15
朝日が昇りその眩しさに目を覚ます。
壁外調査が終わった翌日は一般兵は休日。班長以上の者は午後から簡単な会議で比較的ゆったりとしたスケジュールになる。
だが明日からは死亡した兵士の遺品整理や書類の作成など、精神的にかなりきつい仕事が待っているが。だからこそ今日一日だけはそれを忘れただ生きて帰ってきたことを実感させるための、僅かばかりの恩情だ。

太陽の位置的にまだ昼には到底早い時間だろう。しかしすっかり冷めてしまった思考では再び眠ることは不可能だろう。
諦めて起床する。その際隣でいまだ安らかに眠るなまえを起こさないよう、最新の注意を払いながら。
いつもなら数週間留守にして積もってしまった埃の掃除をしようとするのだが、今回に限ってはどうにもそんな気分にはなれなかった。
とりあえず顔を洗っていつもの制服に着替える。血塗れになったものは昨日捨ててしまったので新しいシャツを下ろす。パキっとした感触にわずかに違和感を覚えながらもベルトの装着に取り掛かる。

「……へいちょー?」
「…起きたのか。」
「はい…おはようございます、」
「まだ寝ててもいいぞ。今日は休みだろう。」

舌ったらずな声で名前を呼ぶ。その声に振り返ると未だ眠そうに瞼をこするなまえがもぞりと布団の中から起き上がった。
ベルトの装着を終え、ベッドの方を見ると未だ眠そうな目でこちらをじっと見つめている。わずかに紅潮している頬を撫で「どうした。」と声をかけると、ワンテンポ遅れてゆっくりと首を振った。
身を屈めて俯いてしまった額に口づける。肩がぴくりと小さく反応する。頬に添えていた手を顎まで滑らせて、少しだけ力を込めて上を向かせる。

「目ぇあけろ、なまえ。」
「…で、も…っ」
「あけろ。命令だ。」

命令という言葉に閉じられた睫毛が小さく震える。恐る恐るゆっくりと瞼をあけると、それを合図にもう一度二人の距離を縮める。
命令と言う言葉には必ず従う。いますぐ目を閉じて顔を背けたいという衝動を押し殺し、なんとか命令に従おうとする健気ななまえ。
込み上げる愛しさをそのまま口付けと共になまえの中へと流し込む。
お互いに目を開けているからよく見える、目は口ほどに物を言うという言葉はこのことか。
どんなに言葉で拒絶してもその目の奥には羞恥と恍惚の色が見え隠れしている。

「私まだ、歯磨きしてないのに…」
「ああ…そうだな、」
「……兵長は嫌じゃないんですか?」

その質問の代わりにもう一度、今度は深く深く呼吸すら食べてしまう程激しく口内を貪る。
口の端から飲みきれなかった唾液が一筋線を作って下に垂れていく。それを指で掬ってもう一度口内に差し入れれば、たどたどしく指を舐めとる。
本当に、ここまでするのに時間がかかったと感慨深くなりながら、なまえの唾液まみれになった指を引き抜いてハンカチでふき取る。
ちらりと横目でなまえを見ると耳まで顔を赤くさせ涙目になりつつも唾液まみれになってしまった口元をもごもごと動かしていた。

「なまえ。」
「…はい?」
「お前がやれ、」

そう言ってスカーフを手渡せば戸惑い気味に受け取る。
ゆっくりとした動作でそれを結ぶ。時折「苦しくないですか、」と声をかけてくる。緊張しているのだろう。わずかに震える手がたまらなく愛しく思える。
そしてゆっくりと目を閉じる、衣擦れの音だけが響くこの空間を感じるために。



二人の静寂は突如として打ち切られた。
ドスドスと巨人のような荒々しい音を立てて近づいてくる足音に、眉根を寄せてリヴァイは目を開けた。突然不機嫌になったリヴァイに怯えたような表情になったなまえを宥めて、開かれるだろう扉の方に目を向ける。

「なまえを返せ!!!」
「うるせぇぞクソメガネ…」

朝っぱらから程よく錯乱して人の部屋にノックもせずに扉を蹴り破って入ってきたハンジに大きな舌打ちをかます。
隣でいつもの口調でただ一言「ハンジ分隊長」と呟くなまえ。
なまえの姿を見て、声をより一層荒げる。

「リヴァイとの交際を許した覚えなんてないんだけど!!!!第一なまえは女の子なんだから男の部屋なんかに泊まっちゃダメでしょ!!!襲われたらどうするの、危ないじゃないか!!!」
「…リヴァイ兵長ならそこらの暴漢でも簡単にやっつけられると思いますけど…」
「そのリヴァイが危ないんだってば!!!いい加減自覚もって!お願いだから!!」

先ほどまでの顔を赤くしていたなまえは、すっかりいつもの調子のなまえに戻ってしまった。
それを少し残念に思いながらもハンジの言葉にどこかずれた返答をするなまえに、ハンジは母音に濁点を付けて叫びながら髪をかきむしる。
髪の毛とフケが飛ぶだろう、とハンジの腹を蹴り飛ばす。手加減してやったためそんなにダメージはないはずなのに、大げさに床にへたり込む。

「なまえとはなんもねぇ、一緒に寝ただけだ。」
「じゃあなんでそんな新婚夫婦みたいな空気出してたのさ!!なまえの事に関してはリヴァイの言葉なんて絶対に信用しないって決めたから!!」
「チッ…ならなまえに聞け。身体のどこも、おかしいところなんてないだろう?なまえ。」
「はい。ハンジ分隊長も、落ち着いてください。」

大人げないですよ、というなまえの言葉を聞いて今度は泣き出した。
つくづく面倒な奴だと今度は大きなため息をついてやった。

「うぅ…なまえは私とリヴァイどっちが好きなのさぁ〜」
「どっちも好きです。でもどちらかといえばリヴァイ兵長です、ハンジ分隊長はたまに汚いので。」
「ちっくしょう!!潔癖症コンビめ!!!!」

もういい!と捨て台詞を叫んで勢いよく立ち上がる。
一体なんだったんだと疑問を言えば去り際に「エルヴィンが呼んでたよ!」と叫んで大きな音を立てて扉を閉め走り去っていった。
そういうことは最初に言え、と、今度会った時に蹴り飛ばしてやろうと心に決めた。



「俺が好きかなまえ。」
「…はい。リヴァイ兵長は敬愛すべき上司ですから。だから、兵長が汚いのは残念です。」

そうか、と言葉を呟くと、心底残念そうに顔を伏せる。

「だが、なまえももう充分俺に汚されただろう…?」
「それもそうですね…」

いってくる、そう一言告げてなまえの頭を撫でる。その手をおもむろに手に取って甲のあたりに口づけると小さな声でいってらっしゃいと呟いた。
恥ずかしいなら別にしなくてもいい、と言葉をかけると泣きそうな顔で一度だけ頷いた。


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