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着々と準備が整っていくたびに言い知れぬ不安に駆られる。
そんな時は皆に会いに行って、それで心を落ち着かせる。そういう日が何日か続いた。
ラブ隊長はすごく心配してくれた。そりゃ私の保護者みたいな位置にいるし、一番一緒にいる時間が長いからなのだけれど。家族であり仲間であり大事な上司と部下の関係で、その私が毎日毎日こんなに霊圧揺らしてちゃそりゃ心配になるっていうね。だからお昼ご飯とかは最近はずっと一緒。悩みを聞いてくれたり雑談をしたり、毎日ずっと一緒。
夜になるとリサちゃんとか白ちんが私を誘って飲みに連れて行ってくれたり、ひよ里のお手伝いしたり。
夜だって必ず誰かがいてくれた。仕事が終わってない時はひょっこり真子が顔を出してくれて差し入れも持たずに来た真子の尻を蹴り飛ばして追い出したりして遊んだ。ギャーギャー文句言いながら部屋まで送ってくれるんだからなんだかんだで紳士っぽい所がたまにムカつくけど、今の私にはとても暖かかった。
三時は毎日ローズの所にいって一緒にお菓子を食べた。仲間がいるから私は強いんだって励ましてくれたから、私は大丈夫なんだって心を強く持てた。だからローズには感謝してる。

浦原隊長は大変優秀だった。既に100着分の霊圧遮断できる外套はもう完成したって言われた。
四楓院隊長さんは夜になるとたまに訪ねてくる。決戦はまだか、そう言われるたびに「ゲームがはじまる合図はすぐにわかる」と曖昧に濁して返す。

すぐわかるよ。
皆聞こえてる?この鐘の音が。
瀞霊廷に響き渡る、開始の音。



「パンツ見えてるよーリサちゃーん」
「なんやなまえかいな。静かにしてや気づかれるやん」
「隊首会覗き見なんてダメだよーお髭隊長に言いつけるぞー」
「パンツみせたっとんのやからちょっと黙っとってや」
「ようしわかった黙ってる」

緊急で隊首会が開かれた。きっとリサちゃんがいるんだろうなって事でふらふらっと一番隊舎に向かうと案の定覗き見するリサちゃんに遭遇した。隠されると見たくなるっていう性分は昔から変わらないらしい。
私も霊圧消してこっそりリサちゃんの横に座って隊首会を覗き見する。

当時私は本当に正真正銘平隊士だったからもちろん召集命令も出撃命令も待機命令もなかった。
ただ少し、本当に少しだけ微かな違和感を感じていた。
拳西と白を見送るときからずっと感じていた小さな小さな違和感。それは今の私と一緒で心が少しずつ濁って淀んでいく、そんな違和感。
今思えば私はきっと怖かったのだ。どこかで理解していた。
このまま見送ってしまえばもう一生会うことが出来ないのかもしれないと。そんな気がしていたのだ。
だからこっそりみんなの後ろに着いていった。足だけは隊長達のそれに追いつく自身もあったし。
けれど結局は足手まといになって虚化して、私は隊長でもなんでもない一般隊士だから誰にもその死を認知される事無く尸魂界を去ったのだ。後になって一般隊士の私が虚化を習得できたのは奇跡に近いって藍染に言われて、実力だって言って噛みついたのはあんまり思い出したくない思い出だったりする。
でも私はもう一般隊士と同じじゃない。
100年いろんなことがあった。けれど、その半分以上は皆でバイトして細々と生活していた。その合間に私の修行を付けてもらって、私の実力はもう隊長格と同等だって言われた。

