11
なまえは今回の壁外調査では慣れたハンジ班ではなく、別の班に配属された。移動という訳ではなく今回の調査のみという訳らしく連携の確認や意思疎通のため二週間前からハンジ班を離れていた。同時にリヴァイ兵長からも遠ざかりつけられた傷は徐々に癒えていまでは跡形もなくなっていた。
今回、新兵だがその功績と実力を買われ、調査において一番死亡率が高く危険とされる超前線部隊をあてがわれた。
真っ先に巨人と遭遇しそれを奇行種か通常の巨人かを発煙弾にて知らせ、後続部隊に危険が及ぶようなら殲滅させる。役割はそれだった。
比較的シンプルだ、となまえは楽観視した、用は巨人に出会ったら殺せばいいのだろう?そう言うと班の先輩兵士は豪快に笑った。
幾度も死線を潜り抜けてきたこの班は男らしく豪快な人ばかりで中々に居心地がよく、そして直情的で巨人殲滅という事しか頭にない、悪く言えばまぁ、単純な人ばかりだったから意思疎通も難なく行われ連携も今回限りというにはあまりに惜しい程見事な連携を見せた。
新しい班に合流する前にハンジは泣いて喚いて引き留めたが、これが団長の指示ならば従わざるを得ない。最後まで抵抗していたが騒ぎを聞きつけたリヴァイ兵長によって蹴り飛ばされ失神したハンジ分隊長をいつものようにモブリットが引きずり退散した。
ちらりと見上げたリヴァイ兵長はこちらを見なかった。言葉をかけられる事もなく、無言で背中をこちらに見せて退散していった。

そして壁外調査当日。進路の確認と援護班と開門した直後の最後の連携の確認をしていた後、ふらりとエルヴィン団長がやってきた。
各自に労いの言葉をかけ、そして最後、この中で誰よりも小さい私に目を止めた。

「一番反対していたのはリヴァイなんだ。」

調査兵団本部を出発する前に、ほんのわずかな時間エルヴィン団長はゆっくりと語りだす。



私の班の移動に一番反対していたのはハンジではなくリヴァイだったと、語る。
慣れた班を移動させて連携の訓練をする事は時間の無駄だと切り捨てた。エルヴィンがなまえに期待しているのも知っている、なまえの実力が前線に出ても充分通用する事も理解できる。だが、という言葉を放ってリヴァイを制する。

「彼女に必要なのは経験ではなく実戦において数を熟すことにある。経験はもう充分積んだ、彼女は並みの兵士よりも実力がはるかに上だ。だからこそ私は前線になまえを据えようと思う。」
「あいつがヘマをしないという確証はどこにもない。実力は上でも経験は新兵共と一緒だ。熟練された兵士でもない人間をそこに配置するのは死ににいくようなもんだろうが。」
「その点においては問題ない。リヴァイも理解しているだろう?あの子が巨人に対して抱いている感情は憎悪ではなく、ただ、」

汚いか、汚くないか。
この巨人は人間を食べたから、汚い巨人。
あの巨人を人間の腕をもぎ取ったから、汚い巨人。

「そう言葉を発しながら無表情で巨人を殺し続けたという報告もある。ならば、最前線に置いてなまえが汚いと感じた巨人を殲滅させるのは彼女を有用に使う最善の判断だ。」



そう言葉を続けたエルヴィン団長をじっと見つめる。
兵士としてここまで評価されるのはとてつもなく名誉な事なのだろう、とぼんやり思うがなまえにとって評価ほど興味のないものはない。
巨人の血は蒸発するが、人の血は臭いし選択しても取れないし乾けばカピカピになる。だから人の血を付着させた巨人は汚いし、人を握りつぶして当たり一面血の海にする巨人もまた汚い。そう考えて行動しているだけだ。
根源は絶たなければいつまでたっても綺麗にならない。

「君がどんな行動理念に従っていようと巨人を殲滅させる実力があることは確かだ。その力を人類の為に捧げてくれているのだから、私は素晴らしい部下を持ったと誇りに思う。」
「…ありがとうございます。」
「ただリヴァイはそうもいかないらしい。人類の為になまえが心臓を捧げる事がどうやら気にくわないらしくてね。」

まだ中にリヴァイがいるはずだ、と。まるで会いに行けとでも言うように声をかけその場を立ち去る。団長の背中を見送ってわずかに逡巡する。
出発まではまだ時間がある。馬の手綱を近くにいた同じ班の先輩に預けると、リヴァイ兵長を探すべく走り出した。




「リヴァイ兵長。」

その背中に声をかける。自由の翼を背負った背中、二週間前まではあんなに近かったのに今は少し遠く感じた。
だから駆け足で近づく。勢い余って飛びついてしまったが、それに動じる事もなく首だけこちらを振り返る。

「…なまえか。」
「はい。」
「なんだ。」

簡潔すぎる会話。いまの二人には十分だった。

「……、死なないでください、兵長。」
「…ああ、お前も、必ず生きて帰ってこい。」

自由の翼にこっそり口づける。この翼がもがれる事がないよう、祈りを込めて。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -