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結果を言うならば兵士の被害はいつもよりも少なく今回の壁外調査は終わった。目的の物資も無事に設置し、巨人の討伐数においては過去の統計的に見てもかなりの実績を残した。
それを冷静に分析するなら一重になまえの実力故、というべきか。
通常ならば後ろの部隊に任せるような低級巨人もなまえは率先して殲滅しに行ったという。その度班員がフォローし、その班員達も血の気の多いものばかり故我先にと殲滅していった結果らしい。
そのため後ろに流れてくる巨人はほぼおらず、巨人と遭遇したとしても班長クラスの人間が対応できる数しか来なかったため結果死亡率も下がり、討伐数も類を見ない数となった。

「なまえはちゃーんと私の班に返してもらうからね!!」
「それは惜しいな、彼女を正式に前線班に移してもよさそうだが?」
「だめったらダメ!エルヴィンだって今回だけってちゃんと約束しただろう!?」

本部につくなり奇行種かと見間違うほど興奮したハンジ分隊長に文字通り飛びつかれた。しかし170cmの人間を受け止められるほど私はそこまで筋肉がついておらず、されるがまま140cmしかない私は押し倒される形になった。
倒れこむ私の背中を慌ててモブリット先輩が支えてくれた。
そういえば、このやり取りも久しぶりだなと頭の中で懐かしむ。
他の先輩が慌ててハンジ分隊長を引き離そうと躍起になり、背中を支えてくれたモブリット先輩が大丈夫か、と声をかけその言葉に無言でうなずく。背中が痛いが、まぁ特に問題はない。
壁の外では無傷なのに戻った途端怪我をするとは何事だ、と不貞腐れそうになるがそれほど心配されていたという事だろう。今回に限ってはハンジ分隊長の奇行も許そう、と自己完結する。

「なまえ。」

名前を呼ばれ振り返る。その瞬間隣で頬ずりしていたハンジ分隊長がうめき声をあげてその場にへたり込む。
うずくまってしまったハンジ分隊長を見て、そしてその後ろの人物を見る。
きっとハンジの背中を蹴り飛ばしたのだろう。蹴り飛ばしたまま足をあげた状態で、そして機嫌が最高潮に悪いリヴァイ兵長がそこにいた。

「おせぇぞ、お前ら…これから会議だろうが。」
「ぐは…リヴァイ、君って奴は…っ」
「エルヴィンもだ。何油を売っている。」
「今回一番働いてくれた兵士に労いの言葉をかけるのは団長の務めだよリヴァイ。すまない、今いく。」

さっさとしろ、そう吐き捨てて未だうずくまるハンジ分隊長を引きずり歩いていく。
これから班長と分隊長を集め今回の被害報告と総括の簡単な会議らしい。そして後日詳細を書いた書類を提出して壁外調査は全て終了する。といっても疲れも残っているため被害報告を簡単に口頭で伝えるだけの集まりだが、どうにもハンジと団長がやってこないためリヴァイ兵長が直々に赴いたらしい。
口だけで謝罪を伝える団長に舌打ちをして、そして、もう一度振り返る。

「あとで部屋にこい、いいな、なまえ。」
「…命令ですか。」
「命令だ。」

わかりました、と返答すると満足したのか今度こそ立ち去る。その会話を聞いてハンジ分隊長が再び騒ぎ出したが今度はその脳天に拳骨をお年今度こそ昇天させていた。
いつもの日常が戻ったのか、と戦場に出て張りつめていた神経をゆっくりと緩める。
同時に出た溜息を、兵長に呼び出された事による物かとな勘違いしたらしい周りの先輩兵士が慰める言葉をかけたが、それを否定するのも面倒くさく黙ってうなずいておいた。
最初の時ほど暴力は振るわれていない、と否定する言葉を発するのも億劫なほど私は疲れ切っていた。



調査兵団本部に戻り、通常の業務は明日からという事で今日は残り自由時間だった。だから身支度を整え血と土まみれだった為すぐに風呂にはいった。汚れてしまった調査兵団の緑のケープと制服を選択して、それから立体起動のメンテナンスをすればすぐに夕食の時間になった。
いつものようにぺトラと一緒にご飯を食べ、そしてもう一度お風呂に入ったところで、そういえば、と思い出した。
そう、すっかり忘れていた。
だが疲れていたせいだから、仕方がない気もするが。
怒っているだろうかと若干ビクビクしながらも、兵長の自室の扉を控えめに叩く。

