「硝子、ねえ!聞いてよ」
「あーハイハイ。なあに?」
「チケットが…!」
「?!当たったの?!」

やったぁー!と硝子と抱き合って喜んだ。見てえ〜!とチケットを懐から出して見せればすごいじゃない!よかったねー!と一緒に喜んでくれる硝子。頬が緩む。うれしい、好きな男性アイドルのチケット当てちゃった。友達にも硝子にも手伝って貰った甲斐があった。みんなありがとう、愛。にへらにへら笑いながら硝子と廊下で他愛もない話をしながら、今度またCD貸してよーとかいいよー新曲おすすめなのー!とか言ってたら突然背中を押される感覚に肩を跳ねさせた。振り返って反射的に「すみません!」と言い掛けたところで相手を見て眉を寄せた。向こうもこっち見てるし。

「邪魔だっつーの。」
「………」
「何か言えよ」
「バァーーーーッカ!」
「あぁ?やんのかチビ女。潰すぞ」
「うわ、やだこっち来ないで」
「いや絡み方チンピラ?」

五条悟が無駄に絡んでくる。しかも絡んで来かたが嫌で、ぶつかられるわシャーペン取られて届かない所でヒラヒラ振られるわ紙屑投げられるわ急に通せんぼされるわ私のプリント態と持って行くわお弁当の卵焼き勝手に持って行くわ寮で冷やしてる私のプリン食べるわ教科書に落書きしてくるわとまぁもう色々なんだ。最早これは絡みとかじゃなくてただの嫌がらせだが????夏油くんという紳士が隣に居乍らよくそんな外道な行いができるよ。無駄に絡みにくる五条悟を見ながら夏油くんも硝子も苦笑いしてる。いや苦笑いしてないで助けてくんないかな〜〜!自分より30センチ以上もでかい男が後ろから追い掛けてくるのはちょっと怖いんですけど。腕も脚もクソ長いので狭い範囲を逃げるのにも割と距離が居る。ひょいひょい腕を避けながら硝子の背中の後ろに逃げようとしたらそれを避けられた。硝子の裏切り者。何とか夏油くんの背中の後ろに逃げれば「お助け下さい」とお頼みした。夏油くんも大変苦笑いである。

「悟、もうそれくらいにしてあげなよ」
「退け傑。生意気だからちょっと絞める」
「そんなに意地悪をするものじゃないよ…そもそも悟がぶつかるから恵空も言い返したんだよ」
「そーだ!前見て歩けや電信柱ァ!」
「おいそいつこっちに寄越せ。泣かす」
「恵空も言い返さない」

夏油くんが前に居ることをいいことに好き勝手言う。何か物騒なこと言われてるから絶対夏油くんの背中からは退かない。何とか夏油くんも庇ってくれているので申し訳なさが込み上げてくる、硝子はそんな様子を「おもしれー」と見つめているだけだった。何故。そろりそろりと上手く夏油くんの背中を使って後退し、良い感じのところまで離れれば踵を返して全力ダッシュする。後ろから「おーい待てよー」と余裕の声が聞こえた。あ、これ夏油くんの背中から離れたの間違いだった?でももう戻る訳には行かないので走り続けた。曲がり角を曲がって階段を滑るように降りて行く。どっかで巻けないかなぁと思いながら二股に分かれた廊下を左に曲がり向こうの様子が見れるところまで走り様子を伺った。…あれ?こない?諦めた?ならよかったんですが?
はぁ、とその場で大きく溜め息を吐いた。何でこんなに嫌がらせされるんだ?何か気に入らないことしたかしらね。ふと壁に背中を預けて見上げたら空だった。
空だったのと、あと、上から。上に。

「ばあ」
「ううぅうぅわああぁぁあああ?!?!?!」

五条悟だった。余裕そうに両手を顔の横に広げて舌を出してやがる。びっくりしすぎて脚を縺れさせながら、凄い悲鳴を上げながら逃げた。上の階から華麗に着地したのであろう五条悟が悠々と追い着いてきて私の服の襟首を掴んだ。「ぐえっ」と喉が詰まって蛙が潰れたみたいな声が出る。捕まってしまった…こいつは私の心を折るのが大変得意である。私だって捕まって終わりでは悔しいのでどうにか逃れようとじたばたもがくけれど敵うはずもなく。すっと脇の下の片腕が差し込まれたと思えば普通に抱き止められてしまった。頬が引き攣った、ほんとやめろ!暴れないように上手く腕を押さえられて五条悟が空いた手で私の懐のポケットに手を突っ込んだ、セクハラだぞお前。「やめろってばあ!」と半泣きで声を上げていれば後ろから「お、あった。」と引き抜いて行ったのはそれは。顔が蒼くなった。

「…チケットぉ!」
「ふぅーん。お前こういうのが好きなんだ」
「返して、かーえーしーて!か、返してよー!」
「嫌だっつーの。悔しかったら取返しに来いよ。じゃあな」
「か、返して…」

チケットを2枚ひらひら振りながら離れていく背中を眺めつつ崩れ落ちた。さ、最低だよ…なんだあいつ…!歯軋りがとまらなかった。全力疾走のあとに追い掛ける元気はなくて、暫くその場で呼吸を整えて何とかなるようにしてからどうしよう!と頭を抱えた。わたし!チケット盗られちゃった!
とりあずとぼとぼ教室に帰ったら五条悟と夏油くんと、私の席に硝子が座っていた。「チケット返してよ、ねえ!」と声を掛けたらフルシカトされた。あいつ本気で嫌い。ちょっと涙が出てきたので硝子のとこに行って硝子の椅子に座る。

「今日は何されたの」
「…チケット盗られた」
「うわーマジか。」

マジよバカ。ちょっと泣いた。


 


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -