04
翌朝、珍しく怒りをあらわにしたハンジがリヴァイの私室に乗り込んできた。

「まったく君って男は…なまえ私の部下なのにさも自分の手足のように使っているだけでなく、まさか自分のストレス発散で彼女を使うなんてね!見損なったよ!!」
「うるせぇ朝から騒ぐな。」

そう、実は彼女はハンジの部下なのだ。
実力はもちろんだが、その斜め上からの他人がすぐには考え付かないような提案をポツリという彼女は、謎の多い巨人の生態研究を主とするハンジ班にはぴったりであった。なまえ故には新兵ながらもハンジ班に所属し、普段はハンジが研究の為にと散らかし放題の部屋を片付けるのが主な仕事としていた。
しかしその綺麗好きさをリヴァイが気に入りハンジ班での仕事もそこそこに無理矢理リヴァイの仕事も手伝わせていた。上官に命令と言われれば逆らうことができないのが兵士の宿命である。
ハンジも普段は彼女も不満はないし、リヴァイは数少ない友人という事で目を瞑っていたが、さすがに今朝顔や身体を痣まみれにして朝食を食べていたのにはさすがに憤りを隠せなかったという。

「なまえは俺を汚いと言った。だから殴った。」
「女の子を殴ることないじゃないか!男として最低だね!!」
「最低なものか。綺麗な人間なんていやしないから、俺が手ずから汚してやったと言うのに…感謝こそされ、攻められる言われはねぇぞ。」

当然とでも言うように、至極当たり前の事だと口にすれば、目の前に仁王立ちしていたハンジは驚愕した。
情けなく目を見開いて、何か言ってやろうとして開いた口は言葉を発することはなかった。



コンコン、と二人の固まってしまった空気を切り裂くように扉が音を立てた。
見やれば話題の当人が、頬や額に湿布をしたなまえが静かに扉を開けた。

「ハンジ分隊長、モブリット先輩が探してましたけど…」

未だ少し眠気の残るらしい目がハンジを捕えると要件のみの言葉を静かに発した。

「なまえ、こちらに来い。」

呼べば素直にこちらに歩いてくる。
ハンジの隣に静かに立つと、小さく首を傾けた。
その目に恐怖はなかった。痣と湿布塗れになった原因の男を前にしても、昨日までと同じ、その目に映るのは上司としてのリヴァイだけだった。

「俺は汚いか、なまえ。」
「…はい、汚いです。」
「なら、俺に殴られその顔と身体を傷だらけにされたお前はどうだ。」
「汚いです。」

だからなんだ、と疑問をあらわにするなまえ。
隣のハンジが心配そうになまえを見下ろす。

「でも、兵長は昨日嬉しそうだから気にしてないです。別に。」
「なまえ!なにいってんの!!」
「本当です、ハンジ分隊長。私気にしてないです。だから兵長を攻めるのは駄目です。」
「だ、そうだ、ハンジ。わかったら出ていけ、仕事の邪魔だ。」

本人に不満がないとなればこれ以上ハンジは口出しができない。口を噤み言いたかった不平不満をすべて拳を握りしめるという事で耐え、そしてなまえの手を引いて部屋を出ようとする。
待て、と二人の足を止めさせたのはリヴァイだった。
立ち上がり、机を回りなまえのすぐ隣に立つとリヴァイよりも遥かに小柄ななまえを見下ろした。

「俺の手をとれ、なまえ。」
「嫌です、汚いです。」
「命令だ。俺の命令が聞けないのか。」
「………聞きます。」

嫌悪をわずかに滲ませながらも、従順に命令とあればそれを聞く。添えられた手を取り強く引き寄せる。
痣まみれになったその顔を愛しく想い、わずかに腫れあがった目蓋に口づけを落とす。昨夜の夜のような歓喜がまた体の底から湧き上がってきた。
視界の端で再びハンジが驚愕した。わなわなと震え、目の前で繰り広げられる惨事に最早言葉も出ず身体も固まってしまったらしい。

「俺を受け入れ享受しろ。いいな?なまえ。」
「…兵長、また嬉しそう。」
「ああ、嬉しいさ。綺麗なお前をこうして汚せるんだからな。」

そして湧き上がる高揚感。
この歓喜の原因がようやく分かった。

綺麗好きな男と綺麗好きな女。二人は常に清浄で正常だった。
しかし男を汚いと称した女。汚いと称された女。
汚れを常に嫌う男は女を汚す快感を覚えた。誰よりも綺麗であった女を自身の手で汚れていく様を見るのは快感以外の何物でもなかった。
汚す喜びを知った。



「君の愛は異常すぎるよ!リヴァイ!!なまえ、もうリヴァイに近づいちゃだめだからね!!」
「…でも命令、」
「なまえの上司は私だからリヴァイの命令なんてきかなくていいの!」
「階級的には俺の方が上だがな。」
「だめったらだめ!なまえはもうあげないから!!」

異常をきたした二人の関係。
それでもなまえは再びリヴァイの元を訪れるだろう。
敬愛する上司が喜ぶならと、自身が汚れるのも厭わずに。


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