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あの後私服に着替え馬にまたがった兵長を見送って、その後途中だった部屋の清掃を終わらせる。といっても自室ではなく兵長の部屋だが。
別にそのまま帰ってもよかったのがだ途中で投げ出すのはあまり好きではないので部屋の掃除をし、兵長の投げ捨てたシャツやジャケットを洗濯して取り込む頃にはすっかり日も沈んだ頃だった。
そういえば朝帰りだ、とぼんやり思いながら自室に戻るとすっかりヘソを曲げたぺトラのご機嫌取りに夜の時間は費やされた。

翌日はなぜか盛大に散らかってしまっているハンジ分隊長の机を片付けつつ書類の作成を進める。先輩達が分隊長の相手をしていてくれているおかげで事務作業はずいぶん早く終わってしまった。
午後からはリヴァイ兵長の分の書類を作っていると、ハンジ分隊長がやってきて文句ぶーたれていた。頼まれたからやっているのだ、命令と言われれば従うしかない一般兵士の性なのだから仕方がない。それに、この班での私の仕事は当に済んでいる。ならば午後は好きに使ってもいいだろう、と、正論を投げかければ悔しそうに言葉を詰まらせたハンジ分隊長。

「なまえ、だんだんリヴァイに似てきてない?」
「まさか。」

そんな訳ないだろう、と一蹴して再び作業に取り掛かる。
それ以降ハンジ分隊長に邪魔もされずに仕事できたせいか、まだ夕方になる前に終わってしまった。
今日の業務は終了してしまった。
報告書さえ提出してしまえば、あとはおしまいだ。リヴァイ兵長分の書類も終わった今すっかり手持無沙汰になってしまった私はぼんやりと人気もまばらな調査兵団内をとぼとぼ歩く。
散歩するなら深夜が好きなのだが、たまには昼下がりのこの時間もいいかもしれない。木陰から差し込む陽光を見上げ、ざわざわとそよぐ風を感じていると、後ろから名前を呼ばれた。



「やぁ」
「…エルヴィン団長。」

とりあえず、まずは敬礼だろうと心臓を捧げる形を取るが、すぐにそれをやめるよう指示が飛ぶので手だけ下ろした。

「なにをしていたんだい?」
「…仕事が終わったので、散歩してました…」
「そうか、ずいぶんと早いんだね。」
「…頭を使うの、好きなので…ハンジ分隊長さえ邪魔してこなければ。」

ハハ、と隣で乾いた笑いを零す。ハンジが迷惑かけてごめんね、と何故か分隊長である部下をただの兵士に謝罪するのはどこかちぐはぐしていないか、と首を傾ける。
そんな事は気にする風もなく、ただのんびりと二人の間に気まずい空気が流れる。
風が木の葉をこする音だけを聞いていると、その微睡むような空間を壊すように言葉を一言発した。

「リヴァイはどうだい?」

なんのことだと、一瞬悩ませる。が、すぐに思い当たった。
そういえばハンジ分隊長が色々騒いでいたこともあったなぁ、と思いだして、その後職権乱用とも取れるような命令を下されたことを思い出した。

「どう、と言われましても…」
「見たところ怪我はしていないようだね。」
「…はい、噛みつかれる事も引っかかれる事も無くなりました。どうしてなのかは、わかりませんが。」

すいません、と消えそうな声で呟く。
なんとかしろと命令をされ、なんとかなったはいいが原因がわからないのでは命令の半分も遂行できなかったという事だ。不甲斐ない自分が恥ずかしく申し訳ないと思い謝罪を口にすると、ぽん、と軽い音を立てて肩を叩かれる。


「謝る必要はない。リヴァイが痛みを与える事なく女性を愛せるようになったのは君のおかげだからね。」


その言葉に違和感を覚えた。

「君のおかげだ、ありがとうなまえ。」

そう言って手を取られ、手慣れた手つきで指先に口づけられた。
普段ならいくら団長であろうと男性にそんな事をされれば拒絶の意を明確に示すなまえが、いまはただただされるがままだった。

「今のリヴァイなら貴族のお嬢さん達に乱暴な事はしないだろうから、安心して夜会に行ってもらえるね。」

私もあれはあまり苦手なんだよ、と苦笑しながらそう言う。
しかしなまえの耳には何も聞こえていなかった。ただぼんやりと木の葉がざわめき絶えずそよぐ陽光を見上げていた。

「ああ…呼び止めてすまないね、もう行っていいよ。」
「……、はい。」

そう言われその場から立ち去る。
この違和感は、一体なに?


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