にせものamabile。 | ナノ

 G-dur 7

「…え。テスト…?」


火曜日。響会長親衛隊の入隊希望者が集められた。場所は、いつも親衛隊のみなさまがお茶会を開いているという優雅なスペース。そこに似合わない勉強机がずらりと並べられて、僕たちはそれぞれ席に座らされている。


そこで皆川潤ちゃんに話しかけられて、隣の席に座ったはいいのだけれど。潤ちゃんが言うには、これからテストが始まるらしい。

テストって…テストって!これに合格しないと入れないってどういうこと!


周りのひとを見回してみると、なんかもともと知ってましたよーみたいな顔で筆記用具を出しているからびっくり。





僕は昨日、ピアノのレッスンが始まる前に入隊申請書を取りに行って、結局そのまま提出した。

書くところが学年とクラス、名前、メールアドレスだけだったから、その場ですぐに書けて、隣に設置されたポストにえいやっと入れるだけですんだ。

あ、最後の項目に、「スカウトを受けた人はここをチェック」というのがあったのだけれど、まあ響会長の親衛隊に入れなかったらそれはそれでいいやーと思ってチェックはつけなかったのだけれど。



「ううう、どうしよお…入りたいよう入りたいよう」
「た、匠ちゃん、かなり園田さまのことがすきなんだね…」


さっきまではそれほどでもなさそうだなとおもったけど。なんて、潤ちゃんはけっこう鋭いことを言う。そして僕の変わりようにちょっと引いてるみたいだ。

入隊申請書を出したその夜に、親衛隊の代表メールからきょうについて説明が書いてあるお知らせがきたのだけれど、そのメールをちゃんとよく読まないくらいには響会長への愛は薄いとおもう。薄いというか、もはやゼロ?



でも、こんなことになるなら、ちゃんと読んでおけばよかった。そのメールに筆記用具を持ってくるように書いてあったらしいし。もしくは、すなおにスカウト権限を使えばよかったかな。


「潤ちゃんも、会長の親衛隊に入りたいなんて意外だったあ。村崎くんのに入ると思ってたよお」
「あ、はは…まあ、いろいろね?」
「いろいろかあ」


…聞いてほしくなさそうだから、話題をかえよう。


「とにかく、僕テストがんばって入隊するー!!!」


そんで、あのピアノを弾くのだ!!!!!!





…そう、僕の目的はいつの間にかすりかわっていた。


優雅なお茶会スペースに入ったときに、僕はビビビと電撃にうたれたみたいに固まった。目の先は、一台のグランドピアノ。


(あ、あ、あれはイタリア製の…?!?!)


一瞬、見間違えかと思った。だってあのメーカーのピアノは、一年に100台もつくられないらしいし、とってもお高いらしいし。でも、間違いない。あの4番ペダルが何よりもの証拠。


どうしてこんなところにあるんだろう。ここにあるということは、響会長の親衛隊の誰かのものなのかなあ…それとも学校のもの?でもそうしたら、音楽室とか講堂みたいなところに置くのが自然だよね。つまりやっぱり私物?


でも、誰のものでも同じ。頼み込んで頼み込んで、弾かせてもらいたい!こんな機会、めったにないとおもうし。


そんなわけで、僕は潤ちゃんに鉛筆を借りて、めらめらとテストへの闘志を燃やした。


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