08
気付いたら医務室のベッドの上だった。当番だった医療兵の人に聞くとどうやらハンジ分隊長に絞殺されかけているところを同じ班の先輩方が救出して、そのままここに運ばれたらしい。時間にして一時間程だが眠っていたらしく丁度通常の業務が終わる時間帯だった。
医務室の人に軽く頭を下げそのままハンジ分隊長の所へ向かう。
その途中班の先輩達に遭遇して、災難だったな、と労いの声をかけられた。一時間とはいえ医務室で仮眠を取ったことを詫びると、

「別にいいさ、なまえは分隊長だけでなくリヴァイ兵長の仕事も手伝ってるから疲れがたまってたんだろ?」
「それに今日は色々あったからな、今日だけは大目に見てやるさ。」

そうやって気を使ってくれた。ぽん、と軽く肩を叩いておつかれ、と声をかけてくれる先輩たちはやけにさわやかで眩しかった。
ありがとうございます、と素直にまた礼を言って食堂へ向かう先輩たちを見送り、絶対に心配しているであろうハンジ分隊長の所にも顔を出そうと再び目的の人物を探し始める。



正直、エルヴィン団長の話はいつも難しくてよく理解ができない。だからいつも作戦とかそういうのは先輩が簡略化して教えてくれる。
団長が何を考えて何を予測して何を見ているのか、私は頭がよくないからいつもわからない。
兵長の事も、結局何が言いたいのかわからなかった。だから私に何を求めているのかもよくわからない。
団長も、兵長も、私に何を求めているんだろう。

一人になると思考する。何も考えていないようで常にぐるぐる回り続ける回路がそろそろショートしそうになった時、私の腕がもがれるかと思う程強い力で引き寄せられた。

「なにをしている。」
「…兵長。」

見上げれば怖い顔をしたリヴァイ兵長がいた。
何事かとあたりを見回せばなんてことはない、人目につかない場所に連れ込まれただけだった。兵長にしてはやけに埃っぽい部屋。よく見ると古い書庫室で紙とインクの匂いが鼻につく。わずかに舞う埃っぽさに鼻の奥がくすぐったくなってくる。
汚い、そう感じ不愉快な気持ちになる。

「答えろ、なまえ。なにをしていた。」
「……ハンジ分隊長を、探していました。心配していると思ったので夕食を食べる前に一目会っておこうかと。」

頭上で大きな舌打ちが聞こえた。目線だけ上にあげると、そこにはやはり不機嫌そうな兵長の顔。
何故怒っているのか皆目見当もつかず、もし部屋が汚いから不機嫌なら自分で連れ込んだせいではないか、と頭の中で一人反論する。
ふいに大きな手が私の頭を乱暴に鷲掴む。驚き肩を震わせると無理矢理上を向かせ、強制的に兵長と視線が交わる。

「ハンジは、自ら触るのか。」
「……え?」

何本か髪が抜けたであろう強い力が徐々に頭部を締め付ける。
この怒りの原因がわからない。私は頭が悪いから兵長の言いたいことがわからない。こんな時に私は言葉も出ず、ただ目蓋をせわしなく瞬きさせる意外の動作を思いつかない、思考の足らない頭なのだから。

「廊下のど真ん中で、いちゃついていただろう。」
「…見てたんですか?」
「そりゃ、あんな往来のど真ん中でぎゃあぎゃあ騒げば嫌でも目に付く。」

忌々しげに顔を歪ませて、片手で私を掴んでいた手が今度は両手で私の顔ごと掴む。包み込むなどという生ぬるいものではなく、大きな手が二つ私を握りつぶそうとする。
痛くて苦しくて、されるがままだったなまえの両手が意思を持ってリヴァイの手を拒む。その手が気に入らないのか更に力を込めるリヴァイ。

「兵長のはいたいから…」
「…あ?」
「私の事汚したいならいいです。私は嫌だけど、兵長が嬉しいなら、私の感情は無視してもいいです…」

だけど、と呟く声。少し震えている。

「痛いのは、いやです…」

この部屋は埃まみれで息苦しい。目の前に兵長がいるとうまく息ができない。兵長の手はいつも私に痛みしか与えてくれない。兵長の言葉は私の思考を破壊する。
もう何もかも苦しくて痛い。どんどん汚くなっていくから、私はどんどん息が出来なくなっていく。兵長のせいで息ができなくなる。苦しい、くるしい。

震える声で懇願するなまえ。荒くなっていく息、うまく呼吸ができないらしい目の前の少女から思わず力を込めていた手を緩める。
無意識に立てていたらしい爪がなまえのこめかみ辺りを傷つける。

「痛く、無ければいいのか。」
「…ぅ、ん。」
「そうか…、」

なまえに触れる時、それはいつも衝動的だ。
汚したいと叫ぶ本能。
その潔癖な性格故長年抑え込まれてきたらしい潔癖とは対極の感情を加減もわからずなまえ相手にぶつけてしまう。
衝動を抑え込む。突き立てそうになる刃を、震える理性で抑え込む。



柔らかいなまえの唇。噛み千切りたくなる衝動を抑え、浅い呼吸を繰り返すその肺に自身の息を送り込む。
その行為を何度かして、しばらくして離れると、はふ、と小さく息を零すなまえ。
互いの唾液で濡れた唇をみていつもとは違う衝動が込み上げた。


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