「あれえ…」
「どうしたの、何か探しもの?」
「硝子ー、ここに置いてた私の漫画知らない?」
「………」
「ま た あ の 野 郎」

朝買ってきた漫画がなかった。雑誌。私の楽しみ。お昼休みの楽しみ!硝子が指差した先を見た。そいつに顔を向ければ丁度読んでやがった、寧ろ何故最初に疑わなかったんだ私は。五条悟しかねえじゃん!あいつずっとそうじゃん!行くのも憂鬱だけどやっぱり返してほしいのでそっちへ向かった。つかお前夏油くんと喋るか漫画読むかどっちかにせえよ!

「ねえ!あんた!」
「あん?」
「それ私のだから返して!」
「読み終えたらな」
「持ち主より先に読むなよ!!!私が朝買ってきたやつじゃん?!」
「そういや今週一人死んでたな」
「ネタバレじゃねえかよ!え、死ぬの?嘘でしょ、本当に言ってる?」
「ああ、死んでたな。サラッと」
「いやだからネタバレやめろや。読んでねえっつってんだろ」
「最新連載面白いからオススメしといてやるよ」
「だからそれ私のなんだって。聞けよ。」

めちゃくちゃサラッと鮮やかにネタバレされた、ウケる。最新の情報を一番に買ってるっつーのにそんなことあるか?ネタバレ踏みたくねえからそうしてんのにまさかの刺客にネタバレされるとかあるか?そもそもだから持ち主より先に読むなよ。お前に常識と人の心はねえのか。夏油くんも苦笑いが止まんないよ、私は頬が引き攣るのが止まらない。硝子は向こうで…あれ、いない。煙草吸いに行ったかしら。

「悟、返してあげなよ」
「やーだ」
「やーだじゃないし!私のだって言ってんじゃん!いい加減にしてよもー!!!」
「触んな」
「こっちの台詞!!!!!」
「…悟。」
「俺が先に読んでんだろうが」
「いやそもそも買ってきたの私だし貸してとか言われてないし貸すとか言ってないし私の机の上にあったものだしそもそも!私のだし!」
「ふうん、で?」
「で?じゃねえんだわ!お前には倫理観とか論理観とかっつーもんはないの?!」
「興味ねえよ」
「興味の問題じゃなくて」

続けようとしてピタッと言葉が止まった。見下ろすこいつに何を言えば私の言葉が届くんだ。何を言っても適当にあしらわれて、何を言っても適当に返事されて、私が何を言えば五条悟にその持っているものを返してもらえる日がくるんだ。言っても無駄なんじゃないかってふと過ってしまった。ああ、何を言っても無駄なんじゃないかって、なんか。ただちょっと虚しくなったけど、だって何を言っても無意味なんだもん。暖簾に手押し、これがそれじゃんって。
ピタッと止まった私を夏油くんが見兼ねてか知らないけど見上げた。じゃあ、すっごい驚いた顔して「悟」ってもう一度五条悟を呼んで、面倒臭そうに顔を上げた五条悟も私を見上げた。じゃあ突然面倒臭そう〜に溜め息を吐かれた。面倒臭い溜め息吐きてえのはこっちだよ。でも、何かもう言葉が出てこなくて、瞬きをしたらぼたぼた、と瞳から雫が落ちて初めて自分が泣いてることに気付いてびっくりした。うわ、泣いてんのかよ。びっくりした、泣いてる姿とか全く見られたくなくて溜め息を吐いた。

「あー、うっざ。もういいわ」
「こっちの台詞だよ。それあげるよ」
「あ?要らねえのかよ、返せっつってただろうが」
「要らねえわ。そんなに読みたきゃ読んでりゃいいじゃん、もう一回買ってくるからあげるよ」
「別にこんなもん欲しくねーよ」
「知らないよ!持ってくからじゃん!要らないよ今更!いいっつってんじゃん!読みたきゃ読んでろよ!ばぁぁーーーーか!!!!」

差し出された雑誌を叩き落して財布を持って教室を出た。あ、硝子いた。私の顔を見て目見開いてびっくりしてたし、走ってった私の背中を追い掛けてきたのは硝子だった。えーん好き。私は廊下の端まで走ってってとりあえず嗚咽を漏らしながら泣いた。悔しい、泣いたとか悔しい、負けたみたいじゃん。負けてねーよ、この泣いてる涙が悔しい!だと思うなよお前を殺してやるからなの涙だからな。小指の骨折れろバカ野郎。硝子がよしよしと背中を撫でてくれて「一緒にコンビニ行く?」と顔を覗いてくれた。ぐしゃぐしゃに泣きながら「いく」と答えれば手を握って歩いてくれて、階段を降り乍らぽつぽつと喋った。







「…悟、最近のはちょっとやりすぎだよ。」
「うるせえな。泣くとかなに、意味分かんねえじゃん」
「意味分からなくないだろ。恵空もずっとそんな風に当たられてたら泣きたくもなるよ」
「それって俺が悪ぃって言いてえの?」
「それしかないよ、知らないよ?嫌われても」
「…もう嫌われてんだよ」
「だろうね。恵空、私と喋るときみたいな穏やかさもにこやかさも君にはないもんね」
「あ?喧嘩売ってんのか」
「自身の身の振る舞いを改めろと言ってるんだよ」
「うるせえ。」


 


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