「…退いてくれない?」
「退いて欲しけりゃ俺を超えて通れよ」
「膝が折れて30センチくらい縮めばいいのに」
「ふーん、で?」
「クソ野郎」
「力づくでこいよ」
「私のターン!ドロー!ここで私はリバースカード、夏油くんをオープン表示に」
「あいつ任務だよ」
「切り札なくなっちまったよ」

廊下の端、この廊下の奥に用事があると言うのに教室を出てものの2メートルで五条悟に絡まれた。五条悟の身長くらいしか先に進めてねえとはどういう因縁だ。こいつほぼ2メートル?でか。巨人じゃん。私に立体起動装置があれば巻けただろうに。そんな便利なものはないからアイシールドするしかないのに、残念ながら私には通り抜けられる道は見えなかった。次回作にご期待ください。でもこの先に行くのは諦めるわけにはいかないんだよ、呼ばれてるんだよ。お呼び出しなんだよぉ。先生からの。すっぽかすわけにいかないんだよ。だから退いてほしいのに全然退いてくれない。行こうとする方向に華麗に動かれちゃ何その華麗な動き何?と動きに感動してしまうしかない。お前の動きも華麗だけど私の心の動きも華麗だよ。褒めろよ。退けよ、いいから。見上げる首も痛いんだよ。下からスカイツリー眺めてる気分だよ。スカイツリーの方が動かなくてまだいいよ、見上げるこの綺麗な男は動くし邪魔だしなんだこいつ。いいとこ:綺麗なだけじゃん。見てても飽きない見てくれだけどこんだけ嫌がらせされたらもう見たくもなくなるよ。好きな音楽だって毎朝アラームで鳴ってたら嫌いになるだろ。黙ってうろうろしてるのも何か段々ムカついてきたから足を止めた。

「退いてよ!聞いてる?!」
「聞いてねえから退かねーんだろ、バカ?」
「オメーに言われたかないわね!どーいーてーよーーーー!!!」
「嫌だっつーの。お前が迂回しろよ」
「そうする!」

大人しく踵を返して下の階へ向かう階段の方へずんずん歩きながら色々考えた。何で本当にあんなに嫌がらせばっかりしてくるんだ。私のこと嫌いなのか?いやあれだけ嫌がらせしてくるんだから嫌いなんだろう、何で絡んでくるんだろう。夏油くんと偶に仲良く喋ってるからか?あのふたり仲良いもんな。別に夏油くんのことも何とも思ってないんだけどな。将来は硝子と一緒に住みたいんだけどな。てか今日のお昼ご飯どうしようかな、硝子も居ないんだもん。五条悟、しれっとしらっと卵焼き持って行くんだもん、やめてくんねえかなあとさあ。

「着いてこないでくんない?!何で?!」
「え?邪魔してえから。それ以外あんの?」
「もっと有意義に時間使いなよ!人間有限だよ!」
「俺はお前の嫌がる顔見てる時間が有意義で仕方ねぇんだよなー」
「キッショ!え、シンプルにやばいよ、どうした?頭打った?」
「あーーーーー腹減ったお前の弁当貰っとくわー」
「お前本当に食うじゃん!!!!おい待て、待てよ、待って!待てってばーーー!!!!!」

突然後ろの五条悟が教室に足を向けて走って行った。あれマジで食うやつじゃん!てか脚はや!!半泣きで追い掛けるのに差が開くばっかりだ。どうして。同じ人間なのに格の違いが出すぎてる。私が教室の前に到着する頃にはもう何か、いや私の鞄の中を漁るなよ。変態か?私がぜぇぜぇ息を切らして肩で息をしてるってのに悠々と弁当を持ち出した。いやだから出すなって。何か五条悟の手の平の上に乗ってる私の弁当ちっさくね?シルバニアファミリーかよ。赤いお屋根のお家か?

「お前の弁当ちっさくね?」
「ちっさくねえわ!てか同じこと考えないでくんない!?」
「何か今日手抜きだな。寝坊した?」
「図星!いや開けないでよ!返して私のお昼なんだって、ねえー!うさちゃんのリンゴから食ってんじゃないよ!」

私の弁当を普通に開けて普通に食い始めた。まるで自分のと言わんばかりに食い始めた。そこまでいっそ清々しく食われたらあれ?もしかしてあの弁当本当に五条悟のだった?とか思ってしまいそうである。いや違う、あれは私のだし私のうさちゃんリンゴである。人の昼の楽しみを奪うとは何たる侮辱。てか私なら4口かかるうさちゃん2口とかある?だから完食してんじゃないよ。一生懸命手を伸ばして弁当を取ろうとするのにギリギリ届かない所で見下ろされる、むかつくその顔。むかつく、むかつく!たこさんウィンナーも食べるな。

「あ、うま。」
「私の弁当が不味かったことなんかないんだよ!!!!返せばか返せ返してバカバカバカバカバカ!!!ぶぁーーーか!!!」
「はいはいバカバカ。」
「むか、むっ、む、むかっ、むっっっっっか、むっっっっかつくううううう!!!!お前なんか!!お前なんか!扉で脚の小指打てばいいのに!!」
「あー、うるせー。小せぇ奴はよく吼えるよな、悔しかったらかかってこいよ」
「バッカタレがぁ!!!」

全力で頬を狙って腕を振った。スカった。当たらなくて凄い悔しかった。もうむかつく。ニヤニヤ見下ろしてくるあの目が顔が全部がむかつく。全然好きじゃない、全然好きじゃない!わなわな震えながら全力で睨んだ。目が合うあの蒼い目もむかつく。綺麗な蒼がむかつく、白も蒼も黒も嫌いになれそうなレベルでむかつく。五条悟の全部がむかつく、眉間に皺が寄って、手の平に爪が食い込むのがわかる。その蒼へ向けて感情のままに思うままに叫んだ。

「お前なんか嫌いだよ!大嫌い!!」
「あ?」
「嫌い嫌い嫌い、もう嫌い、ほんと嫌い、お前なんか、っ」
「おい、もっかい言ってみろ」

思いっ切り頬を掴まれた。何故。でもその時の目が、蒼が、ちょっと怖くて言葉が詰まった。嫌い、言おうとするのに喉が張り付いたみたいに何も発せなかった。口の中に溜まった唾液を呑み込んだら、喉が鳴った。この感覚知ってる、怖いときになる症状。怖くて目が見れなかった、でも、むかつくからもう一度口を開いた。

「………」
「言えねえのかよ」
「お前が嫌い」
「ふうん?」
「……バァーーーーッカ!」

吐き捨てるみたいに言い放って頬を掴む手を振り解いて廊下に逃げた。用事がある方へ逃げるみたいに。後ろから追って来られたらどうしようかと思ったけど来なかった、よかった。どこかで本気で安心している自分が居た。


 


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -