▼ 前奏 2
「え…?」
「だから、」
「待って、言わないで。」
「匠ちゃん…」
「うそ、え、だって、信じられないもん…」
「本当だよ、僕、見たんだよ…」
"匠ちゃんの彼氏、浮気してるよ。"
僕のクラスメイトが、そう教えてくれた。
「え、いや、友達と歩いてた、とかでしょ…?」
「友達とキスするの…?それってどんな友達…?」
「…っ」
人違い。
きっと人違い。
一哉が浮気してるなんて、有り得ない。
ねえ、
そうでしょう?一哉…。
結局、もやもやしたまま一週間を過ごすことになった。一刻も早く、僕は一哉に会いたくて仕方なくて…、
でも、会ってなんて言おう…浮気のこと、聞ける自信なんて全くないし…
ピンポーン
一哉のドアチャイムを鳴らす直前まで、僕はどうすればいいのかわからなかった。
一哉のアパート、僕は緊張しながらドアの前に立つ。
いつもの楽しいドキドキじゃ、ない。
「…。」
…あれ?出てこない…どうして?
すごく嫌な予感がした。
だって、電気が付いている。
一哉は、出かけるときは必ず電気を消していくひとだ。だから、家にいないなんてことはありえない。
…じゃあ、どうして出てくれないの…?
…そういえば、一哉って窓のカギをかけ忘れることがあった、
ドキン
ドキン
じわり、汗をかき震える右手。それを叱咤して、僕は通路側の窓をそっと開けた。
「!」
"…ゃ、ゃ、ぁん、あぁっ、"
聞こえたのは、明らかに情事中の声。
…、なんで…
なんでなんでなんでなんでなんで…!!!!!
一哉、ねえ、
こんなに好きなのに…
好きで好きで仕方ないのに…
どうして浮気なんか………
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