13
何かに締め付けられる感覚を覚えて沈んでいた意識が浮上する。
瞬きを何度かして何とか視力を取り戻す。明かりは消され窓から差し込む朝焼けがぼんやりと部屋を照らす。暗闇に慣れてきた目が、部屋の全貌を認識し、ここが自室ではないということを理解した。
そして自室ではないならここはどこだろう、という疑問が出てきた。眠気からくる心地よい微睡みから回復してきた思考を働かせる。
昨夜の事を思い出す、しかしそれを思い出す前に自分の身体を締め付ける力強いそれに目をむけた。
そして一人合点がいくと、ここがどこかも納得した。

潔癖症のくせに一緒に寝ることは厭わないのか、とぼんやり考える。
つむじあたりに感じる風はきっとリヴァイ兵長の寝息の所為なんだろう。やけに固い枕は腕枕だろうか。兵長はかなり筋肉質だから、固くて寝心地はあまりよくないなぁと心の中で感想を零しつつ、さてこの状況をどうしようかと思考する。
状況を説明するなら、リヴァイ兵長の部屋で同じベッドで後ろから抱きしめられててその力があまりにも強くて自力で抜け出せそうにないという状況である。そして起こしてしまうのは忍びない、昨日まで壁外にいたのだから私もかなり疲弊している。兵長だって同じはず、もしかしたら私よりも疲れているかもしれないのだから、無駄な体力を使わせてしまうのも申し訳ない。
だからと言ってこの状況から抜け出したくない訳でもなく、この状況を我慢してもう一度寝るには少し苦しい。

せめてお腹に纏わりつく腕だけでもなんとかならないかと、触れてみるがビクともしなかった。一介の兵士で女のなまえが人類最強と名高いリヴァイの力に適う訳もなく。というか寝ているのにこんなに締め付ける事ないじゃないか、とわずかな不満も生まれた。

ふぅ、と息を吐く。
知らずに呼吸することを疎かにしていたらしく大きく息を吸ってそして吐きだす。どうにも上手くいかず浅い呼吸にしかならない。
リヴァイ兵長に触れられると息が上手くできなくなるのは躾られた所為だろう。それと、なまえ自身の命令に従順すぎる性格の所為でもあるのだろうけど。



「…なまえ?」
「は…、ふ…?」
「どうした?なまえ。」
「くるし…、へいちょ…」

掠れた声で名前を呼ばれた。起こすつもりはなかったのだが、どうやら起こしてしまったらしい。
それを詫びようと思うのだがどうにも上手く言葉を発することが出来ない。なんとか苦しいという事だけ伝えると、ああ、と呟いてお腹あたりに巻き付いていた腕の力が弱まった。

「ふ…、は…、」
「なまえ、こっち向け。」
「…?」

横向きに寝ていた身体を無理矢理仰向けにされる。兵長の手が頬を撫で、そして一瞬の間を置いてゆっくりと吐息まじりの口付けが降ってくる。それでようやく呼吸が楽になる。
いつの間にか力んで固くなっていたらしい身体の力を溜息と共に抜くと、お互いの唾液で濡れたなまえの唇をリヴァイが指で拭った。
ゆっくりと目を開け覆いかぶさっているリヴァイを見上げると、リヴァイも未だ眠いのか目が若干座っていた。

「寝ろ。今日は休みだろ。」
「…兵長は休みじゃないです…」
「まだ寝れる…いいから寝ろ。」

そう言ってリヴァイ兵長は再び寝る体制を取った。結局また腕枕をされて腰を強く引き寄せられれば抵抗しても無駄だろう。そしてこの状況で部屋に帰りたいと言っても返してもらえないだろう。
心の中でこっそり溜息をついて、せめて背を向けて向かい合わせで抱きしめられるというあたかも恋人のような事だけは避けようとせめてもの抵抗をする。
固い筋肉質な腕枕の上でもぞもぞとなんとかいい位置を探す。位置取りがしっくり決まった所で諦めたように布団に包まる。


視界の端に、だらしなく力の抜けた手が放り出されているのが見えた。
私はこの手を拒む事を許されていないのだ。
ならば、おこがましく求める事は許されないのかと、疑問が浮かぶ。

「なまえ、どうかしたのか…?」
「…なんでも、ないです…」

汚いはずなのに。
触られたくもなかったはずなのに、今はこうして享受してしまっている。
最初の頃よりも不快感を感じなくなってしまった。
考えれば考える程自分がわからなくなって、そんな自分を見られたくなくて顔をうつぶせにして隠す。

そんなことない。
この腕が、愛しいなんて。
じわりと滲む涙。優しく撫でられる手。溢れだす感情を制御できなくて、こっそりと私を支える腕にキスをする。
それに答えるように強く抱きしめられ、今度こそ涙が溢れた。


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