27
穿界門を抜け現世に降りたつと思ったよりも静かな夜の街が広がっていた。
伝令神機によると確か巨大虚だって話だったはず。いくら霊圧探知が苦手な私でもそんなに大きいのだったら私だってわかる。

「いないよ?虚」
「あの人は死神が虚化できるなら、虚も死神化できるんやないかって言っとった。もしかしたら霊圧とか消せる虚つくれとったんかもしれん」
「ほんなら院生の子らの霊圧探ればええだけや……、こっちや」

相変わらずあの男の考える事はよくわからん。前の時から神様になるとか死神も虚も超越した存在だとか、わけのわかんない事ばっかり言ってた。虚が死神化ってことは破面達の実験の前の段階だったってことか。
胸糞悪い胸糞悪い。死んでからも迷惑かけるなっていうの。
真子が院生の子の霊圧を探り出し三人で急いで向かう。


近づくとわかる。
虚の霊圧ではない、揺れる霊圧と、小さい小さい三人の霊圧。
どこかで感じた霊圧だ。もう何十年も前の記憶から必死に探りだす。

目の前に小さい背中がよっつと、そびえたつ無数の巨大虚が目視できたところで、
ギンが隣で始解した。

「こらぁ、えらい数やなぁ」
「待たせてすまんのう、助けにきたでぇ」

近場の建物に降りたって小さい背中に声をかける。振り返った四人は微かに見覚えのある四人だった。
私達に気づくと顔面に大きな傷を受けた男の子が驚きの声をあげる。

「あ、あなた方は…五番隊…平子隊長っ…、みょうじ副隊長…市丸三席っ」

確か檜佐木修平くんだっけ。最後まで東仙要を信じてた優しい男の子。優しくて強くて少し弱い、だからこそ誰よりも強い子だ。
檜佐木くんの顔の傷、藍染の作った虚のせいだったのか。ああもうそれだけで私の沸点は容易に沸いてしまう。この子は多分五番隊には入らないけれど、きっと九番隊に入るのだろう。私の友達の拳西と白の部下になる子を傷つけた罪は重いよ、巨大虚共め。

更に見知った顔を見つけて歩み寄る。恐怖で立っていられなくなったそのこの目の前に座り込んで目線を合わせる。

「大丈夫?」
「……っ」
「大丈夫だよ。あとは私達が全部やっつけるから、任せて」

前の時はあいつに使い捨てられたように扱われていたかわいそうな女の子。わたしの記憶の中の子よりは幾らか幼いけれど、多分間違いなくこの子はあの雛森桃ちゃんだろう。
隣の吉良イズルくんはギンの部下だったって聞いた。男の子があんまり泣く者じゃないぞって後でお説教してあげよう。
阿散井恋次くんは平気な風を装ってたけどこの時から度胸はあったんだ。やっぱり誰かを守ると決めてそれを貫き通せる男の子ってやっぱり恰好いい。上出来だよ。
桃ちゃんの手をとって安心させるように笑う。

「いくよー真子」
「命令すんなや」

ざわざわと蠢く巨大虚たち。
数えただけでもざっと20体近く確認できる。やっぱりギン連れてきて正解だったかも、さっきから神槍でバッタバッタ倒しまくってる。
私だってあいつへのうっ憤溜まってるんだから。
両足を踏ん張って片手を巨大虚の前にかざす。ありったけの霊圧を掌に集中させて、言葉と共に一気に放つ。



「破道の八十八・飛竜撃賊震天雷砲!!!!!」



私の斬魄刀はどちらかというと戦闘補助型だ。

相手の神経を支配して私と共有させる事で相手の思考を読み取り先回りしたり攻撃を完全回避してりできる。卍解も私と神経共有して私の痛覚を相手と交換して私を傷つけたら相手が勝手に自滅するっていう刀だ。なんとも面倒くさがりな私の斬魄刀らしい、私を切ったら自分が死ぬみたいな、そういうのだ。
つまり一対複数の戦いには向いていない。
まぁ真子の逆様刀もどうなのって思うけどね。
だから殲滅にはどうしても時間かかるし、どうしても手間がかかってすごく面倒くさい。
だからひそかにハッチに頼み込んで空いてる時間に鬼道の練習をつけてもらったのだ。虚化習得してすぐ後だから、もうかれこれ三十年以上。前の時間帯も合わせるとそれこそ気の遠くなる時間鬼道の練習をしていた。
人間それくらい練習と鍛錬積めば誰だってこれくらい平気でできる訳で。
といっても詠唱破棄はちょっと格好つけすぎたかもしれない。右手すっごい痛い。

「お前いつのまに八十番台できるようになったんや」
「副隊長さん飛ばしすぎやでー」
「えへへーどうどう?すごい?かっこいい?」

「あーすごいすごい、ほら二人とも気ぃ抜くなや」
「わかってるってーいくよ、チビギン」
「ほいほい、任せてぇや」

ギンは神槍ぶっぱなして、私は破道打ちまくって、真子なんて始解すらせずに戦っていた。
私もギンも真子も藍染には恨みもあるし思うこともいっぱいある。その怒りも憎しみも全部目の前の虚にぶつける。幸いこいつらにかける良心も遠慮も持ち合わせてはいないから、三人とも遠慮なく全力でやらせてもらう。

