▼ F-dur 3
「匠、」
ぎゅ、とひびきがその力を強める。
ああ、満たされる、満たされて、心が震えてしまう。
ひびきは僕の首筋をぺろりと舐めた。そしてからだまで震えてしまった僕に、「可愛い」と笑う。
「、くすぐったい」
「くすぐったいだけ?」
「なんか、」
「なんか?」
ぞくぞく、する。
「言わないとわかんねえんだけど?」
つつ、と触れるか触れないかくらいに、ひびきが僕の首から耳にかけてゆっくりと舌を這わす。僕はもうそれだけで声が出そうで。
「ほとんどなんもしてねえんだけど、まだ」
ひびきが僕を見下ろして、いじわるく笑った。
彼の言うとおりだ。首筋以外、どこも触られてない。
でも、もう知ってしまった。
このあとにはあったかくてふわふわして、おかしくなっちゃうくらいきもちいことが起きるって、からだが覚えてしまった。
だからそれだけで、全身があつい。
「やーらし」
「や、」
ぷちり、ぷちりとボタンを外すひびきの手首をつかむ。けれど力が入らなくて、抵抗らしい抵抗はできなくて。
「なんでたってんの?」
「、ぅあ」
「まだ触ってねえのに」
そんなことを言われながら親指で乳首をつままれて、はずかしくてはずかしくて顔に温度が集まるのがわかった。
「泣くなよバカ」
「泣いてな、」
「泣いてもやめてやんねえよ」
ぼやけた視界の中でひびきは、"俺だけ見とけよ"と言った。その視線は熱くて、またそれは僕をはずかしくさせた。
「わ、脱がさないでっ、」
「暴れんな」
「じゃあひびきも脱いでっ」
「…」
「そうやってすぐむしするっ」
なんで僕だけズボンまで脱がないといけないの、ひびきも脱いでよ。
「恥ずかしがってる匠も可愛いな」
「なっ、」
「感じろよ、いつも生活してるこの部屋で、おまえは俺に食われるんだからな」
「〜!」
そうだ、ここは僕の部屋で、いつも過ごしてるところで、奥にはピアノのある防音室もあって、
そしてこれはいつも寝ているベッドで。
「っいじわる、」
「今さら?」
「〜!あいっかわっらず!!」
「"相変わらず"匠は可愛いけどな」
ちゅ、とひびきはおでこにキスをした。今さらそんなに優しくしても遅いよばか。
そのまま唇にもそっとキスをされて、するりと入ってきた舌は僕の舌をつかまえる。
「ん、ひびき、」
「ん?」
「ぁ、」
もうだめだ。もうだめだ。頭がまわらなくなってきて、世界にはひびきと僕と…この温度だけな気がしてくる。
だからいつの間にかすべて脱がされていることに気づくのも遅くなって、ちゅ、ちゅ、と頭から足まで全身に唇を寄せるひびきは満足そうに僕の方を見た。
「いっ、」
「ふ」
笑われた!ふっ、て!ひびきのせいなのに!ひびきが僕の肌に吸いついて跡をつけていくたびにちくってする…!
「見えるとこにしないで、」
「何で?」
「ばれちゃうから!」
「ばれてんじゃん、」
匠が俺のものだって。とひびきは言った。僕の右手を取って、甲にキスをした。
「けど見えないとこならいいって意味にも聞こえるな、それ」
掠れた声で、ひびきはそう言った。
そしてそのまま指をじっくりと観察される。何してるの、と聞いたら、「この指があの音出してんだよなあ」と返ってきた。
いとしい、いとしいという目。
でも。
「そろそろ食っていい?」
ひびきのきれいな唇から、ぺろりと赤い舌がのぞいた。
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