「私とせせせせっくすして下さい!!」
「は?」
降谷さんの手からポロリとペンが落ちた。彼のデスクの上にカチャンと音が鳴ったと思えば公安課の人達の視線を一斉に向けられた。やめろ見るな。自分でも凄いことを口走っていることは分かってる。セクハラで訴えられたら確実に1発負けだ。
しかし、そんな事も言っていられない……先程上司からとある任務を命令されてしまったのが事の発端。
警察庁警備課、我々公安のトップの部屋をノックした。
「失礼します、名字です。」
「あぁ、早かったな」
「いえ……でも、何故公安一課の私が呼ばれたのでしょうか?」
警察庁警備課の下にはキャリア組である警備企画課、通称ゼロの者達がいる。警視庁公安一課の私が呼ばれる事はほとんどと言って有り得ない。
「ゼロではない君にしか、出来ない事があるのだよ」
うっすらと口角を上げる強面な上司。ただでさえオーラがどす黒いから悪の組織のラスボス感が凄い。はっきり言うとめちゃめちゃ怖い。お化け屋敷より怖い。冷や汗を背中に感じながら強ばりながらも口角を上げてみた。
上司曰く、密輸や人身売買などの違法な取引をして近年急激に成長した台湾マフィアのボスが近々日本に来るらしい。なんでも黒髪ロングの日本女性は高く売れるので、その取引の為の来日だろう……って、え?
「ま、まさか……」
「そう、そのまさかだ」
「黒髪ロングの君にはこの男から取引の情報を取ってきて欲しい」
「(荷が重いわあああっ!!)」
上司の部屋から出て頭を抱える。無理だとは言えない、失敗も出来ない、本当に私なんかが出来るのだろうか。ボスに近づいて情報を聞き出すなんてそれって……あれ?それって……
「ハニートラップか!!」
無理だあああああ!知識はあるけどまだ生娘だよおおおおお!!!警察官に憧れてそのまま勉強ばっかりしてたから捨てるタイミング逃してたんだよおおおお!!どうしようどうしよう、
身悶えながら歩いていたらいつの間にか警備企画課の目の前に立っていた。そこの奥にはなかなか会えない同期(っていっても彼の方が上司)がいた!こんなこと頼める知り合いは彼しか居ない……!!いざ!!
「私とせせせせっくすして下さい!!」
「は?」
キャリア組でエリート中のエリート、しかもイケメン!降谷くんだったら私の処女あげても良い!むしろあげる!
そんな勢いで乗り込んだは良いもののまったく反応をしない降谷くんに、今更ながら羞恥心がじわじわと滲み出てきた。後悔先に立たず。なんでオフィスの真ん中で言っちゃったんだろう、自分の顔が熱くなるのを感じた。
「あの、えっと、……ごめんなさいいい!」
逃げようと踵を返したが腕を掴まれて体が前のめりになった。恐る恐る掴んだ人を見ると、そこには不機嫌そうな降谷くん。え、なんで?
「付いてこい」
そのまま腕を引っ張られ警備企画課を後にし、連れてこられたのは簡易ベッドのある仮眠室。空いてる部屋に放り込まれ後ろ手で内鍵を閉めて私を見据える。
「あ、の?降谷くん?」
「……本当だったらもっと時間をかけるはずだった。」
「え?なんの話……?」
「お前が悪いんだからな」
ゆっくりとした動作でネクタイを緩めながら私に近づいて来た降谷くん。なんだか怖くてじりじりと後ろに逃げていたが簡易ベッドに足を取られ降谷くんに押し倒された。あれれー?ネクタイで両手縛られてるぞー?
「どうしたの降谷くん、目がギラギラしてて、え、ちょっ、やめて、えええええ!?」
台湾マフィアはなんと日本に不法入国をしてきたので即座に公安が逮捕したらしい。その中に降谷くんが居たとか居なかったとか。
ちゃんちゃん
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