▼ F-dur 5
なにがただしいのかなんて、選ぶときはわからない。
選んだあとも、きっとわからない。
だけど。
通ってきた、その道のひとつひとつがいとしいから、
この道を選んでよかったって、心から思うよ。
「匠ちゃんにはやっぱり可愛いの着せたいよね多分意見は分かれると思うけどあくまでも僕は男の子として可愛いのを着せたい派なんだよなでもあえてちょっとクールなのにして前髪あげちゃったりするのもアリっていうかそれってかなりいい案だと思うけどそういえば文化祭で」
「のむちゃん、息継ぎして?」
「してるしてる!」
「絶対してないよそれ!」
もう、とのむちゃんを睨んだら、のむちゃんはへへへと笑った。楽しそうで何よりだけどさ!
今日はのむちゃんと街に出てきた。のむちゃんと仲良くなった頃には僕は学園に閉じこもっていたから、そういえばこうしてお買い物をするのは初めてだなあ。
「匠ちゃん、嬉しそう」
「のむちゃんもねー」
「うん僕も嬉しいだって匠ちゃん着せ替え人形のように好き勝手していい日だし僕楽しみで仕方なくて昨日はずっと」
「だから、息継ぎ!」
「してるってば〜」
のむちゃんのたれ目がもっとたれて、「ぐふふ」とのむちゃんは怪しく笑うのだった。
「のむちゃん、最初どこ見るの?」
「ここからだと少し遠いんだよねー、とても歩く!でも匠ちゃんが車は嫌だって言うから!」
「嫌っていうか!車で送り迎えなんて恐れ多いよ!僕、1時間くらいなら頑張って歩くよ!」
「いやいや、そのレベルなら電車乗って?!そこまでじゃないよ、10分くらい!」
「へ?!近!」
「近くないやい!」
「これだからお坊ちゃんは!!行くよ!!」
「そっちじゃないよ、こっち!!」
「もー!案内して!」
「匠ちゃんが勝手にずんずん行っちゃったんでしょうがー!」
ああ、楽しい、楽しいなあ。
「よし、行こうー!…って、あれ、」
「どしたの匠ちゃん」
進もうとしたその先、見覚えのあるシルエットと金色のきらきらに目を奪われる。
少し遠い、でもきっと、僕は間違えない。
「ふみくん?!」
聞こえると思ったわけではないけど、勝手に声が出ていた。
なんでこんなところに?とか、元気だったかな?とか、そういうのを考えるのよりも早く、名前を呼んでいた。
ぱっと金色を散らしながら彼は振り返る。
「タクミ!!!!!」
やっぱりふみくんだ!!
こんなところで会えるなんて、と驚いていたら、ふみくんはその長い脚で僕の方に向かって走り出す。
ふみくんの向こう側に見知った顔を見つけてしまって、少しだけざわり。
なんで、
なんでふみくんと一緒にいるんだろう、
一哉。
気づいたときには見上げるくらい近くに走り寄ってきていたふみくんは、そのまま僕をぎゅーっと抱きしめた。
「、へ」
「タクミ、タクミ、」
またふみくん、何かとたたかっているのかな。
「ちょっ!!!園田会長に殺される!特に僕が殺される!!!離れて!!!」
のむちゃんにべりっと引きはがされて我にかえると、ふみくんは「わ、ごめん、」と自分でもびっくりしたような顔で僕たちに謝った。
「ふみくん、どうしてこんなところにいるの?」
「えっと…」
ふみくんはちらりと後ろを振り返る。向こうにいるのは、やっぱり一哉で。完璧に蚊帳の外の彼は少しだけ困った顔でこちらに歩いてきた。
「あ!そう!便せん買いにきた!あのね、タクミに書く手紙の!見る?!あ!でも見せたら楽しみが減っちゃうから見せない!」
「…」
「…タクミ?」
「ふみくん、まだそんな顔してるの」
「えっ…」
「元の学校、やっぱり大変?」
「いや、その…」
「ごめん、言いたくなかったら大丈夫だよ」
矢継ぎ早に、責めるように、ふみくんに問いかけてしまった。傷つけたいわけではなかった。
「…ねえねえ、こんなところで立ち話でもなんだし、カフェでも行きません?」
のむちゃんが挙手しながらそう言ったので、僕たちは彼の後ろをついてお店に入ったのでした。
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