にせものamabile。 | ナノ

 A-dur 6

「ふわ〜ぁ、始業式だるい…」
「めずらしいねえ、のむちゃんがそんなこと言うなんてえ」



9月になって、学校が始まった。早速僕たち生徒は全員講堂に集められている。こういう行事のときは出席番号順で座るから、のむちゃんとお隣さんでうれしい。


「夏に買った薄い本をさあ…読みかえしていたら朝でさ…」
「?薄いのにそんな時間がかかるの?字が細かいの?」
「まー、そんなとこ!」


のむちゃんはあははーと笑って僕の肩に頭をのせた。始まったら教えてね、とめをつぶってすやすやと寝始めるのむちゃん。

早口じゃないのむちゃんはちょっとレアだな。

結構ちょくちょく夜更かしをしているイメージののむちゃんだけれど、夏休みはもっと夜更かし生活だったのかな?昼夜逆転とか?


ふわふわののむちゃんの黒髪をさわっても、のむちゃんはぴくりともしないくらい寝入っているようで。



プチ、と何か電源が入る音がして、顔を上げると咲月副会長がマイクの前に立っていた。



キャーーーーーーー!!!!!!



はいはいもう慣れましたよ。この歓声も!でも今日はのむちゃんを起こそうとして一瞬反応が遅れて、耳が少しピィンとした。


「うぅ…みみ痛い…」
「ご、ごめんねえ?」


この騒音の前にのむちゃん起こそうとおもってたんだけど…ちょっと遅かったみたい。


「第二波に間に合えばいいよ」
「ニハ?」
「園田会長のほう」


なるほど。咲月副会長が会の始まりを告げて、マイクの電源を切った。それが合図かのように、園田さまが立ち上がり、壇上の中央まで歩き出す。


のむちゃんは耳を塞いだ。その瞬間、親衛隊のみんなを中心に、歓声が上がった。


キャーーーーーーーーー!!!!!


いつも通りの園田さま。


ほほえみをたたえて僕ら生徒を見回すけれど、その目はやっぱりどこかクール。


いつも通りじゃない僕。



親衛隊として、リーダー志望として、ここは盛り上げないといけないところなのだろうけれど。


ー いったい、どれだけの人を騙してきたんです?


冷ややかな目、抑揚のない声、全身で僕を拒絶した彼。


あれから夏休みのひと月を経たけれど、特に何も変わっていない。休暇の間、もちろん接点なんてないし。

そう考えると、僕はあの人から近づいて来ないと関わりをもつことさえない立場にいることをやっと実感した。


夏休みの間、たまに彼とのやりとりを思い出すこともなくはなかったけれど、
少しずつ少しずつ風化していって、秋の始まりとともに薄れてしまった。


けれどひとつだけ違うとしたら、ミーハーにでも彼の登場に反応することができなくなってしまったことかもしれない。


生きている世界が、ちがう。



「またのむちゃん寝てるし…」



園田さまの挨拶がはじまって周りが静かになったからか、のむちゃんの頭はこくんこくんと揺れ始めた。


本当にねむたいんだなあ。



「こっち寄っかかっていいよのむちゃ…あぶない!!!!」



ぐらりとのむちゃんの身体が傾いて、僕とは反対側へ倒れていく。

のむちゃんははじっこに座っていたから、その先はただの床で。


ガシャン、と椅子が音を立てた。僕がのむちゃんを支えようと咄嗟に立ち上がったせいで、みんなの視線が集まる。



園田さまの挨拶も止まってしまった。



僕は周りのひとにごめんなさいと言って、椅子に座りなおした。


そして園田さまは、何事もなかったように挨拶を再開させた。


「んぐ…起きてるよう」


のむちゃんはそう言って、またこくりこくり。


この小さな騒ぎの中、園田さまが僕のほうを見ることは一度もなかった。

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