五番隊トップ3が本気出してしまった為に殲滅するのに三分もかからなかった。

「おしまい?」
「っぽいな」
「案外あっけないもんやねぇ」
「ギンが本気出したからね」
「なまえも十分本気やったやろ、六十番台詠唱破棄しまくりよって」
「えへへーちょっと無理しちゃった」
「アホか」
「帰ったら四番隊やね」
「えへへーうっ憤溜まってたんだから許してよね!」

さっきまでの緊迫していた空気はどこへやら、いつもの五番隊の空気に戻った。
振り返るとさっきまで恐怖におびえていたはずの四人がぽかーんと口を開けて目を見開いていた。なんかおもしろい顔だったからつい笑ってしまった。
座り込んでしまっている雛森ちゃんに歩みよって屈んでまた目線を合わせる。

「おつかれさま」
「…あ、あのっ、ありがとうございました」
「んーん、仲間助けるのなんて当たり前の事だよ」
「仲間っスか…?」
「こ、こら阿散井君!副隊長にそんな言葉づかいは!!」
「あはは、別にいいよー私大した事してないし。そーそー仲間だよ仲間!みんな同じ院生でみんな同じ未来の死神で、死神なら私の仲間だよ!」
「…そんな、私達なんてまだまだ…」

もじもじとうつむいてしまた雛森ちゃんの頭に手を置いてやさしく撫でる。すると上目づかいでこちらを見上げてくる。わぁ可愛い。
雛森ちゃんと視線を合わせて、次に未だ放心状態のイズル君に視線をやって、最後に困惑気味の阿散井君に視線をやる。まだまだ未熟だけど才能も度胸も十分で将来が楽しみである。最後に真子に包帯ぐるぐる巻きにされてる修平くんに視線をやる。

「だって、君たち三人がいなきゃあそこの先輩は死んじゃってたんだよ?褒めるべき行動じゃないけど判断は的確だもん。そこの六回生君も!一回生を逃がすっていう判断は的確だったけど、でも自分ひとりで足止めしようとしたのは賢明じゃないよ」
「そーやぞーああいうんはさっさと救援呼んで逃げればええねん、そしたら俺らがいつだって助けに来たるんやからなぁ」
「特にうちの副隊長さんが張り切っていくけどなぁ」
「逃げる事は悪い事じゃないんだよー?生き残ることに意味があるんだー」

ね?そう言ってやると困惑していたはずの雛森ちゃんが突然泣きそうに顔を歪めた。あれ、えっ、なにかおかしなこといったかな。とりあえず頭をよしよしって撫でると本格的に泣き出してしまった。さすがにびっくりして真子に助けを求めると無視しやがった。ギンに至っては女の子泣かせたって笑ってやがる。多分同級生なのであろう後ろに突っ立ってる男二人に助けを求めるとこっちも慌てたように首をふってきた。最近の男どもは皆一様に腑抜けてやがる!どいつもこいつも!!
ずっと頭を撫でてると落ち着いたのか少し鼻詰まり気味の声で名前を呼ばれた。

「みょうじ副隊長…」
「ん?」
「私、絶対死神になります…死神になって、今度こそ誰かを守れるようになりたいです」
「うんうん、その意気だー」

女の子ってやっぱり強い。
ひよ里もリサも白も強い、夜一さんも強い。

この子も、今度はきっと強くなる。

女の子なら守られてばかりでもいいけど、いざって時に誰かを守れなくて後悔する事がないように。
かつての私のように、皆が虚化していくのを黙ってみている事しかできなかったあの時の悔しさを今度は噛みしめないように。百年以上ずっと鍛錬してずっと修行し続けて、そしてもう一度チャンスをもらった。全ての努力が報われてそして手に入れたのが現在の私の幸福なのだから。
この子も今度はきっと大丈夫。

「帰るでなまえ」
「ほーい、じゃあねー」

「あの!みょうじ副隊長!!」

先を歩く真子とギンの後に続く。
すると後ろの方で私を呼ぶ声が聞こえた。足を止めて振り返る。

「私っ絶対五番隊入りますから!!待っててください!!!」

「!!うんっ楽しみにしてるねー!!」



歩みを止める必要はない。
たとえその道が、別たれたとして、鎖されたとして。それでも歩みを止める必要はない。

歩む道が見えなくなったのなら、私がその道を照らす星になって、暗闇を照らしてあげよう。
歩む道が鎖されたのなら、私が手を引いて歩いてあげる。

かつて君たちの道を鎖した男はもういないのだから。

「あの子可愛かったなー絶対私の事好きになってくれたよね!」
「珍しくええ事言ったからのー恰好つけよって」
「でもなまえちゃんこの後四番隊やで」
「あ、ねぇねぇ真子、ご飯はー?」
「また今度や今度」
「約束だからね!」
「へーへー」

穿界門を開けて光の中へと入り込む。

「帰るで、なまえ、ギン」
「はーい」

私達の歩む道きっと目を開けていられない、明るくて眩しい。


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