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言葉を発することを忘れかけた頃になってようやく解放された。
なまえの首回りがひっかき傷と噛み後とリヴァイ自身がつけた大量の鬱血痕まみれになった様を見て、大層満足したらしく最後の方は終始優しい手つきで触れてくれた。
ため息交じりの言葉を吐く口に優しく触れてくる口づけ。
不思議とそれは汚い、とは感じなかった。

とりあえず軽く埃を落として当初の目的であるハンジ分隊長を探そうとする。が、よく考えれば今の私は鏡で確認していないが相当首回りがまずい事になっているのかもしれない、と判断できる。この状態を見ればきっとまた心配をかけてしまうのは間違いない。煩わしい事はなるべく避けて通るに限る。
そう判断してそのまま食堂に向かう。
本当はすぐにでも風呂に入りたがったが、食べ損ねるのはさすがにキツイ。食べ終わればすぐに入ればいいか、と我慢して食堂に向かうと同室で友人のぺトラが先に一人で食べていた。

「…なに、その首のとこ。」
「…兵長が、」

その言葉を聞いて全てを理解したのか大きなため息をその場で吐いた。
ぺトラの隣の空席に座り、黙々と、いつもより早めに食べる。
あとで包帯でも巻いてあげるわ、という言葉を聞いて、先にお風呂にはいりたい、と言葉を返す。私の言葉に苦笑いをしつつも私が食べ終わるのを待ってくれているぺトラに感謝しつつ、また黙々と食事を再開した。



風呂に入り、ぺトラに包帯を巻いてもらった。汚いと感じていたためいつもより長めに湯に浸かってしまったせいか若干逆上せてしまった。
頭の中がふわふわする感覚が気持ち悪くて冷ますためにふらりとよろめきながらも立ち上がる。目ざとくそれを見たぺトラが近くに放り投げてあった私のカーディガンを手渡す。
風邪引くわよ、なんて言葉をかけて部屋を出る私を何も言わずに見送る。お母さんっていうのがいたらきっとぺトラみたいな感じなのだろうかと、知識でしかない母の存在をぼんやり考えた。

夜はほんのり冷えて逆上せて赤くなっていた頬を風が優しく撫で上げる。
脳髄まで沸騰していた頭も同時に冷えて、冷静な思考を取り戻していく。ふう、と息を吐いて体内の熱を吐息と同時に外へ押し出すと、夜風を静かに感じるために閉じていた目蓋を開けた。
頭が蕩けていたため気づかなかったが、すぐ近くに人がいたらしい。
そんな事にも気づけなかったとは兵士失格だな、と思いながら目の前まで歩いてきた人物を見上げる。

「こんばんわ、兵長。」
「…何してる。」
「散歩です。」
「…風邪引くぞ。」

仕事中だったのが未だ制服のままのリヴァイ兵長と遭遇した。昨日から兵長と遭遇する確率が格段に上がっている気もするが、まぁ大したことではないだろう。
未だわずかに濡れる髪を一房取って眉を顰める。髪は昨日の時点でリヴァイ兵長によって汚されてしまったので今更触れられる事を厭う必要はない。されるがままの状態で大人しくしていると、厳しい声を再びかけられた。

「よりにもよって包帯巻いたのか。」
「…このままではあまり見目もよくないと言って友人が…いけませんでしたか?」
「いや…、これはこれで、」

首輪みたいだな、と嬉しそうに顔を歪ませた。

髪に触れていた手がゆっくりと首筋に移動する。その撫でる手つきに肩が震える。
ぞわり、という感覚に思わず拒否の言葉を出そうと口を開くが寸での所で手で抑え込む。拒絶の言葉を口に出そうものなら撫で上げる手つきがその瞬間、爪を立てるものに変わるだろう。
いやだ、汚い。そう感じて鳥肌が立つが声を押し殺し身体を震わせる事しか私は許されていない。

「なまえ」

熱に浮かされたような声で名前を呼ばれる。甘く攻めたてる行為に耐えるべく固く閉じていた目をわずかにあける。視界の端にリヴァイ兵長の髪が月明かり越しに揺れるのを見た刹那、耳の後ろから首筋にかけて何度も唇を押し当てられる感触を確かに感じ取った。
一つ口づけを落とす度に揺れる黒い髪、変わらず包帯の奥にある夕方に付けられた傷を優しく撫で続ける手、じっくりとじわじわと攻めてくる口づけ。
せっかく冷めた思考がまた急騰する。だんだんと蕩けていく頭が最後に聞いた言葉。

「死んでくれるなよ、なまえ。」

祈りか懇願か。それに似たような小さく弱弱しい声を最後に聞き取った。
兵長らしからぬ言葉だ、という感想をもったあと、私の思考は完全に崩壊した。



目が覚めると自室だった。倒れた私を兵長が運んできてくれたのか。
空を見上げる。狭い空だ。
今日から近日に迫った壁外調査の戦略訓練だな、と溜息をついた。


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