瞳が少しだけ苦手。
私を絡め取ってじわじわ浸食してくるようなこの目に見つめられると頭の中全部真子の事だけになる。



「そない可愛い顔見せんなや…食べたくなるやん」

「わ、わたし食べてもおいしくないぞ…」

「俺好みの女になってもええけど、そういう顔は誰にも見せたらあかんで。なまえ」

私が赤くなる事なんて大体原因は目の前の真子がこういう事を恥ずかしげもなくやってる時か、そういうのを乱菊ちゃんとかに見られて冷やかされてる時だけだ、馬鹿野郎。
そう告げると真子はやわらかく笑って、「ほんなら誰にも見られんとこで襲わなあかんなぁ」とかなんとか、危険な事呟いていた。おいやめろ。
そのまま私が逆らえないのをいい事に顔を引き寄せておでこに唇を這わせる。そのままゆっくり瞼を撫でて頬のラインをなぞるように這わせて、最後に鼻の頭を弱く噛まれる。

「なまえ…」
「…っ」

優しく私の名前を呼んでくれる真子が私の唇にゆっくり触れる。
やわらかくてあったかい、真子の体温が敏感になっている私のそこから伝わってくる。
小さく震える私を包み込むように啄んで、宥めるように私の後頭部もゆっくり撫でる。

「…ファーストキスなんですけど…」
「告白されたんもファーストキスも隊首室とか思い出いっぱいやん」
「そーいう言い方したらこの部屋来るたびに思い出しちゃうじゃん!やめてよね!!」
「この部屋来るたびにしたってもええんやで」
「黙れ変態!」

キスの後強く抱きしめられる。今真子の顔をまともに見る事ができないからそれは助かるけど、どうにもさっきから発言が少し発禁かかってると思う。
特に抵抗とかはしないけど、やられっぱなしはなんか悔しいから自然と口が悪くなるのは仕方ないよね。真子が悪い。

「今度のデート楽しみやな」
「抹茶の白玉あんみつ…」
「へいへいしゃーないから奢ったるわ」
「じゃあもう少し抱きしめられてても文句言わないであげる」
「それはおおきに」

私としては唇にほんの一瞬感じる熱より、こうやって全身で感じられる温もりの方が好きなんだけど、やっぱりこういうのって男の人と女の人の感覚って違うんだろうか。
まぁ私は女だけとお洒落とかも興味ないし色恋沙汰もあんまりよくわかってないから世の中の女の人と一緒の括りにするのは失礼かな、とも思うけど。
そういうのも全部真子に任せておけば適当にやってくれると思うから、私はこうやって真子に与えられるものを享受していけばいいと思った。
真子の手でどんどん女にしてもらって、世の中の女の人と同じレベルにまであげてもらえばいいよね。

そんな惰性的な事を考えたとある日の昼下がり。


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