にせものamabile。 | ナノ

 G-dur 5

寮に戻ると、のむちゃんが部屋の前で待っていた。


「匠ちゃん、おつかれさま、」
「のむちゃん…」


のむちゃんの目は「だいじょうぶ?」と聞いていて、でもそれを口に出さないのは彼のやさしさ、だとおもう。

だいじょうぶ?と聞かれたらひとは、だいじょうぶ。と答えるものだ。それが、事実でもそうではなくても。


「のむちゃん、お腹減ったあ…」
「うんうん、パンケーキ食べに食堂行こう!きょうは僕のおごり!」
「え、食堂は賛成だけどお、おごりはいいよお」
「僕んちお金余ってるんだよ!気にしないで!」


さらりと自慢してるみたいだけれど、実際にのむちゃんのおうちはちょうお金持ちみたいだから嫌味にならない。のむちゃんのキャラも関係しているのだろうけど。


のむちゃんは、僕の手を取って歩き始めた。本当に、やさしいな。

人魚姫に出てくるとしたら、のむちゃんはお姉さまたちの中にいそうだなあ。美しい髪を、人魚姫のために捧げるお姉さま。それくらい、のむちゃんの心はきれいだ。


「うぅー迷う!ベリーとキャラメルどっちがいいかな?!」
「じゃあ僕ベリーにするからあ、のむちゃんキャラメルにしたらあ?キャラメルのほうがすきでしょお?ベリーはあ、期間限定だから気になってるだけでえ」
「わお!匠ちゃんさすが!お言葉にあまえてもいい?あまえるよ?ヤッター」
「むしろ僕が甘えてるからねえ、おごってくれてありがとお」


今度は僕の番ねえ、と言ったらのむちゃんはありがと!と笑った。まだおごってないのに、すごい笑顔でお礼を言われてしまってちょっとくすぐったい。たれ目ののむちゃんが笑うと、目がもーっとたれてかわいい。


席について、パンケーキがくるとのむちゃんの目はキラキラし始めた。
いただきまーす!とはむり、パンケーキをほおばるのむちゃんはリスさんみたい。


「一哉にね、謝られたよお」
「浮気してごめんって?」
「うん、まあ、そんなとこお」
「今更?それで匠ちゃん、許したの?!」


のむちゃん、キャラメルソースが口の周りにいっぱいついてるよ!そんな顔で怒っても迫力ないよ!


「なんかあ…許すとか、許さないとか、もうそういうんじゃあないんだあ」
「そっか…」


好きになったほうが負け、とは言うけれど。


僕は戦うことすらできない。だからといって、人魚姫のように王子さまの幸せも願えない。

僕は一哉のことが忘れられない。だからといって、どうにかしようとする気持ちもない。


僕の立ち位置は、本当にぐらぐらしている。



「そういえば匠ちゃん、もう会長の親衛隊さんなの?」
「あ。」
「あはは、忘れてた?」
「入隊手続きまだだったあ…」


僕としたことが…

一哉が学園に来るって知ってから、なんとなく落ち着かない日々を過ごしていて、手続きしようって気持ちにならなかった。まだ間に合うのかな、入隊って。



「親衛隊はいつも受け付けてるみたいだよ、でも今回歓迎会があの方式だったでしょ?」
「?あの方式ってえ?」
「全員、生徒会のひとと話せる機会があったじゃない?ついでに言うと風紀も」
「風紀委員のひともいたんだねえ」
「ホラ、生徒会の列の先頭でべりべり人をはがしてたのが風紀だよ」
「あああ。なるほどお」


まあ、僕は列に並ぶこともなかったからはがされる機会はなかったけれど…


「あの方式きっかけなのか、今年の新入生は入隊希望者が多いって!」
「えええ、全員入れるのかなあ…」
「直々にスカウトされてたら大丈夫らしいんだけど、そうじゃない人はちょっと制限されるかも」
「相変わらずくわしいなあ…ううう、でも親衛隊入れなかったらどうしようかなあ…まぁ、生徒会にこだわる必要もないし、そのときは考えよーっと。あ、それか村崎くんのとかあ?」
「そうだね、村崎慶のはこの前発足したばかりだもんね!」


結局、どこでも入れればいいからそんな深刻になる必要もないか、と思いながら、僕はぽっけに入った生徒手帳を取り出した。歩先ぱいからもらったミニチラシはサイズがちょうどいいからここに入れている。


「え!それ!匠ちゃん!」
「えー?」



「★入隊方法★」と書かれている欄を見ようとおもって目を走らせていると、のむちゃんがあわてた声を出した。

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