05
なぜ彼女がその行為を嫌うのか、そう昼下がりの話題としては不適切な話題から始まった。

制止するハンジの声も聴かず、階級が自身の隊長よりも上に兵士長に従順に従う女を今日も給仕係りと執務の整理のため連れ出してきた。厳しい訓練は午前中。午後は先輩兵士が新兵達の訓練を指導し、役職付きや隊長格は午後からこうして書類の整理に追われる。たまに手伝いや補佐として数人の兵士を日替わりで実践訓練に支障をきたさない程度に手伝わせるが、ここ最近はもっぱらその補佐役としてなまえばかり連れ出されていた。
しかし彼女の実力は折紙つきのため同期もほかの兵士たちも文句も言えず口出ししようものなら兵士長に睨まれるため、なんの障害もなく彼女を手足として使う事に支障はなかった。
今日もいつものように部屋に連れ込み、まずは茶の用意をさせる。冷めても美味しいようにいつも少し濃い目に作るのはなまえのたまに見せる気遣いのひとつだ。そういう所が気に入っていたりもする。
普段はそうして茶を用意した後、必要な資料や書類の仕分けを手伝わせる。その間の会話はゼロに等しいが気まずいと感じたことはなく、むしろ心地よく仕事が捗った。

しかし、昨夜言われた言葉。
性行為を汚いと称したからには、何か理由があるのだと考え、それを知らないままにしておく事はできなかった。
故にこの二人きりの空間、時間帯的には不適切だが、話しかける。なぜ、と。
なまえはぼんやりとした顔をわずかに傾け、そして静かに口を開く。

「私は不義理によって産まれた子ですので、幼いころから汚いと称され生きてきましたので、それは汚い行為と思いました。」
「父親がわからねぇのか。」
「はい。母は病弱であまり外には出れないような女性でした。常に両親に守られ外出はせず、家内の仕事をし母を助け生活をしていました。そんなある日両親が何日か留守にする日があって、その折に。」
「…無理やりか。」
「はい。小さな村でしたし療養のため村から少し外れの場所に住んでいましたし。そして母は虚弱ではありましたがそのせいか、見目はよかったので。」

なんでもない事のように家族の後ろ暗い過去を語るなまえ。
既に済んでしまった事実。起こってしまった事柄は今更悔やんだとて仕方がない。
そう言いたげな目で、淡々と語っていく。

「母は病弱で、うちは貧乏でした。堕胎させるにはあまりにも母体に危険が及ぶし、それをするための医者へかかるお金もありませんでした。そして母は私を産み死にました。それから残ってしまった祖父母は私を汚いと称し12歳までの我慢と自分たちに言い聞かせ最低限の食事だけを与え育てられました。」

訓練兵団へ志願できる年になって私は捨てられました。
そう語るなまえに、かける言葉はなかった。

「調査兵団へ志願したのも、産み捨てられた命でも多少の役には立てるかと思ったので。」
「死ぬつもりだったのか。」
「はい…しかしこうして死んでいないという事は顔も名前も知らない父のおかげなのでしょう。病弱であった母から壁外で生き残れる運動神経と瞬発力が遺伝されるとは思えませんし。」

その目に、言葉の端々に、恨みの類を感じ取ることはできなかった。
母が病弱であったのは誰のせいでもなく、父の行為を攻めるとしてもその遺伝子のおかげでこうして未だに生きていられるのなら責め立て恨むことも出来ない。祖父母の態度も当然の事で、恨むことは出来ない。
だからこそ、母と父の間に行われた行為を嫌うしかなかった。愛のないそれを、許すことはできなかった。
彼女が潔癖症なのも、汚いと言われ生き続けてきたなまえにとって、常に自身と身の回りを綺麗にすることでなんとか祖父母に好かれようとした幼い心故。

なまえの暗い過去をまるで小説の物語を読み上げるように聞かされ、終わった後、わずかに冷めたコーヒーを一口飲む。

「…性行為が汚いと言ったな。」
「ちがう、感情のない行為が汚いと思いました。だからお金でそういうことをしている幹部の人達は汚いと思います。」
「男ならば仕方ねェ、どこかで出さないと。命のやり取りをしているならその欲求は尚更だ。」
「……兵長なら恋人の一人や二人簡単でしょうに。女を好きになったりはしないんですか?」
「ねぇな。女は面倒くせぇ。それに、恋だの愛だのにうつつを抜かす暇もない。第一、俺もあの性行為はあまり好かん。」

じゃあやるなよ、と半目で訴えてくるがそれを睨み返す。だから男だから仕方ないのだ。女にはわからないだろう。
まるで言い訳のようだ、と思う。
浮気がばれた情けない男のようだと。

「気持ちがあるなら許せるのか。」
「……子供がほしくて、望まれて身籠るなら、性行為は手段でしかないです。それに良いも悪いもないと思いますけど。」
「確かに、そうだ。」

椅子がギシリと悲鳴をあげる。
ゆらりと立ち上がったリヴァイをなまえは目で追う。
一歩一歩とこちらにむかって歩いてくる上司に、彼女はわずかに身じろぎをする。しかし朝方言われた「受け入れろ、享受しろ。」という言葉を思い出し、その手を取った自分を思いだし、その場に留まる。

「俺の気持ちがお前に傾いていれば、お前は行為を受け入れるのか?」
「……セクハラです、兵長。」
「答えろ、なまえ。」

頬を掴み、無理やり顔を寄せ、食いちぎるように強く耳を齧る。痛みでびくりと震える肩、耳たぶから滴る血を見てまたひとつ汚した事への快感を一つ味わう。

「…兵長は汚いので、それをしたら私今度こそ救いようがないくらい汚くなっちゃうので、やめてください。」

あと触らないでください。後付けのように拒否の言葉を口にして、力なく拒む。
それを無理やり力づくで抑え込み、耳から垂れる血を舐めとった。

いつかはする。しかし今ではない。
母と同じではつまらない。
どうせ交わるならば、最上級の悦楽を与え、そして手ずからこの手で壊して穢してやろう。

それを楽しみに、じっくりとなまえをまた汚していく。


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