08
「ぶえーんロ――ズ隊長ぅ―――――!!」


「おやいらっしゃい、もうそんな時間かい?」
「そうそうもうおやつの時間だよ…って違うの!そんな事より聞いてください私の愚痴!!」
「はいはい、じゃあそこに座って。ああ君、お茶をいれてくれるかな?」

ノックもなしに勢いよく三番隊隊首室に入るとそこにはいつも優雅な鳳橋三番隊隊長のお姿。
そろそろ来るであろうと踏んでいたのか三番隊の皆さんは特に驚く様子もなく私をそのまま隊首室に通してくれた。私はいつも三時になると此処に来ているせいで皆さんに三時の合図だと思われているらしい。
というか、そんなことはどうでもいいのだ。
今この私の中に渦巻いている真っ黒のドロドロの感情を、どうかローズの醸し出す和やか〜で落ち着くオーラで私を癒してください。あと美味しいお茶菓子もください。
半泣きになりながら近くのソファに座らされるとその対面にローズも座った。今日の茶菓子は羊羹なようで、少し渋めのお茶が出された。涙でしょっぱくなってる私に丁度いいかもしれない。

「で?どうして泣いてたんだい?またラヴに叱られでもしたのかい?」
「んーん、ラブが怒るのは私のためってわかってるから愚痴なんて言わないもん…」
「じゃあどうしたの?真子の事本気で怒らしちゃった?」
「真子が本気で怒ったら私がやりすぎだって事だからそれも愚痴なんて言わないもん…」
「うーんじゃあなんだい?言ってくれないとわからないよ?」
「言わない、言ったらバレちゃう…けど…ううー思い出したらまた腹立ってきた!どうしようローズ隊長!」

また感情が高ぶってきたから渋い渋いお茶を一口飲んで落ち着かせる。茶柱が立ってるのは気を使われたせいだろうか。ここの人たちはお茶を入れるのがすごく上手ですごいなっていつも思う。後明らかに私より地位が上なのに毎回お茶を淹れてくれてありがたいなって思う。
私本当に昔から平隊士だったのに皆に優遇されてたんだなって改めて実感した。
どうして私こんなに恵まれてたんだろう。本当に謎だ。

「なまえがそこまで人を嫌うのは珍しいね」
「そうかなぁ…」
「そうだよ。だって君、僕たちの見えない所でいろんな人に嫌がらせとかいじめられてたりしてたじゃない」
「……そうだっけ?」
「そうだよ、まぁ僕たち隊長格がこんだけ面倒見てたら僻みと妬みが出ちゃうのは仕方ないかもしれないけどね。もしかして気づいてなかったのかい?」
「うん」

衝撃の事実。確かにぽっと出の流魂街出身の平の平のヒラヒラ隊士がこんだけ隊長格と仲良くしてたらそりゃよく思わない人もいるよね。100年前の私鈍感すぎる。
でも私がどんだけ苛められてたのかなんて覚えてないけど、私の記憶には楽しい思い出しか残ってない。
ラブ隊長に怒られながら仕事してそれで帰りはご褒美に一緒にごはん食べて、そしたら拳西と白にばったり会って白が我儘言って仕方なく拳西がご飯おごる流れになって、そしたらひよ里と真子が喧嘩しててじゃあ二人もどうだいって感じになって、居酒屋さんに行ったら既に京楽さんとリサちゃんがいて相席にみんなでお邪魔して。そういう事が毎日だった。
春が来たら八番隊主催でお花見して、夏になったらみんなで花火を見て、秋になったら焼き芋して、冬になったら雪合戦して、炬燵でぬくぬくしてる真子にどついたり花火片手に走り回る白おっかけたり絡み酒なひよ里の相手したり、皆ずっと一緒にいたから辛い記憶なんてどこにもない。
記憶っていうのは思い出せないだけで、忘れているだけ。でも辛いなんて思ったこと最初からないんだから、そりゃ覚えているはずもない。

ずっと続くのだと思っていたの。心の底からそうだと信じて疑っていなかったの。
それをあの男が壊した。あの夜全てが壊れた。
気が付いたら現世にいた。気が付いたらもう皆、それを説明している浦原さんでさえもう尸魂界には戻れないのだと私たちに告げた。
泣いて怒って悔やんで、残してきた人たちもいた。別れを告げていない人もいた。
リサはずっと心配してた。隊長と八番隊の人たちの事。
拳西はずっと悔やんでた。部下の裏切りに気づけなかった事と部下を無下に殺させてしまったこと。
ひよ里はずっと怒ってた。目の前の浦原さんに、自分たちを嵌めた藍染に、自分達を追放した奴らを殴る方法を知らない自分に。
真子は、どうだったかな。長い髪で表情が見えなかったからあんまり覚えていないけれど、多分泣いていたんだと思う。

許せなかった。どうしても。
目の前で苦しんで泣いて叫んで悲しんで心がどんどん淀んでいく様を、ただ見ているだけしかできない自分。
あの時から、私は自分が許せない。

「ねぇローズ」
「ん?なんだい」
「私昔ね、守りたいものが守れなかったの。私の目の前で皆がどんどん壊れちゃったの。それを見ている事しかできなかったの。その時から私はずっと私が嫌い。世界中の誰よりも私が嫌いなの。」
「そう…」
「でも今度はちゃんと守りたいの。失敗は許されないの。もっともっと強くなりたいの。そのためにはどうしたらいい?」

ずっと茶柱に向けていた視線をゆっくりとあげる。
最初の小さい子供に向けるような視線で私を見ていたローズはどこにもいなかった。目の前にあるのは隊長の顔をしたローズだ。

「強くなりたいなら修行すればいい。剣を極めて白打を極めて鬼道を極めればいい。でも、それだけじゃない」
「うん?」
「強くなるためにはもう一つあるのだけれど…なまえはもう十分それを持っていると思うよ」
「…?どういう事?」

手に持っていた湯呑をコトリと机において、すごくすごく真剣な目を私に向ける。
いつも少しダルそうな顔とは全然違うローズは久しぶりに見たかもしれない。



「自分のためじゃなく、誰かのために強くなりたいと願うなら、君はもう誰よりも強いよ」
「…誰かの、ため…?」
「戦いにおいて一番やってはいけないのは諦める事だ。自らが死を覚悟してしまってはもう既に剣を握っていないも同等だ。しかし誰かを守るために振るう剣は決して最後まで諦めない、強い心があるから絶対に折れない」
「こころ…」

「絶望しない心がなまえを強くして、誰かを守ってくれるはずだよ。覚えておくといい」

誰かを守る心が私を強くする。
皆を守りたいから、私は強くなる。
不安でたまらないし嫌悪で心が濁っていくけれど、それでも立ち向かおう。
100年前からずっと言い聞かせてる。
今度は絶対負けない。

「じゃあ頑張ってローズ隊長たち守らなきゃね!」
「あれ?僕が守られる側なの?なまえに?」
「うん!任せてください!」
「よくわからないけど、じゃあ頼りにしてるね?」
「うん!」

ほら早く羊羹食べないとラヴが迎えに来ちゃうよって言ってるローズも、私の大事な人。
さっさと戻ってこいって言って怒りながら三番隊に乗り込んでくるラブ隊長も私の大事な人。
もちろんリサも拳西も白もひよ里もハッチも、浦原さんとか夜一さんとかテッサイさんとかも大事な人だ。それにそれに真子だって私の大事な大事な人だ。

大事な人がこんなにいるなら、私はきっと誰よりも強い。


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