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腕が濡れたから泣いたのだろう。あやす様に髪を梳いて撫でてやればついに肩を震わせて泣き出した。
あの深夜に遭遇した頃よりに比べればかなり進歩したと、リヴァイは思った。
汚いと拒絶し、命令と言えば嫌々ながらも受け入れていたなまえ。痛めつけ傷をつけ自ら汚いと称した男に汚され続け傷をつけ続けられ、そしたらせめて痛いのは嫌だと懇願した。
ならば拒絶するな、拒否するな、すべての行為を受け入れろと指示を出せば従順にそれに従うのは性格故か、虐げられて生きてきた育ち故か。

躾に聞くのは痛みだが、言いつけを守れた子供には褒美も必要だ。
それからなまえは拒絶の言葉も拒否の態度も示さず、従順に、すべての行為を受け入れた。心がまだ拒否するのかその度に浅い呼吸になっては直接その肺に自らの息を送り込むと、苦しそうな顔がわずかに緩む。
呼吸するのさえ自身の思い通りなのだと、キスをするたび気分が高揚した。

「……、」

言葉にならない声でなまえを呼ぶ。静かに寝息を立てるなまえ。可愛いなまえ。愛しいなまえ。弱いなまえ。
今回の壁外調査でどんなに成果をあげようと、リヴァイにとっては呼吸すらままならない弱い少女でしかない。現に先ほど目を覚ました時苦しそうに枕にされている腕に縋っていた。その感触に目を覚ました訳だ。
こんなに弱いのに、壁外調査で成果を上げてしまえば着実に昇進の道を歩むだろう。近いうちに班長でも任せられるかもしれない。数年後には分隊長にだってなれる実力もある。
そうなればどんどんリヴァイから離れて行ってしまう。

強い故、戦力の偏りと言われ特別作戦班に組み入れる事は叶わなかった。当時は別段なまえに思い入れもなく、ただ掃除を言い渡せば隅々まで塵ひとつなく終わらせてくるからそこが気に入っていただけだ。
だが今は違う。
可愛い私の部下、と声を大にして叫ぶハンジを恨めしく思う。ハンジにされるがままのなまえに腹が立つ。同じ班の野郎どもに労わられ可愛がられているなまえを見るとどうしようもない怒りが込み上げる。

ふいに込み上げてきた憤りのやり場を探そうにもなまえは未だ寝ている。粗相をしていない人間に躾をするのは自論に反する。
さて、どうしようかと悩んでいると、ふと投げ出された白い小さな手が目に入る。
手に取ってみると柔らかくよく見ると小さい傷まみれだった。昨日まで壁外調査に出ていたせいで掌は潰れた豆だらけになっていて、女性の手というよりは兵士の手だった。
しかし指も手首も細く今にも折れそうなほどか弱い。

その手を取ってゆっくりと起こさぬように口元に持っていく。
もう一度傷をつけよう。
出来るならこの手に手錠でもかけてずっとそばに置いておきたいが、それはできない。
なら傷をつけよう。痕をつけよう。手錠のように手首にいくつも幾重にも鬱血痕を残す。
その痕すべてに、やり場のない叶わぬ欲を詰めて。


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bkm
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