触れて。




謙也の気持ちが離れそうになるが光が頑張り最後はハッピーエンド
安野さまリク







「ごめん。もう俺にはお前は手に負えんのかもしれへん。何考えてるのかもわからんし、好かれとる自信もまったくない。光の機嫌ばっかり気にして、俺ばっかり一生懸命になるのにもう疲れた。なぁ、俺たちちょっと距離置こう。」



謙也さんから告げられた言葉。何を意味しているのかよく頭に入らない。ただ、ひとつだけわかったのは、俺の無意識な行動が謙也さんを少しずつ少しずつ傷つけ続けていて、それがとうとう爆発した、ということだけや。




ただの先輩後輩やった俺らの関係を恋人同士に変えたのは謙也さんやった。切羽詰まった声で顔で、一生懸命俺のことが好きやと言ってくれた。不思議と男同士やという嫌悪感はなかった。謙也さんはきっと俺のこと大切にしてくれる。気がつくと俺はもう頷いていた。謙也さんは本間に嬉しそうな顔で笑った。



そう、俺はまだ恋愛というものを全然分かっていなかったんや。



俺も確実に謙也さんのことを好きになっていったのは確かやった。あったかくて優しい謙也さんと一緒にいると癒されたし、俺が何も言わなくても俺の考えていることをくみ取ってくれることも居心地が良かった。俺は、謙也さんは俺のことを好きなんやから常に全力の愛情を俺に注いでくれる、きっとそれだけで十分なはずやという大きな勘違いをしていた。



謙也さんと恋人同士になったからと言って特に変わったことなんてなかった。しいて言えば一緒に帰るようになったことと休みの日に二人で遊ぶようになったこと。手をつなぐことなんてしなかったし、抱きしめられたこともない。ただ、キスを拒んだことならある。そのときはまだどうしても男同士と言うのが頭にちらついてだめだった。気がつくと俺は謙也さんから顔をそむけていた。


家に帰って飯を食う気にもならず、ベッドに体を預ける。俺、今まで気がついてなかったけど、何回謙也さんのこと傷つけたんやろう。何回不安にさせたんやろう。もしかしたら、付き合い始めてからずっと不安な気持ちのままやったんかもしれへん。キスやって本間はしたくなかったわけやない。気恥ずかしさとか世間からの目とかが気になってしまったけど、俺はもう謙也さんのことちゃんと好き。キスやって…。



決めた。俺がしっかりしないとこの恋愛は終わってしまう。俺の方から謙也さんにちゃんと思いを伝えるんだ。








「謙也さん、おはようございます」
「おはよ、財前。」



次の日。朝練が珍しく無くて、放課後の練習で顔を合わせるのがきついなぁ、と思っていたし、謙也さんに避けられるんやないかと思ってたけど、そんなことはなかった。謙也さんは普通に俺と接してくれたし、話もしてくれた。せやけど確実に置かれた距離と、「光」と呼んでくれないことは想像以上に堪えた。でもあかん。ちゃんとせなあかん。これはきっと俺が今まで謙也さんにしてきたことなんや。






「謙也さん、今日一緒に帰りませんか。」
「あ〜…ごめん。今日白石と約束しとんねん。」



白石部長は大げさにため息をついて、謙也さんの頭を盛大に叩いた。




「誰が好んでお前と放課後デートなんかするっちゅーねん。」
「いった…お前なぁ!」
「お前らが喧嘩すんのは勝手やけど部活の雰囲気悪くすんのは俺が許さん。みんな、荷物まとめてさっさと帰りや。謙也と財前は和解するまで部室で話し合い。解決するまで帰るな。明日になってももめたままやったら二人にはラケットは握らせん。わかったな。」



部長がすごい勢いで指示を出して、部員はとっとと帰ってしまった。部長鬼やな。せやけど今日は感謝せなあかん。ここまで状況がそろったんやから、言うしかない。



「謙也さん、あの、俺…。」
「…距離置こうって言ったよな。そうした方が俺にとっても財前にとってもええと思ったから提案したんやで。それともこんなもんや気に食わんかった?」
「違うんです、あの、」
「そんなに嫌ならもうさっさと決着付けようや。もうええ。ただのチームメイトに戻ろ。他の部員もまだなんにも知らんし、普通にダブルスやってくためなら今が良い機会やろ。」
「謙也さん、俺の話聞いてください」
「今更何聞けっちゅーねん。今まで何にも言ってくれへんかったくせに」
「…今までなにも言えへんかった分頑張って話す言うてんねんから、ちょっとくらい俺に時間くれたってええやろ!!」



