にせものamabile。 | ナノ

 F-dur 7

「…タクミってさ」
「んー?」
「こんなに強引だったっけ?」
「ゴーイン?なにがー?」
「何がじゃないっ!」



隣に座るふみくんに、チョップされた。暴力反対!



「のむちゃんちの車が近くにいるっていうから、お言葉に甘えて乗せてもらっただけでしょ!ねー?のむちゃん」
「ねー!!」



車内で盛り上がる僕たちを無視して、ふみくんは何やらぶつぶつ言っている。



カフェを出た僕たちは、ふみくんと一哉の学園に向かっている。のむちゃんちのなっがーい車に乗せてもらえたのはとっても感謝だ。



「ねえ一哉、一哉たちのとこの生徒会長?ってどんな人なの?」
「どんな人?難しいな…。穏やかで、でも自分の意見ははっきり言う人。人を引っ張ってくのがうまいっていうか…」
「なーんかすごい人だねえ…」




のむちゃんが感心したように言う。「園田会長も、猫かぶってるときはそんな感じだよね!」なんて余計な一言を添えながら。




「まーその分ちょっと近寄りづらさはあるけどな。アヤさんとはすげえ仲良いけど」



1年のときから同室だったらしい、と一哉は教えてくれた。



「俺はなんとなーく嫌われてる気がしてたんだよな」
「一哉が会長に?」
「そ。生徒会で一緒だったけど、ふと視線を感じてカナメさん、あ、会長のことな、カナメさんのほう見ると、睨まれてる?と思ったり」
「なんか嫌われるようなことしたの?」
「んーーー…。あ、でも他の先輩に、"あんまりアヤさんアヤさん言ってると会長に呼び出されても知らないよ"とは言われたことあるな」
「はー?!それじゃん!原因絶対それじゃん!ばか!」
「なっ、ばかってなんだよ!」




なんかこれ、ものすごく単純な話なのでは?




「…一哉は、リン君のことがすきなんじゃないの?」
「だから、あいつって何考えてるかわかんなくて…勝手に留学決めたりとか、」
「そうやって、またひとのせいにするんだね」
「…、」
「僕とのことも、そうやって正当化してたよね。"リンが俺のことがすきだとは思えなかったから"みたいな。」
「それは…」
「責めてるわけじゃないよ、何も変わってないなあって、思っただけ」
「匠ちゃん…」



責めてるのかな。そんなこと言える立場でもないのに。



「偉そうなこと言ってごめん。僕もいっぱいいっぱいで、ひびきに変なことしちゃってるのかもしれないのにね」



「変なことって?!」とキラキラするのむちゃんはひとまず置いておこう。



「リン君と、ちゃんと話し合ってね。ふみくんにも言ったけど、ちゃんと話さないと伝わらないから。僕、こうして一哉と話せて嬉しかったよ。それはきっと、あのときちゃんと言いたいことを言えたからだと思う」




だからこそ、僕は"ここ"にいて、そのとなりには、ひびきがいてくれるんだ。


ああ、ひびきに会いたいなあ。




「だから、ふみくんにも後悔してほしくないなって思うんだよね」



ふみくんをちらりと見ると、現実逃避なのか目を閉じて深く息をしていた。



「一哉、会長さんから返信かえってきた?」



実はさっき、ふみくんから話したいことがあるって伝えてもらったんだ。会長さんは、どんな顔をするんだろう。



「ああ、返信どころかめちゃくちゃ着信が…」
「そろそろ着くみたいだよ」
「…じゃあ無視でいいか」



一哉は電話に出ないことに決めたらしく、電源を切ってぽっけに携帯をいれた。




「アヤさん、着きましたよ」
「やだっ!」
「アヤさん〜」



運転手さんがドアを開けてくれたけど、はじに座るふみくんは車にしがみついている。

とりあえず僕たちは降りて、みんなで引き剥がす?!なんて相談しているとき、声がした。





「アヤッ………!!!」





誰が聞いても、必死とわかる声だった。





その声に、ぴくりとふみくんが反応する。それはふみくんの意志とは別のところで行われたようで、



「アヤ」



もう一度呼ばれたときやっと、ふみくんはその人の方を見た。




「カナ、メ…」



はらり、ふみくんの瞳から一筋涙が落ちて、

なんとなく、ふみくんはもう、大丈夫なような気がした。

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