「おせぇ。」
「すいません、実はすっかり忘れていました。」
「チッ…まぁいい、こい。」

扉を開けると不機嫌そうに眉根を寄せたリヴァイ兵長がいた。
お風呂にも入り終えたらしくわずかに湿った髪にいつもの調査兵団の制服ではなくラフな部屋着で、そういえば兵長のこういう姿を見るのは初めてかもしれないと考えた。
自室で、こんなに無防備な姿を曝け出して、兵長のテリトリーに無理矢理引きずるこまれているような感覚に陥る。私としてはそこまでお近づきになる気も更々ないのだが、早くしろと急かす声にゆっくりと扉をくぐった。
近くまで来ると強引に手を引かれ、上等と思われる柔らかいソファに無理矢理座らされた。ギシギシと音をたてる毎日書類整理のために座っている椅子とは違い包み込むようにやわらかな感触に思わず息をのむ。
真綿の上に落とされた感覚は底辺で生きてきた私には初めての感覚だった。

「……どうした、なまえ?」
「あ…、えっと、柔らかいなぁって。」
「ああ、ソファの事か…」

もらいもんだ。そう興味なさげに呟く。
きっと中央の偉い人がご機嫌取りに寄越したものなのだろう。彼にとってはなんの思い入れもないらしいが、無理矢理押し付けられたものを無下にもできずこうしてとりあえず部屋に置いているという状態らしい。
兵長の地位につくとこういうものまで無条件でもらえるのか、と感心し、まぁ人類最強って言われているからこれくらいは当たり前か、と変に納得する。
二度と味わえないかもしれないソファの柔らかさを存分に堪能し、真綿のような感触でひたすら楽しんでいると、近くにいた兵長が小さく笑った。

「気に入ったならいつでも来い。」
「え…あー、いや、大丈夫です。迷惑でしょうし。」
「別に、なまえなら許す。」
「大丈夫です、本当に…」

私がそこまで兵長に甘えるのはおこがましいので。
そう、言葉を発すると、笑っていたはずの兵長の機嫌が一気に急降下した。
瞬間視界が反転し、今度は身体ごとそのソファに沈められる。以前のような埃まみれの書庫の床よりはマシだが、大の男に伸し掛かられてさすがに息苦しくあまり気分のいいものでもない。

「あ、の…兵長…?」

反論するなと教え込まれた。
反抗するなと叩き込まれた。
故に瞳を揺らして見上げて、この状況を問う事しかできない。

「なまえが俺のものになれば、俺の部屋にいようとなんの問題もないだろう?」
「…はっ、ふ…ぅん…だ、けど…」
「なまえ、安心しろ。この数週間で消えてしまったもの全部付け直してやる。」

まず最初に髪からはじまり、瞼に口づけ、耳元で熱く息を含んだ声で囁かれる。びくびくと震えるがそんなもの兵長の体に押さえつけられていては何の意味もなさず、罠にかかった兎のように弱弱しく声をあげるしかない。
鼻の頭を吐息が滑り、そして深い深い口づけを送られる。差し込まれた舌がざらざらして粘膜同士の触れ合いはぬめぬめして気持ち悪い事この上ないが固く目を瞑り耐えるしかない。
それから喉元を兵長の細い髪が柔らかく擽り、首筋をゴツゴツした手が撫で上げる。
鎖骨をべろりと舐め、今日はその少し舌。下着が見えるギリギリの位置までシャツを肌蹴させそしてそこを丹念に舐めて吸って、跡をつけられる。
せっかく消えたのにまた兵長の印まみれになる身体を想像して、汚いという感覚より恥ずかしいという感情が前にでる。

「ぅ…ん、…っ」
「なまえ…なまえ、」

高ぶった熱が言葉と共に、吐息と共に吐きだされる。
それを聞くたび思考が深く深く暗い場所に沈んでいく。
殴って噛みついていた兵長が今は真綿で包むように触れてくる。その柔らかい手に段々虜にされているのかもしれない、と頭の端で考え、そして今度こそ意識と共に暗闇に沈んだ。


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