にせものamabile。 | ナノ

 F-dur 6

「…」
「…」
「…」
「…ふみくん、久しぶりだね、少しだけ」
「うん」
「…」
「…」
「…」



席について、へんな沈黙の中ふみくんに話しかけたけど、やっぱり沈黙は続く。



「一体どうしちゃったの、ふみくん。いつもあーんな分厚い手紙送ってくるくせに」
「ちょっ、タクミ!変な言い方困るよ!」
「だって!」



いつもいつも、すごーくちいちゃい文字で何枚も何枚も手紙を送ってくるのに。伝えたいことがたくさんあるからそうしてくれていたんじゃないの?

せっかく会えたのにどうして黙っているの?



「…そういえばふみくんと一哉、友だちだったの?」
「友だちっていうか…」



ふみくんが言い淀んだ。



「なに、付き合ってるの?」
「え!なっ、ないないないない!ない!!!!」



ぶんぶんと首を振るふみくんに、「アヤさん、否定しすぎですよ」と一哉が苦笑する。「なーんだ、つまんないの」と呟くのむちゃんはこの際無視しよう。




「生徒会には戻ったんだよね」
「うん、」
「そこでうまくいかなかった?」
「…」
「話したくなったら、手紙で足りなくなったら、いつでも電話してきてね?」
「…ふふ、ありがとう。でもそんなことしたら、園田に怒られるよ」
「そんなので怒るほどちっちゃくないよ、ひびきは」



ぱちぱち、とのむちゃんは小さく拍手している。これも無視していいよねきっと。



「…タクミは、タクミたちは、そうやって前に前に進んでいるんだね。俺、戻ったけど、なんも変わってないんだ。タクミと出会って、変わりたいって、そう思ったのに、でも無理で、それで…」
「うん」
「本当は、ちゃんと話したかった。ほら、前に話したでしょう、俺、生徒会長にならなかったって。会長を任せたやつにはろくに話もしないで転校したし、ちゃんと謝りたかった。でも無理で…」
「どうして?」
「え、」
「どうして無理だった?」



どうして、だろう…。ふみくんはぽつり。



「これ以上、幻滅されたくない、というか、近づいて、つまらない人間だって知られたくないのかもしれない。ほら、俺って何もないでしょう」
「アヤさんがつまんないなんて、絶対そんなのないですよ!」
「いやカズヤに言われても…」
「そんな…」




しゅん、と落ち込んでしまった一哉。意外な一面を見てしまった気がする。ふみくんの前だと、こんな風にくるくると表情がかわるんだ。



「一哉は、まだリンくんと付き合ってるんだよね」
「…一応」
「なにそれ」


呆れる…。


「あいつ、何考えてるか分かんなくて。最近はアヤさんと一緒にいることの方が多いかもしれない」
「カズヤのこと振り回しちゃってるんだ、俺。今も付き合ってるフリしてって頼んで、こんなことになってる」
「……は?」



「なにその楽しい話?!」とのむちゃんが目を輝かせたところで、注文していた飲み物がやってきた。

僕は深呼吸がてらあつあつのココアにふう、と息を吹きかける。



「なんというか、そのほうが都合がよかったから…」
「ちょっとうまくついていけないんだけど…その会長さん?から告白されたの?」
「えっ、ないないないない」
「さらに意味がわかんないよ…」



自分のことを思い出す。

僕は恋に疲れて、親衛隊に入った。もう誰からも、近寄ってほしくなかったから。



一哉をちらりと見る。彼はそんな僕に気づかず、コーヒーをすすっていた。



「なんのために付き合ってるふりなんかしてるの」
「なんのためだろう…距離がかわらないように、かな」
「…それは、距離が縮まることも含んでるね」
「えっ…」
「ちがう?」



誰かと深くかかわることがこわくて、僕は逃げていた。そうすれば、傷つかない。誰も、傷つけない。

ふみくんも、そうなんじゃないかな。




「ふみくん、たしかに近づかなければ、これ以上傷つかないね。でも、」
「…でも?」
「近づかないと、伝えらんないよ。伝えようとしないと、何も伝わんないよ」




それは、ふみくんが教えてくれたことでもあるでしょう。



「みんなさ、自分のことじゃないとよく見えるのにね。不思議だね。自分のことだと、すぐ見えなくなっちゃうね」
「タクミ…」
「でも、まだ間に合うよね。何回間違えても、歩き続ければ進むんだよね」
「タクミぃ……」



ふみくんはいつかと同じようにぼろぼろと泣き始めて、のむちゃんと一哉はちょっとぎょっとしていたけれど、

僕はなんだかデジャヴだったからちょっと笑っちゃって、

「弟がいたらこんな感じかな〜」なんて言ったらさすがにふみくんに怒られたのでした。

prev / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -