▼ A-dur 8
そんなとき、携帯の振動。
「あ、潤ちゃんからメールだあ」
「なんて?」
「えっとー…あ、きょうお茶会来られないんだってえ、風邪引いちゃったみたい…」
潤ちゃんいないとお茶会の楽しさ半減だ…。それにしても、潤ちゃんが欠席なんて珍しいな。学校自体には来てるのかな?あとでお見舞いに行ってみよう。
「皆川潤くんか…ちょっと風当たり強そうだけど大丈夫?」
「へ、風当たり?」
「呼び出されたりしてるでしょ?村崎慶の親衛隊に」
「…え?!そうなのお?!」
「気付いてなかったの、匠ちゃん…」
気付かなかった…僕、放課後は潤ちゃんといることも多いのに…何で気付いてあげられなかったんだろう。でも、僕の知る限り潤ちゃんは村崎くんと一緒にいることはないし、どうして呼び出されなきゃいけないんだろう。
「中学のとき相当仲良かったのは有名だからね…マークされてんだろうね!ちょっとでも関わってるのが見つかっただけでも結構大変だろうから、こっそり会ってるみたいだよ!」
「え!またそんな情報をどこから?!のむちゃんこわっ!」
「それによくアイコンタクトとかしてるでしょ彼ら!村崎の親衛隊としてはおもしろくないだろうね!」
…あ!そういえば…食堂で知らない先輩に呼ばれてるとこ見たことあったなあ…しかも、村崎くんがこっそり手ぇ振ったときに。
「もしかしてあれも呼び出しだったのかなあ…」
「もしかしなくてもそれでしょ!匠ちゃんが気づくくらいなんだから、勘がいい子は気づくもん。匠ちゃん親衛隊にいるくせにそういうの疎いよね!」
「うぅ…言い返せないですー…反省…」
「わあ、しょんぼりしないで!ちょっと!匠ちゃんらしくないよ!いつもみたいにつんつんして!」
のむちゃん失礼!
でも、そっかー…。
今日の欠席ももしかしたら関係あるのかな。ないといいな。
呼び出し、最近もあるのかな…ないといいな。
潤ちゃんが呼び出されるなんて理不尽だ。園田さま親衛隊の1人として、おかしいと思う。先輩たちに相談してみようかな。
HRが始まるので、のむちゃんは自分の席に帰っていった。僕はというと潤ちゃんのことが気になって仕方なくて、今日が始業式とHRだけの日でよかったなあなんて思った。
…
「あ、歩先ぱい。」
「あーたくみちゃん。おはよ。」
お茶会室に向かう途中、歩先ぱいとばったり会った。
「"おはよ"って、ふふふ、もう午後ですよお?」
「僕にとってはお早いんですーっ!」
「意味わからんちーですよぉ」
「うぅ…夏休み…長かった…」
「そおですか?あっという間でしたけどお…」
「園田さまにも会えない!たくみちゃんにも会えない!拷問だね!」
「夏休み中、歩先ぱいと僕は会ったじゃないですかあ?」
「あれだって最後のほうじゃん!充電させて!」
歩先ぱいが僕の腰に横からひっついてきた。僕はお茶会室に向かいたかったから、ずるずると先輩を引きずって進む。
「お、重い…ちっちゃいくせに…」
「なまいき言うな!ちっちゃいって言うな!たくみちゃんだってアソコちっちゃ「ぶっとばしますよ?」
「…はい。」
「もうっ!…つきましたよお。どうぞ。」
「どもども〜。あれ?蒼だけ?翠は?」
いつもセットでいらっしゃる蒼さんと翠さん。今日は翠さんの姿が見えなくて。
「職員室に呼ばれてるよ!ってか歩!たくみ氏弱っちいんだから自分で歩いてあげなよ!歩意外と重いんだから!」
「だってこの子、休み中まったく僕に連絡くれなかったんだよ?!こんくらい許されるでしょう!」
「えぇ〜歩先ぱいだってべつにメールとかくれなかったじゃないですかあ…」
「なまいき!普通後輩から送るでしょ!」
「無駄なプライド発揮しないでくださいよお…いてて!」
お腹つままれたんですけど。地味に痛いよ、歩先ぱいのばか。
ぎゃあぎゃあ騒いでいると、バタバタバタバタ…と廊下から音がした。この足音、誰だろう?
「たいへん!!!!」
お茶会室の扉が開ききるかどうか、というタイミングで半ば叫び声。入ってきたのは、翠さんだった。
「生徒会に補佐が入るって!!」
「「「え?!」」」
ー 生徒会ってひまなんですかあ?
ー なわけねえだろ。補佐いれようと準備してるとこ。
そういえば、園田さまがそんなことを言っていたような。その準備が出来たということだろう。でもどうしてそれが問題なのだろう。
「はぁ、はぁ、」
「そんな走って…翠、大丈夫?落ち着いて」
「落ち着いてらんないよ!だって、補佐、あの子たちだよ?!
如月蘭と、真中雪!!!!!」
「「「え…」」」
でも、だって…
誰かがぽつりと呟いた。その先に言おうとしていることはわかる。呼び出しのときに言っていた。雪ちゃんは、園田さまに近づくことはしないって。だけど。
「真中雪…許せない…僕らに嘘ついたってことですよね?!」
リーダーたちがざわついた。「制裁」。そんな言葉もあちこちからあがる。歩先ぱいのほうを見ると、その顔は別になんの感情もいだいていないような表情で、ただ見ているだけ。
その場の雰囲気が、制裁へ向かっていくようで、僕は、こわくて。
「いやだ…」
みんなの顔がこわばっていて、その目は憎むべきものを求めているみたいな光。
親衛隊は、僕がだいすきな親衛隊は、こんな雰囲気じゃない。誰かを傷つけるためじゃなくて、誰かを、…園田さまを想う気持ちで、僕らはつながっていたい。
「待ってください…!」
思ったよりも、大きな声が出た。
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