09
あの後羊羹を無理やり口に詰め込みながら三番隊舎とさよならをして、七番隊舎に戻ってきた。
結局今日の分の残務なんて全く進んでないから見かねた同僚が少し手伝ってくれて何とか終わらせることができた。そしてラブ隊長は私を見捨ててさっさと定時に帰られました。ひどいよね!
せめて戸締りくらいは私がやるからと言って手伝ってくれた子には先に帰ってもらった。
月明かりだけが頼りの七番隊舎で一人黄昏る。

浦原隊長への根回しは完璧だし、浦原さんなら期限内になんとかしてくれる筈。
後は肝心の目撃証言だけだ。
藍染の斬魄刀は完全催眠。一度でも刀身を見たことがある人間の神経系を支配して幻覚や錯覚を見せる事ができるという何ともやっかいな技。このせいであの日の夜瀞霊廷内に藍染の目撃者が多数いる事から浦原さんの証言は全て却下されたのだ。
だったら紛う事なき証拠を差し出さねばならない。
大多数の目撃証言と、そこにあの男がいたという証拠。
私の斬魄刀の能力で何とかなる気もするけれど、万全を尽くしたい。誤算がなかったのが誤算だって言っていたのだから、今の私が奴にとっての最大の誤算のはず。もっと他にあの時と違うもの。何かないだろうか。

「なーにを悩んでおるんじゃ」
「うひゃおぁ!!!!へ、あっ…二番隊の隊長さん!」
「女子がこんな遅くまで仕事とは感心せんぞー?なんじゃなんじゃ、何かあるなら言うてみぃ?」

完全に思考に没頭していたら突然耳元にゼロ距離で声をかけられて、さすがに体が飛び跳ねた。
慌てて振り返るとそこにいたのは褐色肌を持つ女の人。
あの四大貴族四楓院家の女当主で二番隊隊長の人。雲の上の人が、どうしてここに?

「あの…」
「ん?なんじゃ?」
「聞いたんですか?」
「なにをじゃ」



「浦原隊長に、私のお願い事」



そう言うとピクリと反応した。やっぱりそうだ、あの二人は昔から仲良しだったって言っていたし、夜一さんはあの日の事一声かけてくれなかったの怒っていたから。
悪戯好きそうな大きな目を好奇心でキラキラさせていたそれが細められて、何かを企むようなそんな目に変わった。

「ほう…ずいぶんと頭がいいようじゃな」
「それは、どうも…」
「で?貴様は何を企んでおるんじゃ?霊圧を遮断する外套など作らせるなど、タダ事ではないのじゃろう?それも100人分とは…」
そう言いながら私の隣に腰を下ろす。現世にいた時ならいざ知らず、今の私はただの平隊士、この人は四大貴族現当主で二番隊隊長だ。真子みたいなのとは訳が違うから少し緊張。しかも話してる内容が内容だし。
「あやつは人を見抜く目は持っておる。その頼みを聞いているということはお主は信用に値するという人間という事だ」
「それは光栄ですね」
「しかしお主の企みは誰も知らぬ。仲の良いという五番隊や三番隊の隊長、それに七番隊隊長にすら何も話していないという事ではないか。何か大がかりな事でもするのかと思ってのう…直接聞きに来たという訳じゃ」
「そうですか…」

で?何をするんじゃ?そうやって無邪気な声で私に語りかけてくる。
ちらりと横顔を見ると月明かりに照らされた顔は子供のように純粋だった。

「仲間に入ります?」
「…どういう事じゃ」
「詳しくは言えないんです。いつどこで誰かが盗み聞いているかわからないから。でも四楓院隊長が仲間に入ってくれるなら心強いです」
「ほう…ずいぶん物騒な事をやらかそうとしておるのじゃな?」
「私がやろうとしてるんじゃないんですけどねー私は今のまま平和に暮らしたいだけなんですけど、どうにもそれを許してはくらないようでして」
「で?わしは何をすればよいのじゃ」

四大貴族の当主の言ならば、きっと皆信じてくれる。
強力な協力者ゲットである。
やはり私は恵まれている。強運すぎる。



「鬼ごっこです。お得意でしょう?いつやるかは、すぐわかります。その時が来たら浦原隊長の作った外套来て現地集合です。鬼さんがいるから、鬼さんを捕まえてください。」
「鬼事とは鬼から逃げるものであって捕える物ではないのじゃがなぁ」
「悪い悪い鬼さんなので捕えてください。外套は100人分だから、残りは四楓院隊長のお気に入りの人たちもつれてきてくださいね」
「いいじゃろう、その遊戯儂も参加しよう」



「絶対楽しいです。絶対…でも、失敗しないでくださいね?」
「儂を誰だと思っておる。安心せい」

手ごまは上々。運命の夜はもうすぐそこに


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bkm
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