俺が大きな声を出すと、謙也さんは一瞬ひるんだ。その隙を狙って一気にたたみかける。



「俺、恋愛とか付き合うとか全然分かってなかった。謙也さんは優しいし、一緒にいて楽やし…簡単なのりで付き合い始めてもうた。せやから、普通の男女交際みたいなこと謙也さんとするの気が引けて………。謙也さんのこと本間に傷つけたと思う。本間に申し訳ないと思ってます。全部俺が悪い!せやけど、謙也さんも俺のこと好きなら、俺が恥ずかしゅうてしゃーなかったことくらい分かれや!!」




謙也さんの胸倉をつかんだ。俺の方に無理やり引き寄せて、一生分の勇気を振り絞って俺からキスをしようとした…けど、出来なかった。
謙也さんが、顔をそむけたから。…俺が、以前謙也さんにしたように。



「…そんな、急に言われたって俺やって頭追いつかんよ。お前俺に気遣ってくれへんくてもええねんで。無理させてまでそんなことしたないし。」



痛い。心臓がびっくりするほど痛い。キスを拒まれることがこんなにつらいなんて。話を聞いてもらえないことが、受け入れてもらえないことがこんなにつらいなんて。
つらい。こんなにつらい思いを、この人にさせてしまっていたことが何よりもつらくて苦しい。



「好きです。」
「………。」
「結局、一回も直接言えたことなかったから。俺、謙也さんのこと好きです。恥ずかしくて素直になれなかったけど、ちゃんとずっと好きでした。今も好きです。」
「…そんなん、言われたって、」
「簡単に信じてもらえへんの、仕方ないけど…。せやけど、」
「………。」
「財前って呼ばれるん、いやや」
「え、!」
「光って呼んでほしいです、謙也さん」



これ以上話すと泣いてしまいそうやった。謙也さんは俺の頭を撫でて、ぽつりぽつりと話し始めた。



「あんな、本間に不安やってん。これ以上一緒におっても意味ないんちゃうかなぁっていっぱい思ったし。逆に俺の気持ちがお前のこと追い詰めて付き合わせとんのかもしれへんっちゅー心配もあった。それにキスも嫌がるし」
「も、もう嫌ちゃいます!!」



素直になることがこんなにも難しくて恥ずかしいことやったなんて。せやけど、このまま謙也さんと別れるくらいなら恥ずかしい方がずっとマシや。



「…お前の言った通りや。めっちゃ恥ずかしがり屋やって分かっとったのに、自分のことでいっぱいいっぱいで今まで気づいてやれへんかった。ごめんな」
「………。」
「おいで…光」




おそるおそる謙也さんのほうに近づくと、腕をおもいきり引かれて抱きしめられた。顎をくいっとあげさせられる。顔を背けたりはしなかったけど、恥ずかしくて恥ずかしくて目をぎゅーっとつむった。



「可愛い。本間可愛いよ、光。」



自分のくちびるに謙也さんのそれが触れる。あぁ、キス、してしもた。さっきよりもさらに苦しい。ドキドキしすぎてつらい。幸せで胸がいっぱいになりすぎて息がとまりそうだ。
さっきまでがウソみたいに、本間に何にも話せなくなってしまった俺に、謙也さんは満足そうな表情で「光、光」と、何度も何度も名前を呼んでくれた。



「これからちゃんと、光のこと光って呼ぶから。お前とか財前とかもう使わへんから。せやから、光も俺のこといっぱい謙也さんって呼んでな。光がめちゃくちゃ恥ずかしがりなこと、これからは絶対忘れへんから。せやから光も忘れないで。俺が一回一回の『好き』にめちゃくちゃ気持ち詰めて伝えとるってこと、忘れないで。」



胸がいっぱいでうまく話せない俺は何度もうなずいて見せた。「光、ほっぺ真っ赤!」なんて言う謙也さんのくちびるを自分からスマートに奪える日がくるのはいつになることやら、なんて考えながら、めちゃくちゃ気持ちの詰められた謙也さんの『好き』を噛みしめた。





***
結局!甘甘!!
光ちゃんなりに頑張ったので許してくださいね!このリア充め!
安野さま、リクエストありがとうございました!





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