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「なぁに拗ねとんねん」

ぼんやりと湯呑の中の茶柱を見つめていると、視界が突然暗くなった。そしてかけられた声に顔をあげると真子が若干怒ったような顔で見下ろしていた。
なに怒ってんだ、怒ってんのはこっちだバカ真子。
真子がここに来たという事は朽木隊長は帰ったという事だろう。書類届に来ただけなのにこんなに引き留められるなんて朽木隊長も可哀想に。

「ほら立ち、戻るで」
「んー」
「拗ねんなや」
「別に拗ねてないもーん」
「拗ねてるやん」
「違うもん。ちょっと落ち込んでるだけだもん。拗ねてないもん」

ぬるくなってしまったであろう急須からまたお茶を注いで自分の分の栗羊羹を持って隊首室に向かう。

「アホ、お前の考えとる事なんて全部お見通しや」
「なにがさ」
「どーせ俺と一緒に羊羹食べたかったんやろ?そう思って、ほれ」
「……!」
「俺もまだ手つけてへんから一緒に食べようや」
「う…っ!真子〜やっぱり大好きだ〜」
「そりゃどーも」

隊首室をあけたら手付かずの湯呑と栗羊羹が未だ机の上に鎮座していた。
感動のあまり言葉を失っていると私の思考など手に取るわかる真子はそのまま私の頭を乱暴に撫でてきた。
やっぱり真子ってすごい、エスパーみたい。私のしたかった事もしてほしい事も全部わかって私にしてくれる。私はいつだって真子に喜ばされるばっかりだ。
今だって両手が塞がってて抱き着けない私の変わりに、真子がぐりぐりと頭だけ抱きしめてくれる。そのまま背中を押されて一緒に隊首室に入って一緒に栗羊羹を食べる。
当初の予定と大幅に遅れたが、なんとか今日のおやつ計画完遂である。
帰ってくるときよりも上機嫌になった私。別に不機嫌だった訳じゃないけど、さっきより確実にテンションはあがっている。

「なまえー口開けぇ」
「む?くれるの?」
「ほんまは自分で二個食べるつもりやったんやろ。俺の半分あげるからそれで堪忍してや」
「…真子はなんでもお見通しだねー」
「当たり前や。ほら、」

一口サイズに切り取られた羊羹をそのまま私の口に運んでくる。そのまま口を開けると羊羹が口の中に放り込まれたのを感じて口を閉じると口からフォークを抜き取られる。
口をもごもご動かして栗羊羹の味わっていると真子とふいに目があった。
おばあちゃん特有の懐かしくて心があったかくなるような味と合わさって、心が熱いとすら感じる程の幸福を噛みしめる。思わず頬が緩むと真子もいつもより少し緩い顔で笑った。

「うまいか?」
「ん!おいひー」

真子と食べるおやつはやっぱり最高に美味しくて楽しい。
そして今日も五番隊のお楽しみのおやつの時間は平和に穏やかに過ぎていくのであった。

おしまい。


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bkm
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