絶対負けない。今度こそ。

「お〜いリサちゃーん」
「なんや!」

勢いつけて立ち上がったリサちゃんに吃驚して思わず地面に転がってしまった。人が思考の渦にぐるぐるしている時にそういうのはよろしくないよ、リサちゃん。
バクバクと音を立てる心臓を抑えながら京楽隊長の声に耳を澄ませる。リサちゃんがどれだけ信頼されてるのか手に取るようにわかるその声に、リサちゃんは自信満々に答える。いいな、こういうの。私とラブ隊長はあくまで隊長と一般隊士で関係的には家族みたいなものだから、そういうのちょっと憧れる。
皆と同じスタートラインにすら並べていない今の私にはその光景が少し眩しい。かといって副隊長とか席官にも興味ないけどね、難しい書類整理増えちゃうし責任も重くなっちゃうし。

「じゃあうちは行くで」
「うん、気を付けてね」
「あんたはここに残っとり。明け方には全部終わらせて帰ってくるわ」
「拳西と白とひよ里も一緒だよ」
「まかせとき」

ぐしゃぐしゃと私の髪を乱暴に撫でると、そのまま全速力で行ってしまった。八番隊舎の方にいったから、斬魄刀でも取りに行ったのだろう。
本当に明け方に戻ってくる。



「なまえ」

いつの間にか隊首会が終わったのか、名前を呼ばれて振り返ると真子がいた。
真子だけじゃない。ラブ隊長もローズもいた。表情が暗いけど後ろから浦原隊長もいるし、きっとどこかで夜一さんも聞いてるに違いない。

「お前、なんか知っとるんちゃうか」
「なにが?」
「ここ最近お前変やったやろ。妙に霊圧揺らしまくって精神不安定やし鬱っぽいし、かといって俺らがおったら全然そんな事ない。流魂街魂魄消失事件調査に向かった奴らはお前が仲良い奴らばっかりや」
「なまえ、お前本当に何か知ってんのか?」
「なまえ」
「なまえ…」

真子が私の事尋問するみたいな口調で問いかけてくる。バカ真子めこの後どうなるか知らないくせにそんな怒んなくてもいいじゃん。
でも真子が私の事一番子供扱いしてるのを私は知ってるし、私がこの中で一番弱いのも知ってるから、何かあるならそれから私の事守るためにそういう事言ってくるんだっていうのはわかってる。
私が一番仲良しな人がどこかに行ってしまう。この後怖い事が待っているって私が知っているなら絶対皆についていくに決まってる。だからそれから私を遠ざけるために突き放そうとしてるの、知ってる。
その証拠にラブ隊長もローズも私の事すっごい心配してますって顔してる。

「……真子のバカ」
「俺はなんか知っとるなら言えっちゅーとんのや」
「知らないし知ってたとしても言わない!」
「あんまり我儘言いなや…ほんまに泣かすぞ」
「コラ真子、なまえ泣かせたら僕が許さないよ」
「俺も怒るぞ」
「おいコラ話脱線させんなや!」

やいのやいの三人がコント始めた。その後ろでずっと暗い表情をしていた浦原さんが、私の視線に気が付いて顔をあげる。

「ッ平子さん!」
「…なんや喜助」
「なまえさんを連れて行ってくださいッ」
「ハァ?連れていける訳ないやろ、こいつはひよ里やリサとちゃうねんぞ。一般隊士は一般隊士!一番下っ端のペーペーや!そないな奴前線に連れていける訳ないやろ」
「この子は何か知ってます。ここ数日それにおびえるように毎日過ごしていました。平子さんたちだって知ってるでしょう!?」

ゆっくりと私の前にやってきて、私に視線を合わせる。
肩に手を置いて懇願するように私に跪いた。

「ひよ里さんをお願いします…」
「……わかった」

大の大人がこんな小さい子供にお願いするなんてよっぽどひよ里の事大事だったんだろうなって、浦原隊長の強い思いが伝わってきた。
あんなに大きい背中だったのに今は小さく見える背中を撫でる。

「真子、一生のお願いがある」
「なんや」



「私の事、信じて欲しい」



さぁ、鬼ごっこを始めよう。



「アホか、最初っから信じとるわボケ」
「うん、そだね…」

今度はきっと大丈夫。


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