にせものamabile。 | ナノ

 H-dur 7

自分が情けなくてしょうがない。




…ってしばらく思ってた。
思ってたけど!!!


「やっぱりちょっとひどいよねえ?!たしかに僕わるいよ?自分のことばっかだなっておもったよ?」


でもさ。でもさ!


「ちょっとは僕の話聞いてくれてもいいでしょお!あのひといつもそう!いつも勝手に自己完結して僕をカヤノソトに追い出すんだよねえ!!ってみんな、聞いてるぅ?!」
「「「あ、うん、」」」


ぐるりと見回す。今日はのむちゃんと夜ご飯を食べに食堂に来ていて、たまたま潤ちゃんと遭遇した。

潤ちゃんはなんと!真中雪ちゃんと一緒で。潤ちゃんは雪ちゃんの親衛隊長になったわけだけれど、仲良くやってるんだなあってなんとなく僕までうれしくなる。


潤ちゃんは、「雪さまー!」と目をハートにしていて、視線だけでもお腹いっぱいなレベルだけれど…。




潤ちゃん、雪ちゃん、のむちゃん、そして僕。

4人でごはんを食べながら、週明けに控えた文化祭の話をしていた。僕がピアノを弾くことを知った潤ちゃんはとっても喜んでくれて。

でも僕は響会長とのやりとりを改めて思い出してしまって、なんだかこう、こみ上げてくるものが…。


「僕はただ、聴いてほしかっただけなの!」


そうだよ。つまりこれは、僕のエゴだ。


けれどこの育ってしまった気持ちは、音にのせてしまわないと溢れてしまうよ。



あぁ、そうか。



ー 心をこめて。


先生が言っていた意味がやっと分かり始めた気がする。ずっと、「僕には こめる心なんてない」って思っていた。けれどいまは、「聴いてほしい」と思っているいまは。


「響会長に、聴いて、ほしかったんだもん…」


間違えないように弾くとか、丁寧に弾くとか、そんなことは越えて。自分の音を聴いてほしい。自分の音が響いてほしい。先生は、そういう気持ちで弾くように言っていたんだ。



ふぅ、とため息を吐くと、潤ちゃんはおそるおそるというように言った。


「匠ちゃん、変わったね…」
「へ」
「園田さまへの想い、っていうのももちろんそうだけど、僕たちにそういうとこ見せてくれるのって今までなかったから」
「たしかに!匠ちゃんて、あんまり人に興味持たないっていうのもあるけど!ピアノ一筋!って感じだったし」


のむちゃんもそれに同調して、ウンウン、と頷いている。でも、結構僕は周りのひとに興味を持っていると思うけどなあ。


「少なくとも、のむちゃん、潤ちゃん、雪ちゃんには興味あるよお?津々だよお?」


みんなのこともっと知りたいし、僕のことも知ってほしい。もっともっと仲良くなりたい。


「そこ!そういうとこ!」


ビシッとのむちゃんは僕を指差す。そこってどこよ?


「なんか素直!」
「あー」


なるほど。だって、伝えないとだめだって、分かったから。



「会長が匠くんを変えたってことなのかな」


雪ちゃんが、ぽつり。その顔は、なにかを考えているようにも見える。


「…ちなみに雪ちゃんはぁ?」
「え?」
「すきなひと、とかいるのぉ?」


響会長の気になるひとがほんとうに雪ちゃんだったとしたら。雪ちゃんも同じ気持ちならふたりは付き合うかもしれない。


響会長と雪ちゃん…お似合いだなあ。


「もしかして、僕が会長のこと好きなんじゃないか、とか考えてない?」
「え」
「それはないよ!会長とは仕事の話しかしないし」
「そ、そうなんだあ。知り合いだって聞いたから、」
「あー…。理事長、分かる?」


理事長って、響会長の言う"カケル"のことだよね。響会長とは従兄弟だって聞いたけれど。


「僕、理事長と幼なじみなんだよね」
「あ、そうなんだあ!」
「理事長と園田会長は親戚だからね、僕も知り合いって言えばそうだけど、特別仲がいいわけではないよ!」



そっかあ、ちょっとだけほっとしてしまった自分がいる。


「とりあえず、園田さまと話した方がいいんじゃない?」


潤ちゃんの言うことはもっともだ。こんな気まずいままいるなんて、ぜったいにいやだ。でも、ちゃんと、伝わるかなあ。


僕は響会長のことを応援していなかったわけじゃない。けれど、文化祭に来られない理由が城崎さんっていうのに引っ掛かったこともあって、"認められたい"と努力していた響会長の話、ちゃんと聞いてあげられなかったのも本当で。



「あれ?誰か携帯鳴ってない?雪ちゃん?」
「あっ…僕だ。メール…ごめん、生徒会から呼び出しだ」


雪ちゃんは慌ててメールを返信している。



「雪ちゃん、そのメールって園田会長から?」
「うん、一斉送信だけどね?」


響会長からのメールかぁ。


「いいなぁ…」



雪ちゃんは「行ってきます!」と生徒会室に向かって走っていく。その背中を見つめながら、僕は何度目か分からないため息をつく。


きっと数日後の文化祭に向けて、生徒会は忙しいんだろうな。つまりどちらにせよ、文化祭が終わるまでは響会長と話せないわけで。謝れないわけで。


「2曲目、他の曲弾くかなあ」


過去の発表会に弾いた曲も、たまに練習しているし。この数日があれば、時間がないというわけではないと思うし。


みんなが聴きたいと言ってくれたワルツを弾くだけでも、じゅうぶん、はなまるなんじゃないかな。

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