▼ A-dur 9
しん、と静まる室内。
みんなの目が僕に集まって、いつもの僕だったら、過去の僕だったら、多分そこでだめになってた。
でも今の僕には、伝えたいことがあって。
「僕は…親衛隊が、園田会長親衛隊が、だいすきです…。
最初、入隊するときは不安もあって…どんな人たちがいるのかな、僕は人見知りだけど大丈夫かな、って、入隊まえは一通り考えたのも本当です。
でも、実際入ってみたら、みんな園田さまがだいすきで、園田さまのことを考えて行動していて。
お茶会も、僕たち1年生も学年をこえて交流をさせてもらえてるし、
園田さまの恥にならないようにって、勉強会も開いてて…。
僕、中学のときからこの学園にいますけど、お恥ずかしい話ですけど、
テストで1教科も赤点がなかったの、この前の期末が初めてなんです。
僕は頭の良さでこの学園に入ったわけではないから、勉強についていくのが大変で、でもどこかで、逃げてたんだなっていまではちゃんとわかります。
その分ピアノがんばってるし、ってピアノを言い訳にして、勉強ができない自分をどうにかしようって気持ちはなかったんです。
でも、みんなの姿見ていて、僕は勉強もがんばろうって思えました。」
ちゃんとまとまんない。でも、言いたいことはひとつだ。
「僕は、誰かのためにこうやって行動できる親衛隊が、親衛隊のみんなが、だいすきで、
この隊にいられることがうれしくて、みんなと仲良くできるのがしあわせで、
だから、こういうの、いやなんです。
掟を破ったらいけないのはわかります。掟を破ったときの制裁だって、しょうがないと思います。
ただ、今回蘭ちゃんと雪ちゃんは、正式にお仕事として補佐に決まって、
なんでその2人なのか、そういうの疎くて僕にはよくわからないけど、でも、何かきっと理由があって、
だから2人に対して制裁とか、親衛隊がそういう方向へ動くのはいやなんです。
僕がすきな親衛隊は、こうやって誰かを傷つけるために動くためのものじゃなくて、園田さまを想って園田さまのために行動する親衛隊のままでいてほしいって思うんです。」
"共通の敵"をつくって倒そうとする制裁じゃなくて、共通でだいすきな園田さまのために行動してたい。
「僕がリーダーになりたいと思ったのは、そういうことを考え始めたのがきっかけです。
……おわりです。」
話し終わっても沈黙は続いたままで、気まずくなった僕はそう付け足した。
隣にいた歩先ぱいは何も言わずに、ぎゅっと僕の腰にくっついた。
「ぼくもそう思う。橋本くんの言う通り、個人的に近付いたわけではないし。」
2年生のリーダー、棗さんがそう言った。
それを皮切りに、口々にみんな意見を述べ始める。
「えー…でも…」
「正直真中雪は気にくわないけどとりあえず静観かな?」
「ぼくも補佐になりたかったな〜」
「仕事できない補佐はいらないでしょっ」
「他の隊はどうすんだろね?」
ざわざわとみんなそれぞれ話し始めて、お茶会室がにぎやかになった。でもさっきまでのギスギスした雰囲気はなくなって、そっと一安心。
「…やっぱ騒いでたか…。」
「上村隊長!」
後ろから聞こえた声に振り返る。今日ってすみれさんお茶会に来る日だったかな。
棗さんが「お疲れさまです!」と上村さんに駆け寄った。
「今回の補佐職の決定は理事長が関わってるらしいしどうにもできねえな。ま、俺の出る幕はなさそうだけど。」
「隊長、もしかしてわざわざ聞きに行ってくれたんですか?ぼくたちのために?」
「はぁ?!ちげえから!園田から連絡来たんだっつの」
「へえ?」
すみれさんと棗さんの軽いやりとりに、僕たちは笑った。
「園田会長親衛隊としては、様子を見ることにしました」
「おう」
「理事長が関わってるならなおさら仕方ないですしね…」
そういえば、理事長って?あんまり見たことないような気がするけれど、こうやって生徒会のことにいつも関わってるひとなのかな。
「理事長も考えてることよくわかんねえからな。園田並みだな」
「まぁ理事長も"園田家"ですしね」
「それもそうか。あの一族はみんなあんな感じだしな」
「え!理事長って"園田さん"なんですか!」
「「「は?」」」
なんとなく浮かんだ疑問が口をついて出ただけなのに、全員の目という目!
「待って!たくみちゃん4年目でしょうこの学園!」
「えー?中等部のときからあの若い方でしたっけえ?」
「少なくとも高等部にあがってから毎回式のときは理事長の挨拶あったでしょうよ…」
それは覚えているのだけれど、園田って名前なのは知らなかったなあ。てことは園田会長とは親戚?
「園田さまと理事長は従兄弟だよたくみちゃん!理事長の名前は園田翔ね」
カケル…
「あ!」
ー 翔みたいに社会でうまくやっていく自信もねぇ。
園田さまがあのとき言っていたのは、自分と比べていたのは、従兄弟である理事長だったんだ。
たしかにこの大きな学園で、あんな若そうな人が理事として働いていたら、そしてそれが親戚だったら、焦ってしまうのは仕方のないことかもしれない。
…ま。
園田さまなんて、あんな人、どうだっていいのだけれど。
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